include/秋のサウダージ

入院していた。

10月の後半は病室にこもりきりで、11月になって出て来た外の世界は、赤と緑と茶色の葉っぱがブレンドされた美しい秋だった。

退院後も毎日病院に通わなくてはならなかった。長い長い待ち時間に私は、公園や川のほとりをひとりで歩いた。

誰もいない公園のブランコをきいきいとゆらすと、子どもの頃のことが思い出されて、ものすごく遠くまで来てしまったような気がする。

踏みつけになった枯葉の中に、ひときわあざやかな赤。

秋は私を含んで、そして吐き出して去っていく。サヨナラもSee youもなく、あっけなく忽然と。

場所を奪い合って押し出すのではなく、そっと次にバトンを渡す春夏秋冬の謙虚さと潔さにとまどう。私はまだ秋の手を後ろに引っ張って、この瞬間を引き伸ばそうとする。

あたたかい金色のイチョウの葉が、はらりはらりと落ちてはひるがえり、地面をぬくもりに変えていく。

その、光のような葉を見て、私はハッとする。秋は去る。そして、じきにあらゆるものが急速に冷え固まる。だから私に出来ることは、去りゆくものを追うのではなく、これからの季節に備えて、あたため直すことだ。

傷ついた人々を再生させる火のように、心の芯を、あたため直すこと。

毎日、病院では、再生が作られる。私たちは、再生を繰り返す。

私は過去の材料から再生のための<お話>を練り上げ、お菓子のアパレイユのごとく型に流し込み、焦げ付かないよう焼き上げて、ラッピングをかけてお店に並べる。自分だけのお店だ。量産もなし、予約もなし。

何のためだろう?

――何かを失い、同じように再生を求めている人に出会えた時、それぞれの<お話>を交換するために。

栞をはさむ時のように私は、立ち止まって深呼吸する。

この季節の<お話>にはさんだ栞は、強烈な意味をもちながら、抗いようもなくやがて、枯葉にうずもれていくんだろう。

湿った風が、今しがた固めたばかりの決意を諭すようにゆっくり吹き流れる。ひやりとした雨が、刺すように降りて来る。よく知っている街並みが、いくつも枝分かれして迷路になり、また私の目の前でくっついて、一本道を差し出す。

どの道を行っても同じことだ。方向が合っているなら、それでいい。

一本道でも荒野でも、どうせ行くなら、前を向いて行こう。



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