大塚国際美術館にて
先月、大塚国際美術館へ行った。
徳島県鳴門市にある大塚国際美術館は、世界初の原寸大レプリカ美術館だ。陶器の板に絵を焼き付けるという技術によって、世界の名画が千点余も複製・展示されている。オリジナルの作品は一点もない。そんなユニークな美術館に、いちど来てみたいと思っていた。
名画を巡る館内ツアーについていくと、ガイドさんが作品群をわかりやすく説明してくれた。来館者の「好きな絵画」アンケートによる館内ベスト10を巡るツアーだから、ピカソやモネやフェルメール、私にもわかるものばかり。レプリカ=ニセモノと聞くと、ついそれなりに気がゆるんでしまう。
写真撮影もOK、自由に触ることもできるから、人気作品の前には長蛇の列ができていた。SNSにツーショットで投稿されまくるモナリザをダヴィンチはどう思うかな、とか、のんびり考えながら通り過ぎる。
ムンクの絵の前にきたとき、ガイドさんは絵の中のある箇所を指差した。
「この絵の赤いところに、鉛筆で『狂人のみが描きうる』と書いてあるんですよ。」
それはあの『叫び』の絵だった。生涯の憂いが彼を狂人のようにさせ、作品の中にそれを刻まざるをえなかったのでしょう、そんなことをガイドさんは教えてくれた。陶板のニセモノにもその筆跡があるのだろうか? 近づいてもっとよく見たかったけれど、人だかりがそれを阻んだ。
「すげえ、『最後の晩餐』ってこんなに大きいぜ。」
「ねえママ、『睡蓮』のここだけすごく暗い。」
小学生たちがそんなことを話している。きっとこのうちの誰かは、将来いろいろな国の美術館で本物の絵を目にし、それを描いた画家たちの魂を探求することになるのだろう。そう想像すると、その小さな夢が芽生えた日の風景に居合わせるのは、とても幸せなことのように感じる。
目の前にある作品が全部ニセモノとはいえ、世界中の名画の知識がひとところに集まり、いっぺんにその解説を聞いたり、思いを馳せたりすることができるのは、すごく贅沢なことかもしれない。
山の中にひとつの美術館がすっぽり入っているのだから、とにかく広い。アプリによると一万歩近く歩いていた。一番上のフロアまで行くと広い庭園に出る。ぬくぬくと心地よい陽だまりで多くの人が一休みしている。海が見え、風がさわやかに通り抜ける。ここでほっと一息。
芸術鑑賞って、なんだろう。濃い感覚世界に到達できた人だけに見える色や聞こえる音、そういう人にしかつきつめられない真実を、私たちはギリギリまで手を伸ばして、あわよくば分け与えてもらおうとしているのだろうか。ムンクの筆跡を見てみたいな。所蔵は、オスロ国立美術館。ええと…
ノルウェー?
ギリギリまで手を伸ばしたら届くだろうか。ノルウェーは遠い。自販機で買った見慣れないエナジードリンクはなんともいえない味がして、胃を刺激した。
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いつもスキやフォローをありがとうございます。新しいことを始めたくて、投げ銭記事にしてみました。このさきはおまけです。かなりゆるっとした感じで大塚美術館とうずしおとラーメンの旅日記みたいなものを手書きで書いています。(ためになることはなんにも書いてません)
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