美しくうるわしく/flowery

春はあけぼの。ようよう白くなりゆく山ぎわ、すこし明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。『枕草子』

新元号の発表が注目される朝、窓の外を見て、なぜだかふと枕草子の冒頭を思い出した。「あけぼの」というほど早起きはできなかったから、紫だちたる雲はすでに風にさらわれてしまっていたけれど。ふっくらとした雲がかろやかに浮かんだ青空の下で、花のついた木々が、風にゆれている。

すっかり花の季節だ。

美辞麗句に飾り立てた文章のことを英語で「flowery」ということを知ったのは、英語のレポートに評をもらった時のことだ。日本語でも英語でも、形容詞や副詞を余分に書き足すのが私の文章の良くないところらしい。折に触れて肝に銘じなくてはと思うけれど、美しくうるわしい言葉の花びらならいつだって、こぼれそうなほどまき散らしたくなる。

それにしても、花々の咲き巡るこの季節は、世界中がfloweryなテキストにあふれているような気がしてワクワクする。自然をじっと観察することは、神さまからの「知」の手紙を読み取ろうとすることに他ならない。並木道に差し込む木漏れ日も春の嵐に踊るチューリップも、神さまからのメッセージをはらんできらきら光っているように思える。

ぐいと顎を上げると木々の枝先には意欲がみなぎり、空に出来るだけ近づこうと高く伸びているような気がする。ぽんぽんと咲いた花弁は育ててくれたその幹をはなれて、ひらひらと舞い降り、他の花びらと混ざり合いながら流れ去って、世界に還る。

行き先は風まかせ、行きたいところへ皆行けるかと言うとそうではないから、親の幹はせめて条件の良い時をねらって、子の手を離して送り出すしか方法はない。なぜだか木の表面に耳をくっつけてみたくなるのは、彼らのしずかな祈りに感じ入ってみたいからかもしれないな、なんて。

美辞麗句なテキストを頭の中に思い浮かべながら、ふらふらふわふわと、泳ぐように並木道を歩いて帰る。私もまた梢から旅立ち、世の中を渡り歩いている人間のひとりだ。

帰宅してテレビをつけ、新元号は『万葉集』からだと知った。floweryに満ちあふれた自然を書き残した古典から新しい区切りをもらい、連綿と続けて来た知の旅の先を、地上へ降りて来た私たちはこれからも目指していく。

でも、小波のように寄せては返す子どもたちの喧噪は、ただ明日がくるまで今日を、精いっぱい楽しもうとしている生命の元気さそのものだった。





―――

読んでくださってありがとうございます。エイプリル・フールだったことなんて、すっかり忘れてしまってました。


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