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【取材記事】古着も認識もひっくり返す、「足さない」デザイン思考で既存のモノから新しい選択肢をつくり出す

富山県高岡市に構えるデザインスタジオROLE(ロール)は、企画から共同する珍しいデザインスタジオ。歴史あるモノづくりや食文化が豊富な地元高岡市をフィールドに、“モノの背景を大切にする”デザイン活動を行っています。今回は古着の再生プロジェクト「ROLE YOURS(ロールユアーズ)」や、高岡市と共同し、民間企業への展開も期待されるヤレ紙を再利用した名刺づくりなど、循環型社会の実現に貢献する新しい取り組みについて、代表の羽田様にお話を伺いました。

【お話を伺った方】

羽田 純(はねだ じゅん)様
デザインスタジオROLE 代表・デザイナー
1984年大阪出身。ギャラリーのキュレーションを8年間担当後、2015年、富山県高岡市にて事務所を開設し、スタジオ「ROLE」設立。現在は富山県を拠点に、デザイン・プロジェクトのほか、
ジャンルを横断しながらさまざまな『活動』の魅力をデザイン。
JAGDA、TOYAMA ADC、高岡伝統産業青年会会員。

【受 賞】 TOYAMA ADCグランプリ・準グランプリ・富山ADC賞・会員審査賞・審査員特別賞/とやまクリエーター大賞/富山県デザイン展 大賞・グラフィック部門賞・U30賞/富山コピーライターズクラブ 準クラブ賞/北陸コピーライターズクラブ特別賞/北日本新聞広告賞 特別賞/ゴールデン ピン デザインアワード ベストオブデザイン賞(台湾)/メキシコ国際ポスタービエンナーレ、ブルノ国際グラフィックデザインビエンナーレ、ラハティ国際ポスタービエンナーレ、世界ポスタートリエンナーレTOYAMA 入選 他多数


■足さない、をつくる、“あたらしい古着”のリユースプロジェクト「ROLE YOURS」

mySDG編集部:はじめに、創業の経緯からお伺いします。

羽田さん:デザインスタジオROLEは、大学卒業後に立ち上げから参加し、運営に携わっていた高岡市にあるギャラリーから独立するかたちで創業した事務所です。市街地に構えるギャラリーは地元の美大と行政、民間が共同で運営しているサテライト施設のような場所で、当初は美大生作品の展示が中心でした。しかし、もっと地域にオープンなギャラリーにしていきたいと思い、町の職人たちにアプローチして高岡市のモノづくりや食文化の企画展など、年間30ほど作りました。

例えば、富山県には、お祝いに鯛の細工かまぼこを贈る風習があるのですが、需要の少なくなっていく細工かまぼこをあらためて見直そうという企画を立てて、組合と共に展覧会を開催しました。こうした企画展を8年間続けていく中で「社会課題」に対し、企画という形で取り組んでいく基礎が培われていきました。
デザインについては、展覧会の告知のために独学で学び、その後デザイン事務所として独立、デザインスタジオROLE(ロール)を立ち上げることになります。
今はグラフィックデザインを中心に、背景を大事にして「企画プロジェクトから一緒に考えていく」クライアントワークをしています。実績としては、地元大手の和菓子メーカーの中尾清月堂さんと共同で、日本初「レンジでチンする専用のどら焼き」商品化や、地元職人たちと共に、産業観光系イベントの企画・開催などをしています。このように、デザインスタジオROLEは企画から携わるデザイン事務所なんです。

mySDG編集部:「ROLE YOURS(ロール ユアーズ」について教えてください。

羽田さん:「ROLE YOURS」は消費循環に新しい楽しみ方を提供して消費者と共に環境負荷について意識づくりの気づきを考えるプロジェクトで、“作らないを作っていく”をテーマにしています。

発端は、東京の「ALL YOURS」というアパレルブランドのプロジェクトで、東京のある駅で一定期間、通行人からいらない服を集めるという実験的な試みでした。その結果、集まったのは約3トンの古着。服として着られないものは、リサイクルリユース繊維として循環させ、着られるものの中から特にTシャツをテーマにした企画を何かしないかと相談をいただきました。
当初は、Tシャツのプリント柄の上から「ROLE YOURS」のロゴを重ねてプリントし、レイヤー的なデザインで再販する案もあったのですが、それではデザインの面白さが目立ってしまうので、背景の部分をより強く伝えられる他のアイディアはないかと考えたんです。

mySDG編集部:「ALL YOURS」のブランドは、各アイテムがベーシックなデザインで、“愛着を持ってずっと着ていく”ことをテーマに服づくりをされているようですね。ブランドコンセプトがSDGsやサステナビリティに関連しているように思えます。

羽田さん:そうですね。代表とは以前からの知り合いで、普段から話す機会も多く、意見も合いまして、今回タイミングもよかったので「ROLE YOURS」をスタートしました。ALL YOURSの一番の特徴は機能に特化しているところです。しわがつきにくい加工を施したり、速乾性を追求したり、着回しの利便性を高めています。“生活の中から服に関するストレスを取り除いていく製品を目指す”というコンセプトを掲げています。
「ROLE YOURS」のプロジェクト名も「ROLE」はデザインスタジオ名から、「YOURS」の部分は「ALL YOURS」からもらいました。


写真左:ROLE YOURSの商品。『+0』のワッペンを胸のワンポイントに。
右上:工業用のマシンで抗菌加工 右下:Tシャツの表裏を裏返しに加工。

mySDG編集部:「ROLE YOURS」一番の特徴はどんなところですか?

羽田さん:一番の特徴は裏返してあるという見た目ですね。古着回収後、リユースTシャツを抜粋し、岡山の工場へ運んで抗菌加工を施します。古着の匂いの原因でもある菌を不活性化する加工をしてから裏返します。
単純な工程の中に、実は二つの機能が加わっています。まず抗菌加工が付いたということと、Tシャツを裏返すことで肌あたりがよくなったこと。僕には子どもが4人いて、子どもができて初めて知ったのですが、赤ちゃんの服は肌あたりを良くするために、わざと縫い目が表側なんです。Tシャツを裏返すのは奇抜な発想に見えて、赤ちゃんの肌着にも採用されている通り、理にかなっていることなんです。

実験的に加工したTシャツを、約150枚ほどギャラリースペースで展示発表しました。一般の人からの反応は非常に良くて、企業からも飲食店のユニフォームに採用され、数百着の発注相談をいただきました。見た目でリユースのコンセプトがわかりやすいので、企業側としてもSDGsの取り組みをアピールしやすい要素だったのかもしれません。

mySDG編集部:ロゴがずいぶん、ひかえめなサイズだと感じたのですが……。

羽田さん:本当はワンポイントもつけたくなかったのですが、さすがに目印がないと間違いかと思われてしまいますよね。加えるのは小さなロゴと背中のプリントだけにしたのも、この取り組みの本当の面白さはデザインの他にあると考えたからなんです。実は、取り組みを知った人が、プロジェクトロゴがなくても、古くなったTシャツを裏返して着るのが普通になったら成功だと思っているんですよ。
「ROLE YOURS」はできるだけ何も足さず、新しいものをつくる取り組みです。環境負荷に対し最大限に配慮して、付加価値を付けることができたリユースプロジェクトだと思います。

■ヤレ紙の印刷をあえて残す、“あたらしい古紙再生”でわかりやすさと実感を

ヤレ紙を利用した高岡市の名刺・封筒

mySDG編集部:まず、「ヤレ紙」とはどのようなものなのですか?

羽田さん:ヤレ紙は印刷所がチラシなどを製造する際、必ず発生してしまう損紙です。通称「ヤレ紙」と呼ばれています。家庭やオフィスのプリンターでは試し刷りはしないので、あまり馴染みがないかもしれませんね。印刷所では、CMYKを微調整しながら班を押すときの版ズレ修正や、濃度や色味の調整のために必要です。これは印刷所全般の印刷機の特性によるもので、印刷物の品質保持のためにどうしても避けられません。

【ヤレ紙パターン例】印刷は通常、C(シアン※青系)、M(マゼンタ※赤系)、Y(イエロー※黄系)、K(ブラック※黒)の4色を網点状に刷っていく。このとき、CMYKそれぞれの『版』を最初からズレなく印刷することは難しく、職人の技術によって細かな位置を微調整する。
版が正しい位置になるまで、印刷を繰り返しながらテストを行う。

mySDG編集部:印刷所では、どれくらいの枚数のヤレ紙が出るのですか?

羽田さん:弊社で作った高岡市の蛇腹式パンフレットの例でいうと、蛇腹を広げた状態で全紙1枚に3面付け(パンフレット3枚分)で色付けして印刷できますが、両面印刷をした場合、大体の目安ですが400枚から、多い場合だと600枚分ほどのヤレ紙が発生します。リーフレット換算でいうと1,800部ほどの量です。発行部数が500部でも1万部でも同じ枚数のヤレ紙が発生してしまうので、小部数の場合だとヤレ紙の方が多くなってしまうことがあるんです。
mySDG編集部:かなりの枚数が世に出ずに役目を終えるのですね。そのままでは廃棄されてしまうヤレ紙を「ROLE YOURS」の展示会告知に使用したそうですね。

【展示会DM】ヤレ紙にホワイトを印刷し、その上から印刷。うっすらと別の印刷が残っている。

羽田さん:はい。「足さないを、つくる」展覧会なのに、バージン材を使用した印刷物を発行することがねじれてるように感じて、告知物にもリサイクル材を使えないかと考えたんです。それで目に留まったのが、印刷所で生まれる「ヤレ紙」でした。ヤレ紙に印刷したDMを多方面に送り、その中で興味を持ってくれたのが高岡市長だったんです。市長は僕と年代が近く、情報交換も頻繁にしていた間柄でした。市長がヤレ紙を知ったことをきっかけに、新しい古紙再生プロジェクトの進行へとつながり、高岡市職員用の名刺作成に至りました。

mySDG編集部:職員用名刺デザインを選択できる中に、このヤレ紙再生名刺が加わったそうですね。ヤレ紙を一般用名刺として活用するのは難しかったのですか?

羽田さん:以前から多くの印刷所に、ヤレ紙提供のご相談をしていたんですが、そもそも印刷物なので、個人情報が印刷されていることもあり、第三者が自由に使うことは好ましくないと、協力いただける印刷所がなかなかありませんでした。
そこで、高岡市長に相談したところ、市の発行物なら版権コントロールが可能だと市長が旗振り役になっていただいて、高岡市が1年間に作る印刷物、パンフレット、お祭りのポスターなどから使えるものをリユース・リサイクルしています。市役所職員にとって新たな選択肢となったヤレ紙再生名刺の他、市民の方に資料をお渡しする際の封筒も制作しています。

「新しい古紙再生」の高岡市封筒、市役所職員名刺。

mySDG編集部:個性的で素敵ですね。やはりデザイン事務所だからこそのセンスですね。

羽田さん:いえ。カラフルですがデザインらしいデザインは入ってないんですよ。隠蔽して、印刷してるだけなのでデザイン自体はベーシックなものです。
しかし、隠そうと思えば隠せるものを、あえて元の印刷を見えるように残しています。世の中にはリサイクル紙100%のマークがついている製品も存在しますが、古紙再生の過程が見えづらく、手に取った人が参加してる実感が沸きにくい。ですから、あえて本来の目的の痕跡や気配を残すことで、再び別の目的に使われていることが見えやすく、リサイクルに参加している実感を意識しやすいと思うんです。このように、モノが歩んできた背景を大切にすることで、伝わりやすい環境行動につながり、他にはない個性的なリサイクルにもなっていると思います。

■取り組みのきっかけは、わが子の未来への思いから

mySDG編集部:デザイン事務所でありながら、古着や古紙再生の取り組みを始めた、そもそものきっかけは何だったのでしょうか?

羽田さん:自分に子どもができたことです。最近富山に大規模な商業空間ができたことが話題になり、多くの若者がショッピングやカフェなどが楽しめる新しい遊び場として期待を寄せていました。ただ、オープン後にいざ行ってみたら、ファミリー層以上の地元民や旅行客に向けたリーシングだなと感じました。

それ自体が良いとか悪いとかではなく、人口動態図を見たらわかるように、地方では今後もこうやって少子化で絶対数が少ない若者に向けたサービスやハードは後回しになり、ボリュームゾーンが優先されざるを得ないんだなと思いました。

つまり多かれ少なかれ、いまの子供達はコレからもずっと上の世代のボリュームに対しては少数派の立場に立たされ、こういう現実を突きつけられて、期待しては落胆し、ついには何も希望を持たなくなるんじゃないかなって。

そんな子どもたちの未来に向けて、今僕たちができることは、今あるモノの見方を変えて新たな選択肢をつくること。世の中に対し思考変化のアプローチをし続けることで、20年後には多角的な見方が一般的になっていてほしい。

再生プロジェクトは一つの実験的な取り組みですが、高岡市のヤレ紙を用いたプロジェクトも継続が決定していますし、僕にとっては世の中に対し、新たな選択肢を作った大変重要な取り組みです。これからも、こうした取り組みを続けていきたいと思っています。

mySDG編集部:今後の目標や展望を教えてください。

羽田さん:高岡市という行政が賛同してくれたことで、自分が思い描いていたよりも大きいサンプルになったと思っています。今後、ヤレ紙再生については皆で活動できる組合などにして、発展していけたらいいなと思っています。
廃棄Tシャツもヤレ紙も、出ないのが本当は一番いいのですが、廃棄そのものをなくすような大きな取り組みは、僕個人の活動ではできないんです。今自分ができることは、廃棄されるものが出るのは仕方がないとして、最大限に有効活用しようと世の中に働きかけをしていくことです。

mySDG編集部:最後に、活動のきっかけになったお子さんたち世代に伝えたいことはありますか?

羽田さん:「選択肢を生み出すこと」が当たり前になってほしいと思います。子どもたちの世代が大人になるころの日本は、今よりも暮らしにくい世の中になっているような気がしています。

仲間内では「第4のインフラ」と表現していることがあって、第1インフラは1960〜1970年代に道路や鉄道を引き、国が豊かになった時代。第2インフラでは、電気水道光熱が当たり前になり、第3インフラでインターネットが通じて必要なものほとんどが出来上がった。
しかし、時代が移り変わっていく間に、第1インフラから老朽化していき、その時作られた仕組みや意識も徐々に老朽化し、機能不全になっていきます。そのように古くなったものを作り直すことが僕たちが取り組んでいくことだと思っています。
第4のインフラ時代は、既存のものの視点をずらして考え直す方法で選択肢をつくり、コミュニティをつくり、少ない選択肢を補っていく時代。その時代を生きる子どもたちの世代には、今あるものから新たな選択肢を増やせることが当たり前になっていてほしいと思います。


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