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JP Drillの現在地 ①

ミヤシタです。
このnoteは、筆者の愛してやまないJP Drillの魅力を伝えることを目的として作成されています。
前半ではJP Drillの何たるかを筆者の主観的意見を交えながら考察し、後半では抑えておくべきアーティストと楽曲を紹介していきます。

JP Drillという言葉の定義付け

まずそもそもの話ですが、JP DrillをUKやBrooklynにおけるそれのように時系列順で解説することは可能なのでしょうか?〇〇というDJがパイオニアで…といった分かりやすいターニングポイントがあるのでしょうか?
答えはおそらく”ノー”です。
日本におけるDrillは本場のようにカルチャーとして根付いてきた訳ではなく、現時点では単なるHIPHOPビートの1ジャンルという扱いを受けています。
海の向こうで爆発しているDrillのサウンドを日本のプロデューサー達が各々取り入れ、日本各地で草の根的にじわじわと広まっていったと考えるのが自然でしょう。

また、Chief Keefがシカゴで確立させたジャンルがDrillの始まりであるということを認識しているリスナーが恐らく少ないのも、日本におけるDrillシーンの特徴と言えるかもしれません。
そのため筆者はJP Drillを「UK Drillの特徴的なビートが確立されて以降のDrillサウンド(BrooklynやBronxのそれも含む)を取り入れたJ-HIPHOP」と定義します。最もライト層のリスナーが混乱しにくいシンプルな定義ではないでしょうか。
「みんなそう思ってるだろ❗️」という声はあるかと思いますが、こういうのは文字にして自分の意見を示しておくのが大事なのです。

少し話が脱線しますが、もちろんシカゴDrillのサウンドを取り入れたJ-HIPHOPも存在します。代表的な楽曲でいえばHideyoshiの『Majinahanashi』だと思います。下に貼っておくので、気になった方は是非チェックを。

↑日本の曲にも関わらず、コメント欄は英語で溢れかえっている HIPHOPのサブジャンルの中でもDrillはサウンドだけでの勝負がしやすく、狭い日本市場だけでなく海外でのバズを狙えるのがアツい

「Chief Keefの曲もHideyoshiのこの曲もめちゃくちゃTrapぽくない?なんでDrillなの??」と頭にハテナが浮かんだ読者は、下に貼った筆者の別記事を読んでみてください。Drillという音楽ジャンルの成り立ちを理解すれば、必ず納得いきます。

話を戻しましょう。
もちろん日本の中でもいち早くUK Drillのサウンドを取り入れ、今なお愛されるヒット曲を作り出したプロデューサー達はいます。先ほどは"ノー"という答えを出しましたが、強いて言えば彼らがJP Drillにおけるパイオニアと言えるかもしれません。
代表的な人物を挙げるとすれば、FUJI TRILL & KNUXによるプロデューサーユニットOVER KILLと、南アフリカ出身日本在住のプロデューサーであるGhostpops、そして和歌山出身のプロデューサーのHomunculu$でしょう。

では、JP Drillはこのままビートの1ジャンルとして受け入れられるに留まってしまうのでしょうか?カルチャーとして根付くことはないのでしょうか?
この問いに対する答えもまた”ノー”と言えるでしょう。
先ほどパイオニアとして挙げた二人がUK Drillのサウンドを取り入れたビートで日本のシーンを沸かせたのは2020年の下半期。この記事を執筆している現在は2023年の上半期ですから、たかだか3年ほどしか経過していない訳です。(それ以前にシーンを騒がせたJP Driillの楽曲があれば教えていただきたいです)

歴史が浅いにもかかわらずこれだけ盛り上がっているジャンルの行く末を断定してしまうのは、いくらなんでも早計が過ぎるというもの。むしろまだまだアーティストもリスナーも、JP Drillシーン全体が成長していく段階であると言えそうです。
後半で詳しく紹介しますが、03-PerformanceとWatsonの圧倒的な急上昇には目を見張るものがあります。
田舎町でツレのGUCCIを羨ましがっていた泥棒が、今やベンツを納車して幕張メッセをぶち上げる。こんなサクセスストーリーをリアルタイムで観察してきた筆者は、JP Drillにまだまだ熱い期待を寄せずにはいられません。

JP Drillはどこから来てどこへ向かうのか?

これ以降は前半にて先送りにした個別のアーティストの説明、そして筆者おすすめのアーティストと楽曲、そしてJP Drillに関するプロジェクトやチャンネルを紹介していきます。

OVER KILL(FUJI TRILL & KNUX)

2020年にこれだけ完成度の高いDrillビートを生み出したこのユニットの功績は大きいと言えそうです。また、このビートを完全にKillした生野区の重鎮Jin Doggは現在も精力的にDrillの製作を続けていますので、後ほど紹介します。

GhostpopsとSEEDA


2020年にリリースされた、Ghostpopsがビートを手掛けSEEDAがラップする楽曲『Nakamura』。完全にDrillという訳ではなく、記事が示す通り「Drill的なアプローチ」のビートとなっています。とはいえ楽曲の完成度は非常に高く、今をときめく若手ラッパーRalphを交えたRemix版もリリースされています。

↑サムネの「中村」という漢字が達筆すぎて「わお」に見えるというコメントが、筆者の中でいつまでもツボ

GhostpopsとSEEDAのコンビが完全なUK Drill的アプローチの楽曲をリリースするのは、2021年のこと。Drugに関するハードな歌詞が前面に押し出された『Pa-Ke』です。

下に貼った記事が示すとおり、J-HIPHOPにハスリングラップという概念がガッツリ持ち込まれたのはSEEDAの所属するクルーであるSCARSの影響が大きいです。それゆえにSEEDAとUK Drillは歌詞のトピックの親和性が非常に高く、これだけハイクオリティな楽曲が生み出されたのではと筆者は推察します。
もちろんビートを作ったGhostpopsの貢献度や、一般的にはラップを載せるのが難しいとされるUK Drillビートを完璧に乗りこなしたパイセンSEEDAのラップスキルは言うまでもないことでしょう。

また、MVの最後に表示されるクレジットを見れば分かる通り、Tade Dust & Bonbero、SYAS BOYなどのJP Drillシーンを引っ張る若手がカメオ出演しています。MV自体の再生数は15万回と特別に多い訳ではありませんが、現JP Drillシーンがここまで盛り上がるにあたってのキー作品の一つであったと言えそうですね。

Homunclu$

和歌山のプロデューサーである彼は、JP Drillシーン黎明期から現在に至るまで、様々なラッパーにDrillビートを提供し続けています。
ラップスタア誕生でも話題になった7にもビートを提供しており、アングラシーンに影響を与え続ける重要人物といえます。この記事内で紹介する楽曲にも彼がプロデュースした作品は多いです。ただメディアへの露出が極端に少なく、人伝の情報しか入手できませんでした。
Jin Dogg やYoung zetton周りとの関係も深く、後ほど何回か登場します。

Ralph

045の一匹狼、Ralphです。先ほどのパイセンSEEDA紹介の際も登場しましたね。
日本のGrime界隈において先陣を切ったのはプロデューサーユニットのDouble Clapperzであり、そんな彼らと関係性が深いRalphはUK Grimeのサウンドを取り入れた楽曲を数多く発表してきました。

 ↑このインタビューを読めば大体わかる

また、この記事にもある通りRalphにDrillのビートを提供したのはムラサキです。この話題に関しては非常にセンシティブですので避けることも考えましたが、先日Mall BoyzがYouTubeにアップした楽曲を受けて記事の添付を決めました。

↑ちなみにこの楽曲もDrillのビート あの事件が起こった当時の心情が綴られている 人間は過去を背負って前に進むべきであり、完全に過去に蓋をすることがより良い未来につながる訳ではない

正直Ralphに関してはみんな大好きだし、これ以上この場で詳しく書く必要がないくらいにはメジャーなラッパーです。ラップスタアとかRed Bull Rasenとか、あんま知らんって人は各々で調べてくれると助かります。

↑特大ヒットのAfro Drill(Drillビートの中でも細分化されたジャンル名)くらいは貼っておこう あまわっしょんゔぉーい

03-Performance

引き続きラッパーやクルーを紹介していきたいところですが、その前に紹介しなければならないチャンネルがあります。現行のJP Drillシーンは、03-Performanceの存在抜きに語ることができません。
Beat Maker、INK FILMのCEOという二つの顔を持つROMMYさんが立ち上げたこのチャンネルは、上からぶら下がったマイクに向かってラッパーがパフォーマンスするというシンプルな構成のパフォーマンスビデオを専門にアップしています。

↑このインタビュー動画を見てもらえれば、ROMMYさんとWatsonやChoppa Caponeとの関わり、そして03-Performanceの成り立ちがわかる

読者の皆さんはご存知かと思いますが、03-Performanceは国内の若手を発掘しまくっているのが特徴ですね。もちろんDrillに限らず様々なジャンルのビートに乗ったHOTな若手ラッパーを世に送り出し続けており、最近は登竜門のような様相を呈しています。
自分の周りのアマチュアラッパーも「03に出て一発当ててやる…❗️」と鼻息を荒くしている子が多いです。

↑03-Performanceが一番最初に出したビデオ Watsonは初期の作品を「今聴いたら恥ずかしい」という理由で配信停止しているので、聴けるのはこの動画だけ

※筆者は基本敬称略で記事を執筆していますが、ROMMYさんは以前撮影でご一緒させていただいたので敬称を付けています。

Watson

流れとして自然ですので、次はJP Drill界を席巻したWatsonについての紹介です。と言う訳で、まずは下の記事を読んでください。

これで、この記事がアップされた2022年3月までのWatsonの動きは抑えられたことになります。PRKS9の記事は読みやすくていいですね。Watson独自の言語感覚にも迫っており、非常に完成度の高い記事だと思います。
次に、それ以降のWatsonの動きを追っていきましょう。

まずは、前述のインタビュー内でWatsonが示したミックステープ『FR FR』が2022年3月にリリース。WatsonがUKのスタイルに切り替わったターニングポイントと言えそうです。

↑収録曲『break bad』のMV UK Drillのビートに乗ったWatsonを、INK FILMのROMMYさんがディレクション

このMVで着用しているNIKEのテックフリースやGUCCIのバッグが実は借り物であったことをWatsonは数個の曲のリリックで明かしています。ここまで赤裸々なリリシズムを最先端のDrillやTrapに持ち込んだWatsonはやはり凄まじいですね。

↑ミックステープ『FR FR』のレビュー記事 いろんな分析が結構いい感じなのでみんなも読もう

このMVがアップされたちょうど1ヶ月後、Watsonの名前は日本のHIPHOPシーン全体に知れ渡ることとなります。そう、『reoccurring dream』のバズです。

↑2023年6月現在には400万回再生目前となっているこの曲でも、やはりWatsonはDrillのビートに乗せて自信の生活を赤裸々に歌っている
全てのリリックがパンチラインとなっており、特に「四六時中ずっと触ってるちんちんでもやな事触れない」というラインはこれからも語り継がれていきそうだ

こうして誰もが認めるパンチラインメーカーとなったWatsonは勢いを増して、客演も含め非常に精力的に活動していきます。
そして2022年8月、WatsonはYoung zettonを客演に迎えたシングル『NEW REAL』をリリースします。

↑WatsonのMVに寄せられたとあるコメントから名付けられたこの曲は、まさに新しいリアル

日本のプロデューサーHomunculu$による洗練されたUK Drillビート、WatsonとYoung zettonそれぞれのリアルをユーモアや巧みな掛け言葉を交えつつ歌ったリリック、JP Drillの夜明けを感じさせるDex FilmzによるハイクオリティなMV、すべてこれまでのJP Drillにはないものでした。

この二人は同年10月にシングル『本音』をリリース。

2023年1月には共作EP『BRIGHT FUTURE』をリリースしました。全曲ケチの付けようがない完璧なサウンドとリリックです。

↑この二人はDrillのビートに乗ってしまえばマジの無敵 Young zettonがWatsonに似ているなどと言っている人間は半年ROMれ
ぜとんの特徴的な声と促音Flowは唯一無二である

さて、Watson個人の活動に焦点を戻しましょう。Young zettonと2度目の共演である『本音』をリリースした約1ヶ月後、Watsonはさらなるバズを経験します。

Yuto & DopeOnigiriによる楽曲『ASOBI』のremixです。03-Performanceよりアップされたこのremixは、TikTokを中心として若者の間で大流行。
高いラップスキルと歌詞の下ネタやユーモアがウケにウケ、本家MVの再生回数を超えてしまいます。

↑こちらが本家MV   名古屋のミュージックバーに遊びに行ったらヤンキーとギャルが大合唱しており、少し引いた思い出がある また遊ぼうよユリア
なお歌詞はやはり過激な下ネタである

このバズによってWatsonの勢いはさらに増します。そしてリリースされたのが、2022年二作目となるアルバム『SPILL THE BEANS』です。

先ほど紹介したASOBI remixが03-Performanceのチャンネルにアップされたのが11/5、そしてこのアルバムの配信日は11/30。素人目にではありますが、プロモーション戦略としてはかなりうまく行っているように感じます。
このアルバムの完成度は非常に高く、Watsonを一発屋と呼べる人間は完全に消え去りました。

↑アルバム収録曲『non scale』MV   池袋で撮影されている

↑このインタビュー記事は、Watsonが『SPILL THE BEANS』をリリースした後である今年3月に書かれたものだ 最初に載せたPRKS9の記事の続編にあたるので、しっかり読んでおこう。

Young zettonとの共演作品をまとめて紹介したために時系列が少し狂いましたが、そこは読者のみなさんが脳内で整理してください。

さて、Watsonがいかに現在の地位を確立したかを整理してきました。あとは最近のWatsonがどんな感じで何やってんのかざっくり見て、次に移りましょう。

↑コイツァUK Drillだぜ かっけー

↑POP YOURSの曲ね これもすごいぜ

↑MakuhariのLiveね こりゃいいわ

↑さっきも貼ったがもう一度貼る 聴けば聴くほどいいだろう

↑Watsonにしては再生回ってないけどマジかましてっからねこれ

Young zetton

WatsonとYoung zettonの共作について話し、Watson個人としての作品についても語った以上、次はYoung zettonが個人として出しているDrillの話をするのが筋といったものでしょう。

Young zettonが初めてUK風味のビートに乗ったのは、2020年リリースのアルバム『Delicate』内収録の『priceless』と客演にJin Doggを迎えた『真・物語』のGrimeビート、そして『chemical音』のDubstepビートです。ビートは2曲ともHomunclu$が手掛けています。
Young zettonといえば、以前のトラップメタルスタイルから現在の洗練されたTrapスタイルへの音楽性の転換がたびたび話題になります。今あげた2曲は、いい意味で荒削りの発声にガサガサした質感のビートがマッチしたYoung zetton過渡期の楽曲といえるでしょう。
急にUKに手を出し始めた理由に関しては後述のインタビュー記事内で明かされています。読んでください。

↑以前のYoung zettonを代表する楽曲 相方bigsosもスタイルを大きく変更した

↑彼の人となりや生い立ち等、このインタビューさえ読んでもらえれば一発だ

『Delicate』リリース前にアップされた上記のインタビュー記事の最後で、Young zettonは「一応数としては2枚目なんですが、自分の中では新しく最初のアルバム」を製作中であること、そしてそのアルバムが「『Delicate』での、あの感覚を掴んでくれた人は楽しめる内容になってる」ことを明かしています。
つまり、次回のアルバムからはDrillやTrapのサウンドをさらに大きく取り入れた、全く新しいYoung zettonになるということはここで明示されていた訳です。

↑『Delicate』リリース後のインタビュー いいから読んでくれや

そしてリリースされたアルバムが『Invador』です。このアルバムにDrillは収録されていませんが、これまでのYoung zettonと比べれば異質なサウンドばかりです。
そして彼の次なる動きとして制作されたのが、連作アルバム『Zee PACK』です。第一段となる『Zee PACK vol.1』はTrapやPunkなど、幅広いジャンルの楽曲が収録されており、このアルバムがYoung zettonスタイル転換のターニングポイントであると筆者は位置付けています。

↑収録曲のこれマジヤバい 映像もいいし、プリウスが欲しくなる

ここから前述のWatsonとの共作でUK Drillのサウンドを自分のものにしたZettonは、2022年12月にZee PACKシリーズ2作目となるEP『Zee PACK vol.1.5』をリリースします。4曲中3曲をDrillビートで固めたこのEPでは、1曲目の『caffeine』が03-Performanceにて先行公開されました。

↑個人的にはZettonが着ているトラックジャケットに着目したい このジャケットはPUMAとベンツのコラボで発売されたものだ
NIKEのテックフリースがDrillファッションの代表格として持ち上げられまくる中、ここに手を出すのはセンスがいい 有能スタイリストがいるんかな

続けてリリースされた『Zee PACK.vol.1.8』が執筆時点の最新作ですが、聴いてもらえればわかる通りDrillは一曲も入っていません。

↑レビューはこの記事に任せた 読んでくれ

リリースされる楽曲を見てもTrapが多いですし、このままTrapメインで活動していくのかなと筆者は推測しています。
JP Drillの記事でこれだけ長々とzettonについて語っておきながら結論がこれなのもちょっとアレですが、彼の活動について概観的にまとめた記事がなかったのでこの場を借りました。まあ何にせよ筆者は彼の大ファンなので、これからもブチ上がって欲しいです。

最後に余談です。Young zettonの代名詞といえばザラザラしたイカつい声質と促音フローですよね。この促音フローなのですが、実は3年前の時点でLunv Loyalが完成させています。

↑促音フローってのは「っ」を嵌め込むラップのことね 聴きゃわかる

Lunv Loyalはマジでラップがうますぎるので、みんなもたくさん聴くといいと思います。この曲は本当に凄いのでぜひ。
ちなみにこの曲はUSBさんのツイートで知りました。

Lunv Loyal

流れ的にLunv Loyalもいっておきましょう。とはいえ、紹介できるのはあの曲しかありませんね。

↑マジでいいね 筆者はこの曲を聴きすぎて、Lunv LoyalのSpotifyリスナー上位1%だった

突き抜けまくりのBrooklyn系ビートとでも言えばいいんですかね?筆者はNY的な空気感を感じましたが、普通にUKかもしれません。あんまり気にしなくていいです。
Lunv Loyalの透明感にパイセンSEEDAの重厚感、かなりいい構成です。さらにremixにはWatsonが参加します

↑もはや過剰ともいえるトランジションが見ていて楽しい。AitchからMEEKZまで、UKのラッパーはポップな層からギャングまでMVでトランジションしまくる
おそらくその辺の文脈を汲んでいるのだろう 多分

やはりWatsonはどうやっても神曲しか出しませんね。
このMVのディレクターは、次に紹介するLInk Hoodというクルーの楽曲『ippai G2』のMVも手掛けています。そちらもやはり過剰なトランジションがいい感じです。

Lunv Loyalに関しては以上です。基本単発でDrillを出しただけのラッパーを紹介するつもりはなかったのですが、この曲は非常に完成度が高いので紹介しました。

Link Hood

白のピチT一辺倒ではない、圧倒的なファッション感度の高さもLink Hoodの魅力だ

JP Drillの大本命かつ最前線、千葉からやってきたヤングなGang 現在はDrillを中心に活動する音楽クルー、Link Hoodです。
筆者がこの記事を執筆した理由の一つに、彼らの音楽をもっと知らしめたいという思いがあります。若手ゆえにインタビュー記事すらありませんが、そこは気合で補っていきましょう。

↑TuneCoreのアーティスト情報欄を覗くと、「Link Hoodとは生まれた地元、住んでる場所、関係なしにhiphopカルチャーを通じて好きなものをLink=共有する第2の地元」とある なるほど

千葉県浦安市出身の雅と東京都江戸川区小岩出身のVega KfKの2MCからなるこのクルーは、日本でもトップクラスのDrillを量産し続けています。まずは2MCそれぞれの活動を追い、次にクルーとしての活動を追っていきましょう。
余談ですが、この二人は最近DJ RYOW feat.Jin Dogg『MVP』のMVにカメオ出演しています。大物にも実力が認められている訳ですね。

まずは雅からです。彼は2022年4月にEP『Pioneer』をリリースしています。ガチガチのUK Drillビートが並ぶこのEP、JP Drillファンなら必聴です。
EP2曲目の『Pioneer』ではWatsonを客演に迎えているので、聴いたことがある人も多いかもしれません。

↑MV内の雅が着用している縄モチーフ付きの白いパーカーは、Bernhard Willhelmのアーカイブ 近年のアーカイブファッションブームを積極的に取り入れるスタイリスト、そして雅の感性が素晴らしい

雅のラップの特徴として、変態的なフローと「ちゃっぷい」(寒いの意)などのユニークなリリックが挙げられます。
変態的なフローについてですが、これは彼が吃音であること(本人による公表済み)と関係しているように感じます。実際EPの一曲目『UNO』では後付けのチョップなしで同じ音を繰り返していますし、Link Hoodの名義で出している楽曲でも尋常ではないフローばかり飛び出します。常人にはこんなの無理です。

リリックについてですが、ユニークさはもちろん技巧的でもあります。先ほど挙げた楽曲『UNO』のリリックを例に挙げて解説します。
曲中に「直々呼んで」というリリックが登場するのですが、これはUKのラッパーAbra Cadabraの『On Deck』という曲の「jiggy jiggy on deck」いうリリックが「直々呼んで」と空耳することに由来します。
リリックをそのままサンプリングするだけなら誰でも出来ます。しかし自国ではマイナーな曲を空耳して自分の曲に引っ張ってくるなんていう、リスナー側が普通は気付けない変態的なことをできるラッパーが日本に何人いるでしょうか。

次にVega KfKについてです。
彼は2022年にUK Drillビートオンリーのアルバム『Brain Killer』をリリースしています。リリース日は1月19日なので、Drillメインのアルバムを日本国内でも早い時期に出していたと言えます。
楽曲のクオリティは当然ながら全て高く、中でもベルギー在住のラッパーであるAkira Junを客演に迎えた『餓鬼-GAKI-』は再生回数をかなり伸ばしています。
Akira Junに関しては後で個別のトピックとして述べます。

↑実際に事が起きた場所でMVを撮影したらしい

その後も03-Performanceへの個人での出演など、着実に露出の場を増やしています。

↑撮影場所は柴又帝釈天 アウトロのみドラムスのパターンがJersey Drillに変化するギミックは、ビートを提供したBardin Beatzの手腕が唸っている。

Vega KfKのラップの特徴はやはり何といっても持ち前の低音ボイス、そして卓越したラップスキルですね。上記の楽曲『Cheddar cheese』を聞いて貰えれば全てわかります。
トリッキーなフローを得意とする雅とマシンガンのように畳み掛けるVega KfKのコンビは、攻撃的でありながら非常にバランスがとれています。

次にLink Hood名義でのクルーとしての活動を紹介していきます。

↑サムネイルで後ろに写っている和彫の巨漢は、Link HoodのボスであるKing Jon アルコールが入ると止められないらしい

このMVがアップされたのが2021年の11月、この時点でビデオも含めここまで完成度の高いUK Drillを日本でやったのはかなり凄いと思います。
MVの1:55〜あたりのトランジションも、UKのラッパーであるTion Wayneがよく使う手法と同じものを採用しています。有り余る本場感、尚且つ和彫の巨漢がバックに控えるJP Drill。
2022年に入るとLink Hoodは03-Performanceにも出演し、プロップスをじわじわと集めていきます。

↑聴けばわかるが、かなりイカれている

Link Hoodがさらなる動きとしてリリースしたのが、彼らのボスの名前をタイトルに冠した楽曲「King Jon」です。

↑これを聴かずにJP Drillを語る奴はモグリ

音楽性、MV、すべての要素において現時点のJP Drill最高到達点と言えそうです。
Vega KfKの低音は全体を引き締め、雅のククリナイフを振り回していそうなフローが曲のレベルを一段上へと導きます。
また、JP Drillシーンにおいて自分達のボスをFlexするという概念を持ち込んだのは彼ら以外に見当たりません。

UK Drillシーンにおいて、音楽ジャンルの成り立ち上Gangに所属しているというのは大前提であり(UK Drillのパイオニアは67というGang)、その上で自分の所属しているGangが何をしたのか、どのように活動しているのかをFlexするのが基本的なスタイルです。
もちろん特定の組織に属さず音楽性のみで売れているUKのDrillerも数多く存在しますし、JP Drillシーンが必ずしもGangという概念を前提として発展すべきだとは思いません。
しかし、UKの基本的かつクラシックなスタイルに則ってGangをFlexした上でJP Drillを掲げる彼らは筆者の目にやはり魅力的に映る訳です。

そんな彼らの最新リリースは、ラップスタア誕生でも大きく話題になった北海道は函館の新星、999dobbyを客演に迎えたシングル『ippai G2』です。
これもまたクオリティーが異常に高いです。まあ聴けば一発でわかります。

↑先ほどのLunv Loyalの欄でも述べた通り、このMVは『高所恐怖症 remix』のMVと同じディレクターが手掛けている まずは視聴して、三半規管を壊してみよう

Link HoodのMVに関するデマについて

最後に、『ippai G2』のMVに関する大きなデマが流布していることを注意喚起しておきます。具体的には「Link HoodはこのMVの再生回数を買っている」というもの。
事の発端は、とあるTwitterユーザーが「いいね数・コメント数に対して再生回数が不自然に多い。Link Hoodは再生回数を買っている」という趣旨のツイートを根拠もなく投稿した事です。
このツイートの影響で『ippai G2』MVのコメント欄はかなり荒れ、多くの人がデマを信じることになりました。
しかし、事実は違います。Link Hoodの雅本人談によれば、彼らは正当な手続きを経てタイとベトナムに対してこのMVのターゲティング広告を打っただけとのこと。

皆さんがご存知のように、タイ・ベトナムのHIPHOP人口増加には目を見張る物があります。そこにリーチする広告を打つことでMVの再生回数が大きく増えることはなんら不自然ではありません。
また、YouTubeの再生回数カウント基準が公開されていないことも、雅の発言に嘘がないことの裏付けとしてあげておきます。広告の形態によっては『ippai G2』のMVリンクをクリックしなくても、広告として再生されただけで再生回数としてカウントされる可能性が十分ある訳です。
ダメ押しでもう一つ言っておきます。仮に再生回数を買うとしても、もっと上手くやると思いませんか?再生回数だけでなくいいね数やコメント数までも金で買えることは、もはや周知の事実です。どうせ買うのであれば買えるものを全て買い、徹底的にカモフラージュしていないと辻褄が合いません。

以上のことにより、Link Hoodは再生回数を買っていないと筆者は断言します。たかだか5万回程度の再生回数を買ったところで何の意味もありませんしね。

まとめ、そして読者への本気のお願い

文字数が増えすぎると読みにくくなってしまうので、JP Drillの現在地 ①は以上となります。続編に関しても鋭意執筆中ですので、少々お待ちください。
JP Drillシーンには有望な若手がまだまだたくさんいるので、続編も期待して待っていただけるとありがたいです。

さて、ここまで読んでくださった皆さんに本気のお願いがあります。Link HoodのMVに関して流布しているデマの真相について、スクショやこの記事のツイート・筆者のツイートのRT等で出来る限りご自身のSNSを使って拡散していただきたいです。
彼らはJP Drillのこれからを担うクルーであり、無根拠のデマによって印象が悪くなるような事態だけはどうしても避けたいです。

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