バスの運転手 解説

この記事は、以前の記事「バスの運転手」に関して、どう考えながら書いたかをほぼ1行ずつ解説する、感想戦のようなものです。
短編、もしくはこれのような掌編小説だと1行解説も不可能ではないと思って挑戦してみます。
都合上ネタバレの塊となるので、元記事を読んでからこの記事を読むことを強く推奨します。


※元記事部分を太字、解説部分を普通の文字で書いています。
大学卒業後に田舎に帰ってバスの運転手をしている友人がこちらに来るということで、一緒に酒を飲んでいたときの話。
他己紹介のようなもの。どのような人かを伝えれば導入にはなります。

「そっちの仕事ってどうなん?」
「バス動かしてるだけだよ。別に変わったことなんてないよ」
「知らない業界の話って面白いもんだよ。どんなのでもいいから話して欲しいな」
友人はあまり話すのが得意ではないので、軽く促すことにする。
「うーん……こんなのはどうだろう。うちの方は田舎のせいか行動がルーチン化されてるっぽくて、人の流れが大体一緒なんだ」
「ほう、なんだ面白そうじゃないか」
「ホラーの怖さは日常パートがどれだけ日常してるかで半分決まる」の理論より、頑張って日常パートを書こうとした残骸です。
書ける人なら、この程度の行数文字数でも2人の仲いい感じとかを表現することは可能だと思います。

「じゃあ話すよ。俺の働いてるとこの路線は、誰も乗ってないところからスタートするんだ」
問題開始。読む人に対し、「ここからが注意して読むポイントだ」ということを明示します。

「一人でバスってのもなかなか乙なものじゃない?」
「すぐ慣れるよ」
「やっぱりそんなもん?」
「まあね。ただ、景色はいいよ」
その割に日常に戻してしまっています。やや悪手かも?

「……おっと話が逸れたね。最初の停留所では誰も乗ってこないんだ」
「過疎化の流れを感じるな」
「うん。ただ、誰もいなくても少しは停車することになってるんだ」
「そうなん?」
「そう。じゃないと、次の停留所は着く時間が変わってしまうかもしれないだろう?」
「あぁーそうか……」
実際はどうか知りません。このためだけにバス乗ろうかと思いましたが。
しかしここは日常パートの延長ではなく、意味はあります。

「で、次の停留所では3人乗ってきて2人降りる。その次の停留所では……4人乗ってくるだけだったかな。ここでは誰も降りない」
「算数の問題みたいだな。では今バスに乗ってるのは何人でしょう?って」
よくある足し算と引き算の問題です。こんなことがよくあったら困りますが。

「……7人だね」
”……”部分は記憶を掘り起こしている部分で、友人は計算をしていません。

「おいおい流石に酔っ払うの早すぎだろう」
ここの流れをよくするために、1行目で酒を飲んでいる設定にしました。

「あ、そうか。自分数えるの忘れてたね。8人か」
「いやいやお前足して6人だろう?」
「……あれ?そうだっけ?」
「そうだよ」
互いに首を傾げ合う。
ここが肝です。計算としてはどちらが正しいのでしょうか。
重ねて言いますが、友人は計算をしていないのですが。

「まあいいか。その後はどうなんだ?」
「その後は流動的かな……」
「なんだ、別にそこまでルーチン化されてないじゃないか」
その後、俺の方の仕事の話や、互いの趣味の話を大体3時間ぐらいして別れた。
問題終了。日常に戻します。この数行でも上手くすれば良く日常を書けるかずです。

帰りの電車で、話していたことをのんびり思い出しながら酔いに浸っていた。
バスの話を思い返したところで、何であんな変なことになったんだろうと考えてみた。
疑問が解けると、
「あいつが合っていたのか……」
思わず声が漏れ、一気に酔いが覚めていくのを実感した。
「そういえばあの……?」はホラーの一つの形です。
余韻を出すところでも酒を飲んでいたという設定は生きました。

では、どちらの言い分が正しかったのでしょうか?本編中で「友人が正しい」と言っていますが、それでは、何故主人公は計算を間違えてしまっていたのでしょうか。人数の変遷のみに絞ってみます。
スタート:1人(運転手のみ)
最初のバス停: 乗る:3人 降りる:2人
次のバス停 : 乗る:4人 降りる:0人
こう書くともうわかった方もおられるかもしれませんが一応解説を続けます。
計算だけをすると、 1+3-2+4 = 6人です。
ですが、最初のバス停で降りた2人はどこで乗ってきたのでしょうか?乗ってすぐ降りたは流石に有り得ないでしょう。それならば友人が言及するはずです。つまり、人では無い何かが乗っていた……
その結果、実際に降りていた人はおらず、 1+3+4 = 8人
となったわけです。