BEPS包摂的枠組み(Inclusive Framework)会合による声明(2021年7月1日)

米国バイデン政権による提案は、国際課税ルールの見直しに関する議論を大きく動かした。2021年6月にはG7財務相会合で支持を受け、残る関門は同年7月に予定されるBEPS包摂的枠組み会合での合意の成立と、それを受けたG20財務相会合での政治的合意となっていた。

2021年7月1日、139か国中130か国の合意を受け、国際課税改革の新しい枠組みに関する声明が公表された。備忘録として、その抜粋訳とコメント(※印を付した)を作成した。全訳ではなく、またコメントは適宜追加していく予定。

第1の柱

対象範囲
対象企業は、世界全体で200億ユーロ以上の売上高と10%以上の収益性(=税引前利益/売上高)を有する多国籍企業(MNE)とされた。ただし、租税の確実性(tax certainty)を含む利益A実施の成功を条件として、売上高の基準値は100億ユーロに引き下げられることが明記された(合意実施から7年後にレビューを開始し、当該レビューは1年以内に完了)。
※インドを中心に、米国主導で適用範囲が限定されることに反発する新興国・途上国の声(例えばG24コメント)に配慮したものと思われる。また、「租税の確実性」を含めた利益A実施が範囲拡大の前提とされており、インドをはじめとした途上国が税や確実性のための措置に協力する動機付けを与えるものとなっている。

なお、資源採掘(extractives)および被規制金融サービスは除外される。
※ブループリントにおいてすでに適用除外が検討されていた。資源採掘は途上国への配慮、規制金融については、市場法域の税を逃れることに制約があるため。金融セクターについては英国が特に適用除外を求めていたとさ報道されるが、この文脈かどうかはわからない。

ネクサス
適用範囲の多国籍企業が市場法域から少なくとも100万ユーロの収益を得ている場合、当該市場法域への利益Aの配分を認める特別目的ネクサスルールが創設される。なお、GDPが400億ユーロ以下の小規模な法域では、このネクサスは25万ユーロに設定される。
※ブループリント段階では、CFBについてプラスファクターの可能性が検討されていたが、収入基準に一元化されるようだ。

分割対象利益(quantum)
適用範囲内の多国籍企業については、売上高の10%を超過する利益を残余利益と定義し、その20-30%が、収益ベースの配分キーを用いて市場法域に配分される。
※かつては10-10という数字も噂されたが、再配分の対象となる総額を維持するため、残余利益に占める配分割合は大きく設定されている。

ソーシングルール(revenue sourcing)
収益は、財・サービスが使用または消費される最終市場の法域に帰属させられる。取引ごとの類型に応じた詳細なソーシングルールが策定される予定である。ソーシングルール適用にあたっては、多国籍企業は具体的事実(facts and circumstances)に基づいた信頼できる方法を用いなければならない。
※第三者を通した販売に関するソーシングルールは変更ないのだろう。仮に利益マージン閾値を(前)事業年度ごとに判定するとした場合、閾値を超えたことが判明してから契約変更して売上地を把握するのは不可能で、売上閾値を超える多国籍企業はソーシングルールに対応することを検討する必要があるのではないか。

課税ベースの算定
若干の調整を行った上で、財務会計上の所得を参照して決定される。
損失は繰り越される。

セグメンテーション
セグメンテーションは、財務会計上で開示されたセグメントに基づいて、そのセグメントが適用範囲ルールを満たしているという例外的な状況においてのみ実施される。
※Amazonは利益マージンが基準に達しないながらも、政治的には適用対象に含まれることが不可避であった。そのためセグメンテーションを利用することが予想され、思わぬ波及を及ぼすことが懸念されているが、その具体的な影響については未だ不明である。

マーケティング・販売利益のセーフハーバー
適用範囲内の多国籍企業の残余利益が市場法域ですでに課税されている場合、マーケティング・販売利益セーフハーバーにより、利益Aを通じて市場法域に配分される残余利益に上限が設定される。

二重課税の排除
市場法域に配分された利益に対する二重課税は、免除方式または税額控除方式のいずれかを用いて解消される。
納税義務を負う構成企業は、残余利益を稼得する企業の中から選ばれることになろう。

租税の確実性
対象となる多国籍企業は、義務的かつ拘束力のある方法で、利益Aに対する二重課税を回避するための紛争防止・解決メカニズムの恩恵を受ける。
※移転価格に関する論点も含むと記されていたので、理想通り機能するならば、対象企業は租税の確実性の恩恵を受ける。そして、インドのような国はここで頑張らないと、対象範囲の拡大に辿り着けない。

利益B
ベースラインのマーケティング・販売活動に対する独立企業原則の適用は、執行能力の低い国のニーズに特に焦点を当てて、簡素化および合理化(streamlined)されることになる。この作業は2022年末までに完了する予定である。

執行
税務コンプライアンスは(申告義務を含めて)合理化され、多国籍企業が単一の事業体を通じて手続を管理することを認める。

一国限りの措置
このパッケージでは、新しい国際課税ルールの適用と、すべてのデジタルサービス税その他類似の措置の撤廃との間で適切な調整を行う予定である。
※DST廃止とセットにするために、後述のような意欲的な実施スケジュールになっているのだろう。「類似の措置」がどこまで含まれるのかは、なお綱引きか。

実施スケジュール
利益Aを実施するための多国間枠組みが策定され、2022年中に署名のために開放される(2023年発効)。
※果たしてアメリカは条約承認できるのだろうか?

第2の柱

全体のデザイン
第2の柱は以下のように構成される。
・ 組み合わされた2つの国内ルール(あわせてthe Global anti-Base Erosion Rules (GloBE)ルールという)。(i) 所得算入ルール(IIR)、(ii) 軽課税支払ルール(UTPR)、および
・ 最低税率以下の税負担となる関連者への支払に対する限定的な源泉税の賦課を源泉地国に認める条約に基づく規則(Subject to Tax Rule (STTR))。

ルールの位置付け
GloBEルールは、コモンアプローチと位置付けられる。
これの意味は、IFメンバーが、
・ GloBEルールを採用することは義務付けられないが、仮に採用することを選択した場合には、IFが合意したモデル規則やガイダンスの考慮を含め、第2の柱の下で規定された成果物と整合する方法で規則を実施・執行する。
・ 他のIFメンバーが適用するGloBEルールの適用を受容する(ルールの適用順序や合意されたセーフハーバーの適用を含む)。

適用範囲
GloBEルールは、BEPS行動13(国別報告)で定められた7億5000万ユーロの閾値を満たす多国籍企業に適用される。閾値を満たしていない多国籍企業であっても、自国に本社を置く企業にIIRを適用することは認められる。
※自国に本社を置く多国籍企業に対しては自由に閾値を設定できるというのは少々驚きである。

ルール設計
IIRは、トップダウン方式に基づいてトップアップ税を配分する(80%未満の株式保有割合に適用される分割所有ルールが設けられる)。
UTPRは、低税率の構成事業体(究極の親会社を含む)法域からのトップアップ税を合意された方法で配分する。

実効税率の計算
GloBEルールは、法域ごとに計算される実効税率テストを用いてトップアップ税を課すように運用され、実効税率テストでは、対象となる税の共通定義および財務会計上の所得を参照して決定される課税ベースを用いる(第2の柱の租税政策目的に整合的な合意された調整と、一時差異に対処するためのメカニズムが設けられる)。

最低税率
IIRとUTPRの適用における最低税率は少なくとも 15%とされるだろう。

カーブアウト
GloBEルールでは、有形固定資産の帳簿価格および人件費の5%以上(移行期の5年間は7.5%以上)の所得額を除外する定式に基づくカーブアウトが規定される。
また、デミニミス除外が規定される。

その他の除外項目
GloBEルールでは、OECDモデル租税条約における国際海運業所得の定義を用いて、それを除外することも規定されるだろう。

簡素化
GloBEルールの執行を可能な限り対象を絞ったものし、政策目的に不釣り合いなコンプライアンスや執行コストを回避するために、実施枠組みにはセーフハーバーおよび/またはその他のメカニズムが盛り込まれる。

GILTIとの共存(co-existence)
第2の柱では、法域ごとに最低税率を適用することが合意されている。その文脈で、公平な競争条件を確保するために、米国のGILTI制度がGloBEルールと共存する条件が検討される。

Subject to taxルール(STTR)
(割愛)

実施スケジュール
IFメンバーは実施計画に合意し、発表する予定である。この計画では、第2の柱を2022年に法制化し、2023年に発効させることを想定している。
実施計画には以下が含まれる。
・ IFメンバーが実施したGloBEルールの調整を経時的に促進するための適切なメカニズムを備えたGloBEモデルルール(そのための多国間枠組み策定の可能性を含む)
・ STTRモデル規定と、その採用を促進するための多国間枠組み。
・ UTPRの実施延期の可能性を含む移行ルール(transitional rules)。

次のステップ
(割愛)


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