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離人について書いてみる - 白紙の自意識、ログイン/ログアウト、パラレルワールドとしての夢、存在のゲーム

最初にその違和感を感じたのは幼稚園か、それより前か。
映画や漫画、本などに没頭し、そのフィクションの世界が終了したあと、存在の実感に生まれたわずかな空白が急に広がり、今ここにいる自分が何者かわからなくなる。
一瞬の、強い動悸と鳥肌。

いまここで、XXXXX(本名)っていう名前で生きてるらしい、この存在は誰?

いま、「誰?」って考えて戸惑ってる”自分”って何?

どこの何者だかわからない、全くの白紙、だけど確実に存在している”自分”という意識が、この、誰だか知らないけど、XXXXXという名前で身体を持って存在している何か、の身体を、周りから見た時に「何も変わってませんよ、私はいつもどおりですよ」という調子に見えるよう、気をつけながら、なんとか乗りこなしていく。移動し、会話し、食事もする。
頭の中は誰?何?と、疑問符だらけなのに、つとめて普通を装う。

そうやっているうちに、白紙の”自分”の意識と、XXXXXという身体を持ってる存在が少しずつ統合して、ようやくいつもの「XXXXXである私」、いまこの文を書いている私に戻ってくる。短ければ2時間程度、長いときはたしか半日くらい。もっと長いこともあったかもしれない。夜に起こり、寝て起きたらとりあえず「私」に戻っていたこともある。その逆も1度くらいあったかな。

インターネット時代に生きていて良かったなと思うことに、このような不思議な体験に名前がついていて、他にも同じ体験をしている人がいると知れることが挙げられる。私は20歳頃、まだインターネット黎明期の頃、確か興味本位で多重人格について調べていたとき、その派生情報として、この体験はどうやら「離人」と呼ばれているらしい、と偶然知ることになった。

名前がつかない、個々人の唯一無二の体験としての、一種のロマンを味わう機会が失われたという側面もあるが、私のように軽度の例ではなく、一定の記憶喪失を伴うような例、強烈な身体と意識の違和(特に性自認に絡む)の例もあることを知ると、きっと利点のほうが大きいのだろう。特に、ある程度自意識が確立した年齢になってから、急に離人を体験した人の中には、おそらく強い恐怖と不安にかられた人もいるのではないか。

離人体験については、心配されそうだからあまり人に言ってはいけない、それにいつも「私」に戻って来れているし大丈夫、という認識があり、周囲に相談したことはない。
そもそも説明するのが難しい体験だということもあるが、不思議だなとは思いつつも、私にとっての離人体験は、それほど悩むようなものでもなかったからだろう。今となってはちょっと面白がってる節すらあるのだが、それでも、離人の始まりは未だに毎度、意味のわからなさに鳥肌が立ち、子どもの頃は、今回は戻らなかったらどうしよう、という怖さも少しはあった。

インターネット時代に離人体験をしているもう一つの利点を挙げると、オンラインゲーム、ログイン、ログアウト、という概念を利用することで、離人状態の説明が簡単になったということだろう。
白紙の自分の意識=プレイヤー、XXXXXという存在=ゲーム内で自分が使うキャラクター、とすれば、離人の状態は、通信状態やゲームシステムのエラーなどにより、プレイヤーとキャラクターの接続に不具合が起こって、強制ログアウトから再度ログインしたてで、おそるおそるゲームを再開している状況だというように例えることができる。離人が始まるのが、なにかしらフィクションのストーリーに没入したあと、というのもあり、オンラインゲームの例えは非常にしっくりくる。

そうして長年ログイン/ログアウトを繰り返している身には、この世界はシミュレーションではないか、という仮説も、やっぱりそれだよね、と違和感なく納得できるものであるし、生きるということは「存在のゲーム」The Game of Existence をやり続けている状態だ、というのも、精神修養上の概念というよりは、実感に近い形で理解している。

存在のゲームをやっている最中、別の存在のゲームを模したストーリー(フィクションのストーリー)に入り込んでいたことで、本来の存在のゲームに戻り損ねてしまい、ログアウトしてから再ログインしてるのだ。プレイヤーである「白紙の誰か」さんが。

ログイン/ログアウトといえば、離人状態の体験と夢にも、関連があるように思える。昔から、見る夢はいつもリアルで、一定期間同じ舞台(世界)での話が続くこともあり、知らない人もいれば、現実の人間関係も変奏曲のように少し形を変え、織り込まれてくる。

それもあって、夢診断には随分のめり込んだ時期もあるが、最近では夢とはパラレルワールド、この現実という存在のゲームをやっているキャラクターの私の意識が寝ている、すなわち物理的にログアウトしてる間、プレイヤーがやっている別の存在のゲームのキャラクターのプレイを見ている状態なのではという気もしている(夢に出てきた当日か翌日には、必ず連絡してくる人という妙な現象も数年前からある)。

現状の認識として、自分とは、この身体にログインしてる誰かなのだろうし、もしかすると、この身体を本来使うはずだった意識を押しのけ、赤子として生まれてきた瞬間から今まで、ずうずうしくも身体を奪取してしまっている困った存在なのかもしれない。

Image by my best in collections - see and press 👍🔖 from Pixabay

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