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【12/02】廻り道辿り着くのはお茶と菓子【電気ショック記憶喪失アドベントカレンダー2023】

入院生活。別れを告げなければいけないのは、酒と煙草と薬物だ。
酒は、冷水をがぶ飲みすることで欲求を抑えている。
煙草は、ガムを噛むことで欲求を抑えている。
薬物は、入院前より徐々に減量することで欲求を抑えている。

さて、酒と煙草と薬物にまみれていた私の生活は、入院中何を求めるだろうか。
それは、「娯楽」もっと正直に言うと、「変化」かもしれない。変性意識状態への渇望。

酒煙草薬物を絶った私のいきいきとした時間は専ら食事中と睡眠時のみであった。少なくとも食事をしている間はそれ以外のことを考えずに済むし、睡眠も同様。とにかく、何かをしていないと頭がおかしくなりそうなのである。本来揺りかごのようなものである時間という概念は、私にはトロトロじくじくと意地の悪い火で全身を煮詰め閉じ込める鍋のように感じられた。

そこで、私は考えた。
他の人は何をしてこの煉獄のような時空間を耐え抜いているのだろうか。
私は端末をインターネットに繋ぎ、世界中を旅して回った。そこで結論に到達する。

茶と菓子だ。

喫茶という文化は、アジア、アフリカから北米やヨーロッパまで世界中で見られる「娯楽」あるいは「美学」だ。
喫茶文化は、茶の製造過程や消費方法、人々が茶に与えられる影響、 茶を飲むことの美学によって定義される。お茶が重要な役割を果たしている国は多い。例えば、「アフターヌーンティー」は広く知られているイギリスの習慣である。

私は早速この「アフタヌーンティー」を真似た。
太陽がやや俯きがちになった午後の時間、紅茶とチョコレートを用意し、嗜むのである。そう、嗜むのである。今日の銘柄は「プリンス・オブ・ウェールズ」だ。スモーキーで優雅な香りと、洗練された穏やかな味わいが私の鼻腔をすっと通り抜ける。爽やかで控えめなその喫味が、チョコレートの甘さをそっと消し去る。

…………やってられるか!!!!

私は正直者だ。こんな「良い子ちゃん」をいつまでもやっていられない。
私は病棟を抜け出し、コンビニに走った。
手にしたものは「モンスターエナジー」「ハッピーターン250%」である。
そう、切実だった。多少の「エナジー」そしてわずかばかりの「ハッピー」を手にしたかったのだ。ハッピーターン250%も、精神病棟でこんな切実な思いを込めて食されるとは思わなかったろう。
モンエナを、飲む。ハッピーターンを、食べる。モンエナを、飲む。飲む。ハッピーターンを、食べる。モンエナは、夕5時まで、都合3時間は絶え間なく飲んだ。

そして夜が訪れたら、睡眠薬を飲み、私は眠りに就いた。

その翌朝のことである。
頭が、割れるように痛い……!目が、飛び出そうだ……!!
カフェイン中毒である。
モンスターのエナジーを求めて、やつがれは此れを昨日5本も飲んだ。

医者に訴え、呆れられつつもロキソニンを出してもらい、ひとまずその場はしのいだ。

そして、悟ったのである。

変化を、貪ってはならない。

かすかな気分転換に、茶と菓子を嗜むのが人間「丁度いい」塩梅なのだと。

私は昼食とロキソニンをとった後、アフタヌーンティーに向けて、香り高い紅茶とわずかな菓子を用意し、優美な音楽と共に時間を過ごした。

穏やかな一日だった。

最後に、私に紅茶を薦めてくれた友人に最大限の感謝の意を表して、本日の記事を締めくくらせていただく。

それでは皆様、良き時間をお過ごし下さいませ。

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