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4月上旬 -後ろめたい春休み-

4/1(水)

8:00出勤が始まってから、そろそろ1ヶ月が経とうとしている。
朝、通常通り人口密度80~90%くらいの電車でツイッターを開くと、イタリアやアメリカの医療崩壊の様子を伝えるツイートや画像が流れてきて、こんなに混んでいる電車に週5日、毎朝30分乗っている自分に症状が出ていないことがむしろ異常に思えてくる。駅で人が乗ってくるたび「え……まだ来んの……」と感じてしまう。自分だって途中から乗ってきたのに。帰りの電車は時差出勤前より空いているので、行きの電車ほどの不安はないですが。
紙マスクが買えないので、家にあった大判のマルチクロス(メガネ拭きとして使っていた)+ヘアゴム2本+安全ピンで作った布マスクを着けるようになった。しかしマルチクロスはガーゼではないので布の目が細かく、呼吸しづらい。大きく息を吸ったり吐いたりするとやや苦しい。

関東の新型コロナウイルス感染拡大は止まらず、この時点では国や自治体による対策も「バー、ナイトクラブ、ライブハウス、カラオケ」などの遊興施設に「自粛を要請」する、個人に「3つの密(密閉・密集・密接)を避けて行動する」ことと「土日の不要不急の外出を控える」ことを呼びかけるなど、あまり気合の感じられないものだった。
朝のラッシュに対しては厳しい措置をしないのに、飲食・エンタメ系の産業に対してだけ営業活動の「自粛を要請」する方針に違和感を覚える。社員を月曜から金曜まで9時5時ぐらいの勤務時間で働かせている企業・団体はちょっと営業時間をいじれば善しとし、平日の夕方以降や土日が営業のピークになるような企業・団体にだけ我慢してもらうというのは不公平な気がする。新型コロナウイルス感染防止によって生じる損失を社会全体でフェアに分かち合うのが、本来あるべき姿では? それを考えるのが政治では?
そして、要請に従って営業を停止しても、それは「自粛」だから発生した損失の補償はしませんよ、という理屈も姑息だと思う。宇多田ヒカルも、ツイッターで「自粛を要請」という言葉に対して「それは他粛だよ」と言っていた。共感。

仕事が比較的落ち着いている時期だったので、次の日は休むことにした。「感染のリスクに晒されている」と意識しながら毎朝30分過ごすというのは結構疲れるし、ニュースを見て感情が揺さぶらたりすることも多いので、コロナが収まるまでは定期的に半休なり全休なりを取って心身を休めようと思う。

この日、乙武洋匡さんが、社会を混乱に陥れる可能性があるので今年のエイプリルフールは自粛しようとツイッターで呼びかけていた。
こういう社会情勢の中でも怒られない嘘って何だろう……と考え、「5月に作家デビューが決まりました! 記念に過去の短い小説をアップします!」というツイート(note記事へのリンク付き)をする案が浮かんだ。しかしアップできそうな自分の小説を読み返したら色々直したくなってきて、「今日中に終わらんやん……」と断念。

4/6(月)

相変わらず出勤。ニュースではリモートワークに切り替えた会社の事例が色々流れてくるのに、私はまだこの勤務styleか……社会から見放された気持ちになってくる。
しかしこの日の午後、上長が突然社員を部屋に集め、「明日から2週間休業です」と発表。私のような、他社から出向している人間の場合、明日からはIDカードをかざしても建物に入れなくなるという。ずいぶん唐突な話で驚く。
でも私が担当しているアイテムも含め、全体的に製品の開発日程は後ろ倒しになる見込みとのことなので、ちょっと安心する。
週末には、そろそろ緊急事態宣言が出されるかも、という情報がメディアに上がっていた。やはり本当なのだろうか。

仕事でイギリスの支部の人(リモートワーク中)とやり取りすることがあるのだが、その人への休業連絡は社員さんからやってもらえることになった。ヨーロッパもアジアも大変だ……。

ただ、休業になるのは東京と神奈川の拠点だけで、茨城と静岡にある拠点は閉めないという話だった。茨城……首都圏扱いされてないのかい?

なお、社員さんのうち、業務上やむを得ない人は、茨城の拠点に出社することになるらしいという噂もあった。噂なので、私のいるフロアにそんな人がいたのかどうかは定かではないが。
客先の経営陣からの正式な通告には、会社の根幹にかかわる業務に従事する社員には出社を求めることもあると書いてあったので、管理職以上の人はたまに出勤が必要なのかもしれない。

こういう状況だと、重要な案件を任されている人とそうでない人の差が浮き彫りになってしまうのかなぁ……と思う。
もちろん前者はより高い感染のリスクを負うことになるけど、「君来なくて大丈夫だから」と言われた後者も(個人差はあるにせよ)プライドを傷つけられるわけで。どっちがいいんだろうなぁ。私は出向者という立場なんで、あまり関係ないですけど。

4/7(火)

臨時休業初日。いつもより長く寝ていられるのは嬉しいものの、慣れない状況なので落ち着かない。
社外からもアクセスできる社員用サイトにログインし、メールを確認。自社では出社している人もいるので、もしかしたら社内の業務を手伝うよう言われたりするのかな? と思って定期的にメールを見ていたが、何もない。
ただ、休業明けにレポートの提出が求められるとのこと(「在宅勤務」扱いにする上で必要なのかも?)。業務マニュアルか、自分の業務に関係する業界の動向をまとめないといけないらしい。客先に出向している私は普段使っているPCにアクセスできないので、自宅での業務マニュアル作りは無理。レポートか……何か考えなければ。でもまだ2週間あるし、しばらくは部屋を片付けるなど、普段できなかったことに時間を使おうと決意。

せっかくなので、ゴールデンウイークにやるつもりだった部屋のレイアウト変更を始める。机を窓際に移動させ、本棚とPCをずらす計画。本棚は中身を抜く→移動→中身を入れるという作業が必要なので、一日では終わらなかった。まあ明日も休みなので大丈夫でしょう。

夕方、安倍首相の緊急事態宣言をテレビで見る。感想はこんな感じ。

200407_緊急事態宣言ツイート

他にも、子供が教育を受けられなくなることについて、もっと憂慮すべきでは? と思った。
会見では「親が働いている時間に預けるところがない」みたいな話しか出ず、「コロナによって子供の教育を受ける権利が奪われてはならない」という問題意識は感じられなかった。

そして、文化・芸術関係者に対する支援の話は一切出なかった……。
ドイツのメルケル首相のスピーチでは言及されていたし、実際に現金も支給されているというのに。社会の成熟度という点で、日本はかなり遅れを取っている気がした。自分が払ってきた税金の使い道を決める人々の人間的な貧しさを、日々見せつけられる。情けない。

4/10(金)

会社から、出向者の休業が5/6(水)まで延長になったと連絡あり。ゴールデンウイーク明けまで自宅で過ごすという、前例のない状況に。こんなに長い休みは学生時代ぶり。

しかし休みとは言え、新型コロナウイルス感染防止のためには外出を控えなければならないし、外出したところで映画館も美術館もレストランもカフェも寄席もジムも閉まっているし、伸び伸び過ごせるわけではない。
そして医療関係者の方や、ドラッグストア・スーパー・コンビニなどで働いている方、交通・流通・インフラ関係の方、金融業界の方など、感染のリスクに晒されながら社会を回すべくお仕事をされている人のことを考えると、「休みだ―」とか手放しで喜べる状況ではない。もちろん、補償もないまま休業を余儀なくされている飲食・エンタメ関係の人や、休業=無収入になる人にとっても、現状は地獄でしかないだろうし……学生時代の長い休みでは味わうことのなかった、何とも言えない後ろめたさがある。

この日はかなり久しぶりに、やや遠出(=乗り換えが発生するお出かけ)をした。
最初の目的地はツタヤ。自宅の最寄駅から電車に乗り、一度乗り換えて終点の駅まで行き、ツタヤでカード更新手続きを済ませる。自宅で過ごす人が増えているせいか、平日の昼間にしては混んでいる印象。

行きと逆方向の電車に乗り、次の目的地へ。乗り換え駅の手前で降り、商店街を数分歩いて、招き猫の看板が目印の定食屋に辿り着いた。

経緯 -私と定食屋- 
この定食屋はご飯もおかずも本当に美味しく、魚のメニューも充実していて(刺身定食の魚がバラエティに富んでいて嬉しい)、佇まいが洗練されており女一人でも入りやすい唯一無二の店なので、家からそこそこ遠いにもかかわらず定期的に通っていた。
インスタグラムのアカウントには食材や新メニューの写真などがアップされ、店主がこだわって食事を作ってくれているなぁーというのが感じられた。料亭みたいにフォーマルではなく、飲む人を対象にした小料理屋でもないけど、丁寧に作られた和食・魚料理が食べられるところは、ここ以外に思い浮かばない。
3月、お店のインスタグラムのアカウントに、通常の営業をストップする代わりにテイクアウトのお弁当を売り出すという告知がアップされた。
お弁当は肉と魚と刺身(づけ)の3種類で、どれも美味しそうだった(この店のものなので美味しいことはほぼ確定なんですけど)。当日朝8時までに予約すれば、取り置きしてもらえる(14:00までの時間に店で受け取り)。予約なしの人向けにも販売はするものの、なくなり次第終了とのことだった。
自由に動ける時間ができた今こそ、応援も兼ねてお弁当を買いに行こう! と思い、前日の夜に肉弁当(鶏肉の照り焼き)を予約した。お店で肉メニューをオーダーしたことがなかったので、私にとってはちょっと挑戦。

いざ、店内へ。カウンターの向こうに、いつもいる店主の女性と、ヘルプで入ったらしき男性が、いずれもマスクをして立っていた。名前と予約内容を伝え、お弁当代850円を払って、丸い弁当容器の入ったビニール袋を受け取る。
お互いマスクをしていると表情が見えづらいし、手の接触を最小限にしようとすると必然的にそっけない態度になってしまう……応援している気持ちは伝わっているのでしょうか。。。

ともあれ、無事にお弁当を買えてよかった。帰り道にある別の店でも買い物をし、帰宅。

お弁当はプラの味気ない容器ではなく、木目調の丸わっぱに入っていた。わっぱはレンジ加熱に対応しており、時間が経っても温められる。
鶏の照り焼きは、しっかり肉厚で美味しかった。玄米ご飯とおかずのいくつかは前に店で食べたものと同じで、「あの店はまだある!」と実感できたことが嬉しかった。
週1回ぐらいのスパンで買いに行こう。

食事を終え、アニマックスで放映中の「鬼滅の刃」を観た。(私が住んでいるマンションはネット&TV契約時にCS放送が勝手にセットになるため、アニマックスが映る。決してアニメに明るい人間ではないのですが。)
1日2話ずつの放送を昨日から見始めたのだが、評判通り面白い◎ 素朴な少年と鬼になってしまった妹、雪深い山奥での殺陣シーン、人間を鬼から守る集団「鬼殺隊」、天狗の面を付けた剣術の師匠……こういうフィクションに久しく触れていなかったので新鮮。休業のタイミングで流してくれたことに感謝。

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4/14(火)

部屋のレイアウト変更の続きをやったり、J-WAVEのラジオ番組「JUMP OVER」にネタメールを出したりして過ごす。あと、YouTubeでベリーダンスの動画を流し、身体を動かしたりもする。
近くのコンビニに軽い買い物に行き、戻ってみると郵便受けに手紙が届いていた。時々行っていたカフェに出した手紙への返信だった。

経緯 -私がカフェに手紙を書くまで- 
そのカフェは、私の家の最寄り駅から電車で5駅ほどの街にある。すぐ行ける距離ではないが、木造の古い日本家屋をそのまま使った空間と、店内に置かれたアンティーク家具やこけしがノスタルジックな雰囲気を醸し出していて、わざわざ行きたくなる場所だった。タウン誌「散歩の達人」や川口葉子さんのカフェ本にも取り上げられていたので、あの雰囲気に心を掴まれた人は沢山いるのだろう。
店主のお姉さんも、私が席で文章を書いていると脇のスタンドの電気を点けてくれたりして、来た人が快適に過ごせるような心配りが感じられた。
私の職場がまだ休業になっていなかった4月の頭に、このカフェのインスタグラムで、営業時間の短縮が発表された。いつもと雰囲気の違う文面を読み、コロナの影響で苦しい状況なのかなと思った。
ニュースでは、テイクアウトメニューやクラウドファンディングなどを始める飲食店の話が報道され始めたが、このカフェからそういった告知はなかった。
先方が営業を続けているのだから、店に行ってお金を落とすのが一番の応援なのだろう。でも、週5日ラッシュ時の電車に乗っている自分が店を訪れることでクラスターを発生させてしまう可能性を考えると、さすがにできなかった。
しかし行けないなりに、店がなくなってほしくない気持ちを伝えたいと思い、手紙を書くことにした。
万一あの物件を手放すことになったとしても、店主には別の形でカフェを続けてほしいということは絶対に言わなければと思った。持ち前の美意識と気配りで、素晴らしい空間を作り上げた実績があるのだから。
手紙には、店に行けない理由と、もし店の存続に向けたクラウドファンディングなどがあればお金を出したいという内容を書き、近くの郵便局に出しに行った。

……封を開け、お店からの返信を見て驚く。

「泣きました」
「死ぬまで忘れません」

こけしのイラスト入りの可愛い便箋4枚に綴られた手紙には、強烈なフレーズが含まれていた。

え? 私、そんな凄い手紙送った? そこまで感謝されるの人生初なんですけど。
衝撃でしばしぼんやりする。

手紙には、最も恐れていた閉店宣言ではなく、休業の告知と、営業再開に向けてお店をパワーアップさせるという意気込みが書かれていた。よかった。またあの空間で穏やかな時間を過ごせる。

しかも封筒の中には、お店で売っていたコースターと、料理のデコレーションに使われている旗のついた楊枝まで同封されていた。お店に一円も落としてないのにプレゼントだと……? 大変恐縮です。

でも、色々な媒体で紹介されていて、土日の様子を見る限り繁盛しているカフェだったのに、こういう応援はそんなに珍しいのだろうか。手紙でなくても、DMとか、やり方は色々あるだろうに。
みんなあのカフェ好きだったんじゃないの? 店がなくなってから応援しても無駄なんだよ?

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