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SPACE SHOWER TV Girl -湖愛ちゃん-

一人目、どうしよう。

心に浮かんでいる子は何人かいるものの、感想を言われることは、果たして彼女たちにとって嬉しいことなのか。
余計なこと書いてイラッとさせたり、モチベーションを下げたりするのは嫌だ…しかも一人目から。

そんな思いでセミファイナリストたちのツイートを見ていたら、こんな文面を発見した。

いた…話題になりたがってる子が…!

湖愛ちゃんは、PR文と動画で、「普通に可愛い」「普通に好き」としか言ってもらえない自分を変えたいという動機を語っていた。
現役JKで、普通に学校の友達とTikTokをやったりする自分が、敢えて個性を問われるミスiDに出ることに意味があると思う、という。
高校卒業→大学卒業→就職→結婚、という普通の人生を考えたら「ぞっとした」。
具体的には決まっていないけど、将来は人前に立つような「普通じゃない仕事」をしたい、と話していた。
スマホを見ながらではあるものの、カメラを見てはっきり言葉を発していたし、泣く場面もなかった。

周囲から「普通に可愛い」と言われてきた彼女の顔立ちは、確かに、決して派手ではない。
でも、近寄りがたい美人より、こういう子の方が仲良くなれそうだし、モテるんじゃないかと思う。
彼女の中身が大らかなら、「一緒にいると安心する顔」として定期的に見たくなりそうだ。

自分の特徴を説明するキーワードは「普通」…でも本当にそうなんだろうか。
ミスiDに興味を持つような子だったら、Seventeenに出てるような万人受けする美少女に物足りなさを感じているのではないかと思うし、実は少しズレた美意識があるのではないか。
謙遜しているだけで、ツイッターやnoteでは不思議な価値観を披露していたり、ものすごく病んでいたりするのでは?
そんな先入観を持ちながら、彼女のツイッターやインスタ、noteを見るようになった。

しかし、湖愛ちゃんに関する情報が増えれば増えるほど、彼女が分からない。

カメラテストの時の格好は、黒髪ストレートに黒レーストップス、黒スカート、黒ネイル、靴も黒。
リップだけが鮮やかな赤で、シルバーリングはゴツめ。ロックテイスト? 控えめなゴシックスタイル?
右耳にピアスが5個(耳たぶ4+軟骨ピアス1)、タトゥーを入れたいとも言っている。
でもロックやパンクに特別興味があるわけではない。
質問箱で好きなファッションを問われれば、どんな服も着こなせるようになりたい、と言う。

おっさんずラブなどのBLが好きだけど、決して二次元の世界にのめり込んでいるわけではなく、三次元の男の子も好きになる。
質問箱で性格を聞かれると「実はめっっちゃくちゃ陽キャ演じてる」と答えるし、学校に行きたくないという発言も度々ある。
でもその後、クラスで友達と楽しそうにTikTokしている動画をアップする。
インスタの写真と文章、noteの言葉は、全体的に仄暗い。

昔の病気の影響で、疲れやすい体質だという。
でも高校では特殊クラスではなく一般クラスに通っているようだし、障害や難病とは違うようだ。
家庭環境が複雑とか、親が暴力を振るうといったような話もない。
不幸な生い立ちや障害や環境のせいで奪われた可能性を取り戻したい、みたいな印象的なエピソードも、彼女のSNSには登場しない。

ゴシック系? ロック少女? オタク? 陰キャ? 陽キャ? 不登校? 病弱?
湖愛ちゃんはそれぞれの特徴を少しずつ備えつつ、どれにも属していない。
しかも本人が掲げる目標は「誰かの憧れになる」というぼんやりしたもの。
「ロックに生きていきたい」「明るくなりたい」みたいなもう少し輪郭のある目標なら、今後どういう属性が強化されていくのか想像がつくものの、今の状況だとそれすら見えない。
「○○系」「○○タイプ」というカテゴライズが一切利かない――これはもはや、新しい個性ではないかという気がしてくる。

キャラが立っている子は、スタイルや好きなものに割と一貫性があるように思う。
例えばロリータだったら、「ロココの精神が好き」「効率や利便性を追求する現代は嫌い、もっと美しさや優雅さを大切にする生き方をすべき」という幹となる思想があって、そこからロリータブランドの服・幻想的な文学作品・ロココっぽいティーセットなどの好きなものが派生してくる、みたいなイメージ。

しかし湖愛ちゃんの場合、好きなものは色々あっても、それらに共通する要素が見えない。
枝葉は見えているのに、幹が隠れている。
幹が特定できれば、それが「湖愛ちゃんらしさ」ということになるのだが…それが分からなくて、苦し紛れに使われたのが「普通」という言葉だったのだろうか。

日常の一コマ、落胆、可愛い自撮り、将来への不安。
彼女のとりとめのないツイートをスクロールしながら、SPACE SHOWER TVのミュージックビデオ番組のようだと思った。
しかもここでは、「Jロック特集」「2000年代ヒットソング」などの特集名すら教えてもらえない。

はっきりした主張やビジョンがある子のツイッターは、どちらかというと映画や特番に似ている。
主人公が夢を追いかけるもの、男性中心的な社会を変えようと頑張るもの、生きにくさと闘うドキュメンタリー、コメディーなど種類は様々だが、何となく全体を貫くテーマがあって感想が書きやすい。
監督が作品に込めたメッセージとか、世界の切り取られ方とかを踏まえれば、全体について語れるから。

しかしミュージックビデオ番組だとそうはいかない。
最初はBACK NUMBERが片思いを切なく歌っている映像、それが終わるとWANIMAが青空の下で青春の輝きを熱唱する映像、その次は女の子の内面世界のようなゴテゴテしたセットの中で大森靖子が絶叫する映像…何の脈絡もなく、気分と世界観が数分単位で切り替わってゆく。
一つ一つに対してなら感想を言えても、「番組全体を見てどうでしたか?」と聞かれたら言葉に詰まる。

なので、湖愛ちゃんの日々の断片の中で、私が一番好きなものについて書く。

8月18日 00:51 の、noteの一部。

この時間のローカル番組大好きなの。キャストが誰のために何のために頑張ってるのかよくわかんなくなる番組のテーマがたまにすごく可笑しくてすごく面白い。それでも丁寧に、誰に対しても一生懸命なこの時間の芸能人はお昼に美味しそうなもの食べてる女優よりキラキラして見える。

この瞬間の湖愛ちゃんの隣に、ちょうど居合わせたい。

「この番組のキャスト、何頑張ってんねん、て思うんやけどさー。でも好き」
湖愛ちゃんのほわっとした関西弁が漂ってくる。
「確かに!」
二人でくすくす笑いながら、テレビの画面を見つめる。
夏の午後、時間がだらだら流れてゆく。
湖愛ちゃんが教えてくれた、優しい無駄の世界だ。

このミュージックビデオが終わらなければいいな。
ずっとこの気分の、無限ループの中にいたい。
でもいつか、この映像は切り替わってしまうだろう。
次のミュージックビデオがどんな気分を運んでくるのか、それは湖愛ちゃんにも分からないのだ。

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