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【シリーズ】老人ホームは介護の「終わりの始まり」【第2回】〜終の棲家ではない老人ホーム〜

 こんにちは。松岡 実です。
老人ホーム入居対象者の家族に対して感じる知識不足を全4回にわたって紹介する2回目です。

第2回 終の棲家ではない老人ホーム

 昨夏、一部のメディアで取り上げられたので目にした方がいるかもしれません。全国106ヶ所に店舗展開するHITOWAケアサービス(東京)が景品表示法違反で消費者庁から再発防止命令を受けました。
参考:老人ホーム、景品表示法違反 イリーゼ、解約明示せず 京都新聞

昨今は介護付き有料老人ホーム等の特定施設に限らず、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅も医療ケアを提供することが当たり前になってきました。
公益社団法人全国有料老人ホーム協会が平成26年3月に行った有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅に関する実態調査研究事業によると、住宅型有料老人ホームで約6割、サービス付き高齢者向け住宅でも半数以上が看護師による医療ケアを提供していることがわかります。
※下図は上記資料の抜粋

胃ろうの注入やインスリン注射、点滴、喀痰吸引(研修を受講した介護職員は咽頭手前までに限って可能)などの医療行為は看護師しか行う事ができません。看護師が常駐する住まいを選択すれば、看取りケアを提供してもらえると思ってしまいます。
しかし、医療行為は看護師しか対応できないとなると、看護師が不在の時間に医療行為が必要な入居者は退去、もしくは入院するしかありません。
つまり、終の棲家にはならないのです。

夜間帯も配置すれば手厚い医療ケアを提供することができ、退去や入院率を下げる事が可能ですが、上図下部の看護師の常駐時間を見てみると、いずれの老人ホームも8~9割が日中常駐の体制です。これには介護報酬が大きく関係します。
65歳以上の要介護認定を有する高齢者は、特別な疾病がなければ訪問看護を利用する際、介護保険を優先する原則があります。

わかりやすいフローチャートがあったので、詳細はリンク先でどうぞ。

介護職員と比べて平均年収が200万円以上高い看護師を雇用すると人件費が上がるのはご理解いただけると思います。つまり、一人の入居者に対して訪問する介護職員と看護師の人件費の両方を、入居者に特別な疾病がない限りは介護保険の支給限度内から得るわけです。見方を変えると、入居者の介護保険という一つの財布の中身を、訪問介護と訪問看護で奪い合うような状況になります。
夜間帯も看護師を配置するとなると、更に大きな人件費が必要になるため、医療保険が優先される疾病を持つ入居者を一定以上確保できていない状態での24時間365日の看護体制は、運営事業者にとって経営破綻を招くので提供することができません。

 看取りの現状については厚労省発表の資料を見ると一目瞭然です。
老人ホームで看取りはほとんど行われていません。先に述べたように、看護師がいる時間帯以外に医療行為が必要になった場合、もしくはバランスよく訪問介護と訪問看護がサービスの提供ができなくなった入居者は入院となるわけです。

死亡場所
・医療機関:約 77%
・自宅:約 13%
・介護老人保健施設・老人ホーム:約9%
 参考:看取りの現状・課題・検討の視点 2015年 厚生労働省

老人ホームで提供できる医療処置には限界があるため、肺炎などを起こすと医療機関へ搬送されます。重症化して日常的に医療行為が必要になると、もう老人ホームへ戻ってくるのは困難です。
また、最初に挙げたHITOWAケアサービスと同じように、共同生活が困難な方は退去を促されます。

退去となる具体例
・他の入居者や職員に対する暴言・暴力行為
・自傷行為
・他の入居者からクレームを発生する徘徊
・入退院を繰り返す状態
・頻回な介護拒否

訪問介護は入居者の居室を訪問し、介護サービスを提供している時間のみ介護報酬を得ることができます。認知症の悪化や、精神疾患による気分のムラでケアプランに定められたスケジュールの訪問介護を頻繁に拒否する状態になった場合も退去となる場合があります。

 介護業界に転職してからというもの、「老人ホームに入居すればもう安心」と思っている方が非常に多いですが、転居や退去のリスクがある事を理解して物件を選んでいる人はあまりいません。
老人ホームの看取りケアの方針は運営事業者の方針に委ねられていることを知らず、看取りケアを行っていない老人ホームに入居してトラブルになっているケースもよくあります。
また、社会保障費を軽減するため長期入院を防ぎ、自宅へ退院させなければ医療機関への報酬が減額されるように診療報酬は改定され続けています。今や医療行為があっても治療するところがなければすぐに退院を迫られます。
 介護問題は意図せず突然降りかかることも多いため、たいていどう対策をして良いかわからないまま、いざ現実の問題になった時はほとんどの人が途方に暮れてしまいます。僕は介護保険や医療保険の仕組みを知ることこそ、介護が必要な親だけではなく、自分を守る最大の方法だと思います。

次回につづく

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