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良い夜だった

蒲田温泉のイベントの前後で、集まってお酒を飲んだり読書会をしたりしましょう、とお誘いがあった。わたしはじっと座っていられないからトークイベントが苦手で、どうしようかな、としばらく悩んでいたけど、人には会いたかったし話したいこともたくさんあって、酔っ払った日に勢いで蒲田カルチャートーク「水風呂研究会」のチケットをとった。

人と話すのが苦手だったけど、もう良い年齢だしそうも言ってはいられない。人見知りなんです、と宣言するのは、相手に「私は人見知りなので気を遣ってくださいね」と言っているようなものなので甘えだとどこかで読んで、なるほどその通りだと反省していた。

前の晩まで、少しやることがあって、結局家でダラけてしまってあまりすすまなかったけど、夜のうちに用意が何もできていなくて、朝になってあわてて準備をした。約束の時間が決まっていても、ぎりぎりにならないと動けなくていつもバタバタしてしまう。
たいせつな約束の前にはぜったいにサウナに入りたかったから、約束の時間をすこし遅くしてもらって、上野のセンチュリオンに向かう。たいせつな約束の前はここ、と決めている。水風呂が冷たくてしゃっきりするし、浴室自体がむんむんと熱いのも好きだ。サウナ室のセッティングが少し変わって湿度が高くなってからは、さらに良い。パウダールームが綺麗で、照明のおかげか少しだけ顔の調子がよくなったような気がする。わたしは綺麗なサウナ施設に来ると萎縮してしまうから苦手なんだけど、ここは狭いからか、なんとなく安心する。自分に自信がないので、せめて見た目だけは綺麗にしておきたい。
センチュリオンのフロントで、混み合っておりますが…と謝られたので、この時期は混むんですか、と聞くと少し困ったような顔をされた。聞かなきゃよかった。いつも、へんな無茶をしてひとに話しかけるから、だいたい後悔している。
時間もあまりないので集中して2セット、休憩と水風呂のセットを2セットして、支度に取り掛かった。この時点でもう少し遅刻が確定していたけど、サウナが好きな人はサウナでの遅刻は大目に見てくれるだろう、という根拠のない甘えがある。
ぴかぴかになったところで、蒲田に向かう。前髪がうねるのが気になったけど、汗まみれより良い。
5秒で着いたらいいのに、というとめちゃくちゃわがままじゃん、と言われたのがおかしくて、心の中で少し笑った。すきな作家さんのことや、趣味のことでたまにDMを送りあっているけど、こういうやりとりができるようになってきたし、そろそろ「友達」といえるかもしれない。
ふたりが待っていたのはもつ焼き屋で、蒲田らしいお店で冷たいビールが飲みたい!と何時間も前から思っていたから、嬉しかった。わたしは人の顔が覚えられないから2人の顔もぼんやりとしか覚えていなくて、見つけられるか不安だったけど、手前に細くて身長の高いひとがいたから、絶対にそうだと確信して声をかけたら、そうだった。もうひとりはよくお面をつけた写真をSNSにあげるので、お面の印象が強すぎて、ぼんやり覚えていたはずの顔と違ってびっくりした。
他愛もない話をして、わたしはビールと芋焼酎の水割りを2杯。わたしが居酒屋で「芋の水割りで」を言うときは、だいたい楽しくなってきた時だ。芋の水割りでエンジンがかかる。
もつ焼きは名前がわからないからいつも適当に頼むけど、串に刺して焼いた肉はだいたい何を食べても美味しい。初めて食べた酢豆腐と、ガツ刺しも美味しかった。

ほろ酔いで蒲田温泉まで歩く。釜飯が美味しいという情報を仕入れていたから、お風呂に入っているあいだもずっと釜飯とビールのことを考えていた。水風呂のトークイベントで30度の水風呂に入るのがおもしろくて、水風呂だけ何回も入ったりしたけど、水風呂は温度だけじゃないよなあ、とあとになっておもしろがったことを少し反省した。もっと真面目になりたいし、性格が良くなりたい。黒湯はポカポカして気持ち良いので、また冬にでも訪れたい。
トークイベントはやっぱりじっとしていられなくて何回も席を立って一階で休憩してしまったけど、釜飯は美味しかったし、ゆるゆるした空気が心地よかった。

登壇者に挨拶したいという2人と一緒に最後まで待っていたらだいぶ遅くなってしまった。コンビニでお酒を買って、二人が宿をとっているスカイスパにわたしも泊まることにした。台風一過なのか、風がやわらかくて、なによりも缶チューハイ片手に知らない土地を歩いてるのがおかしくて、楽しくて、駅までのみちのりも、缶チューハイ一本を飲み終わるのもあっという間ですこし寂しい。

友達が少ないんです、友達いないんです、と、よく自虐してしまう。友達をしてくれている人たちに申し訳ないな、と思うけど、わたしは友達だと思っていても相手はそうは認識していないかもしれない、と思うと怖くて、この人は友達です、と言えないでいる。同じものを好きだからといって、仲良くなれるとも限らない。だいたい、仲良くなれないことの方が多い。
でも、蒲田の夜道を缶チューハイ(ひとりは、コンビニで買った氷のカップにウイスキーを注いで飲んでいたけど)片手に笑いながら歩いたら、これはもう友達と言って良いんじゃないかな。どうですか?

スカイスパには電車一本だった。3人とも今日はサウナ3軒目だったこともあり、サクッと30分後に、と約束してわたしは女性フロアに向かう。
スカイスパは久しぶりだ。
前に来たのはまだサウナを好きになってすぐの頃で、なにもかもがきらきらして素晴らしく思えたけど、いろんなサウナに入るうちに、横浜のあれはやたら人気だけどなんでそんなに人気なんかわからん、こじゃれてていけ好かんしサウナもぬるいし料金も高いし私は誘われても絶対いかんし、と斜に構えていた。今となっては相当、もう相当に恥ずかしい。でも、「アンチスカイスパ」と「アンチテルマー湯」は誰しも通る道だと思っている。ごめんなさい。
たしかに温度は優しいけれど、優しい温度と湿度でゆったりと過ごせばしっかり身体は温まる。初めてうけたアウフグースはスカイスパだった。あの時の感動を、熱さを忘れたか。
優しく静かなサウナ室は、ずっと捻くれてとげとげしていたわたしを責め立てることはなく、よく冷えた水風呂も、塩サウナも、あたたかいテルマー椅子も、なにも変わらずただ優しくそこにあって、わたしは今までの自分のうぬぼれた言動、驕りを、変わってしまった自分を恥じた。

そのあとの深夜読書会は、3時ちかくまで続いた。

僕のマリさんの昔の作品や僕マリ通信、文フリの作品たち、湯遊ワンダーランド、わたしは先日のバーで配布された一枚と、『ひかりのうた』、『たわごと』、ぜひ読んで欲しかった翼の王国のエストニア特集を持ってきた。
同じものを好きだからといって仲良くなれるとは限らないけど、好きなものを好きと言える場所はなんてしあわせなんだろう。あまり会話はなかったように思うけど、持ち寄った本や漫画をめいめいに楽しんで、深夜の背徳的なご飯(わたしは焼きそばとおにぎりを食べた)も、気持ち良いくらいの酔い加減も、なにもかもわたしには特別で、心地良くて、読んでいたマリさんの文章がその時間の尊さに重なって、バレないようにすこし泣いてしまった。わたしはすぐ泣いてしまう。

眠気の限界で解散したあとも、その余韻を引きずってしあわせなまま、スリーピングルームに向かった。
ひとの寝息、衣擦れの音、確かにあるたくさんの存在感に安心する。
そうか、わたしは寂しかったんだ。
天井は星空を模しているのか、いろんな色の光で彩られていて、眼鏡を外すとひどい乱視と近視のせいでそれは余計に激しく、そしてぼんやりと儚くみえた。良い夜だった。

朝7時、スリーピングルームを案内してくれたお姉さんに「起こしてほしい時間を紙に書いてカゴに入れてもらえれば、起こします」と言われていたからその通りにしたら、太もものあたりを優しく、ぽん、ぽん、と叩かれるので目が覚めた。寝ぼけて、母かと思ったけど、母にそんな優しく起こされたことはないからきっと、想像上の「ママ」だ。
もぞもぞと起き出してスリーピングルームを出ると、当たり前だけど朝日はのぼりきっていて、そびえ立つビル街にヨコハマを感じる。たぶん、東京でも同じような景色は見られるけどなんとなく違って見えて、たぶん空気がヨコハマのそれなんだ。よく知らないけど。

朝の明るいサウナ室はまた格別だ。
忙しなく行き交う車を上から眺めて、ここだけゆったりとした空気と時間が流れている優越感に浸る。こういうところが、性格の悪さかもしれない。
地下水、天然水の水風呂は柔らかくて好きだけど、冷たくて肌にギュン!とくる水風呂もまた、良い。いろんなサウナを、いろんな水風呂をそれぞれに愛したい。

お餞別で、こだまさんの『夫のちんぽが入らない』の文庫版(二重になったカバーが素敵だった)と、爪切り男さんの『死にたい夜にかぎって』をいただいてしまった。(もしかしたら借してくれただけかもしれない。もしそうだったらちゃんとお返しするので、言ってください)わたしは、機会があれば渡そうとおもって選んでいた本、三島由紀夫の『女神』をおかえしに渡した。読み古した本で申し訳なかったけど、この人は心がすこし大人になった少女のようだから、なんとなくこれが好きそうだな、と思って選んだ。自己満足が大半だけど、人に渡すものを選ぶのは楽しい。

京浜東北線に揺られながら、昨日のことは絶対にnoteに書こう、と決めた。
ふたりとも、わたしがサ活やnoteに書く文章をたいそう褒めてくれて、自分に自信がないわたしはひとに褒められると怖くなってしまうし、嘘をついてるのかも…と疑ってしまうけど、ふたりの書く文章や感性がわたしは大好きだったから、信用してありがたく受け取っている。

文フリで挨拶して以来会うのは2回目で、文フリの時もはじめましての挨拶をするくらいだったけど、昨日の16時半から明けて3時まで、なんとも居心地よくしあわせな時間が過ごせた。そう思ってるのが私だけだったら恥ずかしいので、もうあまり言わないことにするけど。

自分でなにかを作り出せるひとを、心から尊敬している。確立した感性と、それを言葉にして、作品にできる熱意、行動力。これからもふたりのいちファンであり続けたいし、刺激を受けたい。そしてできればまた、こんな時間が過ごせたら。

#かまカル #蒲田温泉 #スカイスパ

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今日の子

なにものでもない サウナが好き
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