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初めてのフェス 〜「しょこたんフェス」レポート〜

ー あなたの声が聞きたい。あなたの一言を、直接リアルに聞きたい。
そのためなら、どんなに遠くても会いにいく。

 5月5日金曜日、日比谷公園に着いたのは午後3時半を回っていた。とても暑い。有楽町駅からここまで歩くだけで、背中に汗をかく。
 日比谷公園は、ビル街の真ん中に穴を開けたような青空の下、屋台とテントが立ち並ぶイベントでごった返している。日比谷公園に来たのは、生まれて初めてだ。
ー 日比谷野音はどこかな?
 心配は杞憂だった。バンドのかき鳴らす「スリル」が聞こえてきたから。エガちゃんが出るフェスは、ここしかないでしょ。

 ここ日比谷野音で5時半から、「しょこたんフェス」が行われる。愛称”しょこたん”こと中川翔子さん(以下、しょこたんで統一)のフェスに参加するために、北の国から半日かけてやって来た。5月5日はしょこたんの誕生日、今年はデビュー20周年、そしてコロナ禍を脱してコンサートの入場制限がなくなったタイミングで、企画されたフェス。直前に、しょこたんは結婚発表したので、さらにめでたい。
 フェスなので、しょこたんだけでなく、他の出演者、江頭2:50(エガちゃん)、アイドル声優の平野綾さん、Little Gree Monster、相川七瀬さんも出演するという豪華さ。
 昨年のエガフェスはオンライン配信での参加だったからな。いい年齢になって、若者時代にも行かなかったフェスに参加するのって、どうだろう。周りから浮かないだろうか。ちょい不安。

 日比谷野音の前に人が集まってくる。入口を離れたところに短い行列が出来ていた。よく見ると、中川桂子さん、しょこたんのお母さんと写真撮影するコーナーだった。桂子さんは、しょこたんのYoutube「ヲちゃんねる」でも大人気だ。

 野音の前の大きな並木道を歩く人々。入場を待つ行列が出来ていく。見れば、頭の白いおじさんが並んでいる。ゴスロリ風の少女もいる。おしゃれなファッションの20代くらいの女性のペア、そして男女のカップルも並んでいる。
 行列の人々、並木道を歩く人々がすごく多彩だ。コスプレ姿の人たちが自然に混ざっている。ガンダムのシャアのコスプレをした金髪の男、ミャクミャク様の被り物をしたタイツ姿。全身まピンクのアイドルみたいなドレスを着た、ちょいお年の女性三人組。ミニスカートの水色のセーラー服を着たおじさん。多様性とは、こういうことか。

 入場してみると、初めての日比谷野音は思ったより小さかった。「ナオンの野音」など伝説の場所だから、大アリーナをイメージしていた。
 すり鉢状の底にあるステージと客席が近い。客席数を数えてみると2000人くらいの収容数か。開演を待つ人々をスマホで映していたらスタッフに注意されたので、撮影を止めた。

 私は「いつき!」シリーズと銘打って連作短篇の小説を書いてきた。すでに12話書いている。基本設定と主要キャラが登場する第1部、お話の風呂敷を思いっきり広げる第2部まで書き終わって、これから広げた風呂敷を畳みクライマックスと結末の第3部を書き出さなくてはならない。
 これでいいのか、迷いが尽きない。とにかく、もっと面白い話にするには、もっともっとパワーが必要だ。創作のパワーを、ここ、しょこたんフェスで充電するんだ。

 オープニングアクトの後、フェスは「スリル」で始まった。エガちゃんだ! 私はエガちゃんのファンでもあるから、大興奮。会場も総立ちで声援を送る。
 スリルを熱唱した後、エガちゃんはステージに倒れ、横たわる。大丈夫か? 客席から、エガちゃんコールが湧きあがる。
「ちょっと待って。ブリーフ団、麦茶持ってこい!」
 ブリーフ団が持ってきた白い水筒から麦茶を飲んで、エガちゃん復活。
「江頭さん、カッコよかったですー!」
 ここで、しょこたん登場! 二人で、ブルーハーツ「人にやさしく」をデュエットする。歌詞の「ガンバレ!」のところでは、私も、観客もステージに向かって叫ぶ。ああ、気持ちいい。
 「人にやさしく」を歌い終わった後、エガちゃんは、
「俺のこと好きって言ってたくせに、結婚しやがって。キスぐらいさせろ!」
 しょこたんに抱きつき、ブリーフ団に強制排除されていた(お約束のやつです)

 次は、平野綾が歌う。平野綾はしょこたんの20年来の友達で、レジェンド・アイドル声優であることしか、私は知らなかった。そうでしたか、「涼宮ハルヒの憂鬱」の涼宮ハルヒ役でしたか。彼女はロック調の歌をつぎつぎ歌う。客席の前方が大盛り上がり。だんだん暗くなってきて、観客の持つサイリウムの光が映える。
 しょこたん再度登場。平野綾が言う。
「セットリスト、しょこたんの好きな曲にしておいたよー」
「綾ちゃん、かわゆすー。ずっと友人なんですけど、わたし、ただのオタクなんですー」

 続いてLittle Gree Monster(リトグリ)の6人が登場。「ほら笑って」の曲で観客をつかみ、「ジュピター」のアカペラのハーモニーの美しさは圧巻! サイリウムの色は一面グリーンに変わり振られる。私も買っときゃ良かった。
 しょこたんと司会が登場し、リトグリとの関係について語る。
「中川さん、こんな人たちをバックバンドにしてたんですか?」
「いやいや、あっと言う間に、星の彼方へ行ってしまいましたー」
 そして、しょこたんが「今日一番緊張してるー」と語った、リトグリとのアカペラ春の曲メドレー。
「わたし自己肯定感低いから、みんなの顔が見れなくて、『ちゃんと目を見てください』って注意されちゃった」
 練習の成果が出て、いいハーモニーでした♪

 ゲストの最後は、相川七瀬。凄い! 全盛期そのままのロックボーカルで客を煽る。客席総立ちで赤のサイリウムが波のように動く。「恋心」を歌っている中、しょこたん登場。そのまま二人で歌う。「夢見る少女じゃいられない」で締め。

 観客のボルテージが最高のところに、しょこたん登場! 歌って、踊って、ジャンプして、エネルギー全開!
 イジメられて、他人が信じられなくなり、自殺を図ったこともある、しょこたんが、どうして、これほどエネルギッシュなパフォーマンスができるのか。

 激しいパフォーマンスの合間に、彼女が静かに語った。
「宇宙につながるような、こんな夜 … 水木一郎アニキをはじめ、わたしの好きな、この場にいて欲しいけど、いない人のことを思う…」
  確かに空は漆黒の闇、満月が朧になってビルの上に浮かぶ。このMCが妙に心に引っかかる。

 最後、全出演者で「空色デイズ」を熱唱する。
「走り出した想いが今でも この胸を確かに叩いているから」
 しょこたんが腕を天に突き上げ、胸を叩く。

 ステージの終り、
「みんな! 次会う日まで、誰一人死ぬんじゃないぞ!」
 やっと聞けた! しょこたんの、このコールを肉声で聴くために、ここまで何百キロの距離を越えて来た。

 全出演者が退場して、観客も退出を始めた時、客席でしょこたんコールが湧きあがる。コールに答えて、しょこたん出てきた!
 開演から三時間が経っていた。もう祭りの時間は終わりだ。

 日比谷公園を出て、地下鉄駅まで歩きながら考える。私は見たいものを、ちゃんと観ただろうか。
 しょこたんのパワーの源は何だろう?
 フェスの間、彼女は繰り返し語って、叫んでいた。
 大好きなパフォーマーたちと同じステージに立てる喜び。好きなものを追いかける情熱。
 「今、ここにわたしがいるのは、歌の力、そして皆さんのおかげです」繰り返される、感謝の想い。
 それだけじゃない。今回気づいたのは、死者への想いだ。彼女は、水木一郎アニキを口にしていたが、きっとそれだけじゃない。
 フェスの直前に、彼女は愛猫のメポちゃんを亡くし、悲しくてたまらなかった、とネットニュースが伝えている。
 そもそも、しょこたんのスタートには、父・中川勝彦の早世と喪失があった。俳優で歌が好きな父親のことを彼女は何度も語っている。お墓参りを欠かしたことがない、とも。

 私は思った。
 人はいつか死ぬ。どれだけ生きたくても、やりたいことが残っていても、死は突然容赦なく襲う。今、生きて、ここにあることが奇跡だ。しょこたんフェスという同じ場を共有できたことが、すでに奇跡。
 なら、死までの短い期間を、精一杯命を燃やして生きる。できること、したいこと、好きなこと、全部やってやる。

 それが、しょこたんの想いかどうか、わからないけれど。
《FIN》

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