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本格イタリアンと名乗るイタリアン

近くにイタリアンの店がある。

数年前にできたそのお店はオシャレで味も美味しく僕は時々利用していた。
でも最近ではなかなか行く機会がなく、一年ぐらい足を運ばずにいた。

先日、たまたま近くを通ったのだがその店に新しい看板ができていたのだが、その看板に少しげんなりした。


その看板には「本格イタリアン」と書かれていたのだ。

これは蛇足以外の何物でもない。

完全なるファミレスとして成立しているならまだしも、値段は少しお高めで店内はオシャレで近くの大学生が使うには良いデートスポットである。
それが「本格イタリアン」と書かれるとチープな印象を作ってしまうのだ。
ファミレス向けとしてバイキングや安価なものを提供しているのなら「本格イタリアン」という意味合いに一定の効果がある。「この値段で本格イタリアンを食べれるならリーズナブルね」というやつだ。しかし、客層を成人に向けているなら「本格イタリアン」と書くのはちょっと違うのではないか。

なぜなら本格イタリアンの店は自ら「本格イタリアン」と名乗らないからだ。
名乗らずとも店の雰囲気やこだわり、味を持ってして「本格イタリアン」であるのだ。つまり本格イタリアンになるには本格イタリアンがどういう振る舞いをしているかを見極める必要がある。


これは本格イタリアンに限ったことではない。
例えば僕が本を出したとする。
その謳い文句に「この本面白いですよ」は通用しないということである。面白い本はどうしているか。装丁や文章スタイルをどのようにデザインしているか、そういったところで読者は無意識的にその本を取るかどうかを決めている。なので他人が勧める「面白いですよ」と自らが名乗る「面白いですよ」は全く受け取り方が違う。自らが名乗ることで胡散臭くなるのだ。


学校の給食に時々「すき焼き風煮」というおかずが出てきた。
これは「すき焼き風煮」であって「すき焼き」ではないということだ。本格イタリアンと名乗ることはそれと同じことである。


少し話が変わるのだが、この「なんとか風煮」や「なんとかもどき」という表現はあまり嫌いじゃない。
この曖昧さが僕の琴線に触れるのだ。本格イタリアンの話と矛盾しているかのように聞こえるが全くそんなことはない。
「どっちやねん」的なボケを真顔で言ってのける具合がひどく好きなのだ。それを学者がつけたとなると尚更面白い。

例えば、昆虫などの生物の名前では多く見受けられる。
「カマキリモドキ」は触覚が短いこと以外は「カマキリ」に似ているということからその名がついた。
自分の名前に「もどき」という言葉がつけられるのはかわいそうな気がするのだが、この曖昧かつ明瞭な名前を学者がつけたとされるとこが好きだ。


他にも「ニセクロホシテントウゴミムシダマシ」というのがいる。
これは名前の中に「偽」と「騙し」が入っている。もっと言うならば「ゴミ虫」とまで言われている。
もうこうなったら悪口以外の何物でもない。いくら「黒星てんとう」と讃えようとも、それに反する「偽」「騙し」「ゴミ虫」が効きすぎている。
ここまでくるとこの馴染みのない虫に哀愁すら覚える始末である。


他にもどんな昆虫の名前があるのかと調べてみると、この世には興味をそそる名前がいくつかあることがわかった。
その中でも目を引いたのが「トゲアリトゲナシトゲトゲ」である。
何かのなぞなぞのような、それこそ騙されたような名前である。
関西人でなくとも「どっちやねん!」と言いたくなる名前だ。

この名前を説明するには順を追っていかなければならない。

まず、「ハムシ」と言う虫がいる。この「ハムシ」にトゲがあるものを「トゲハムシ」と言う。
そしてここが最もイケない致命的なところなのだが「トゲハムシ」のことを「トゲトゲ」とも言うのだ。

昆虫とは同じ種類でもマイナーチェンジによっていくつかの種類に細分化される。
それは「トゲハムシ」にとっても例外なく言えることである。
そう、「トゲハムシ」と呼ばれる種類の中でもトゲがないものが出てきたのだ。
なのでこのトゲがない「トゲハムシ(=トゲトゲ)」を「トゲナシトゲトゲ」と名付けたそうだ。

しかし、この「トゲナシトゲトゲ」にもトゲがある仲間がいることが分かったそうで、この名前を「トゲアリトゲナシトゲトゲ」と言うのだ。
なんともややこしい。明確な優柔不断といったところだろうか。


なんともややこしいのだがラーメン屋にいって店員が注文の確認を終えたところで、「やっぱりラーメンにんにくアリで!」と言う僕はどこか「トゲアリトゲナシトゲトゲ」と共通するところがあるかもしれない。


「にんにく増し増しラーメンにんにく抜きで」

ここまできたらなんとも迷惑な客だ。


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