風邪について
小学校二年の秋。初めて学校を休んだ。この日は土曜日だった。
今でこそ学校は週休二日制だが、その頃は土曜日でも学校があった。昼まで3限ほど授業を行い、家に帰る。
なんて事のない土曜日。
ただ、その時は幼い僕にとっては大事なイベントがあった。
なにを隠そう、それは焼き芋大会の日だったのだ。
春にみんなで植えたサツマイモが収穫の時期を迎えていた。みんなで芋掘りをして、新聞紙にくるみ、焼けたそいつを「はふはふ」言いながら頬張る。
大人になった今でもちょっと楽しそうなイベントではないか。
そんな肝心な日に僕は風邪をひいた。小学校に入り、今まで一回も休んだことがなかったのに。午前中で終わる土曜日だったのに。焼き芋大会という大切な日に。
それでも僕は風邪をひいた。初めて学校を休んだ。しょうがないから病院に行った帰りに母にスイートポテトを買ってもらった。でも僕が欲しかったのは焼き芋だった。
それから何十年かすぎた。
大人になった僕は風邪など全然ひかなくなった。と言いたいがそういうわけにはいかない。
むしろ小さい風邪を合わせれば年に何回も風邪をひいている気がする。つい先日も体調を崩していたし先月に限ってはその月だけで3回ほど風邪をひいたのだ。
さほど不摂生な食生活や睡眠を行なっているわけでもないのにだ。
そして、風邪をひく時は決まって喉をやられる。
その上、洟水が止まらなくなりティッシュを多用し、くしゃみが止まらなくなる。
そんな時の必須アイテムといえば、喉ぬーるスプレー、龍角散のど飴、マスクである。
この三種の神器があればとりあえずは凌げる。
これで完璧なのだがメガネをかけながらマスクをするとメガネが曇るから車を運転中の際はマスクを外す。
しかし、これがいけない。
のど飴を食べている時、マスクを外している時に限って、くしゃみがでる。
そしてくしゃみの勢いに負けてのど飴も一緒に飛散する。おかげで僕の車の中には食べかけの、のど飴が至る所に散らばっている。
のど飴を食べる。
少ししてからくしゃみが出そうになる。今度こそはと思い、僕は自分のくしゃみに負けないように、のど飴を歯茎とほっぺたの間に隠す。
「ぶぇっくしゅん!!」
「カラカラカラ」
お手本通りのくしゃみは、のど飴を死守することができずにダッシュボードに直撃する。
そして、その行方を見届けることもなく再びのど飴を口に入れる。
今度こそはと、再度心に決め僕はくしゃみをする時に口を固く結ぶことにする。
くしゃみ VS 僕である。これほどまでにどうでもいい闘いに哲学を見出す。これは自分との闘いなのだ。
くしゃみの風圧に負けないように。負けることに慣れてしまわないように。
「ぶぇっくしゅん!!!!」
「カラカラカラ」
「ぶぇっくしゅん!!」
「カラカラカラ」
「ぶぇっくしゅん!!」
「・・・」
そして何度目かの勝負の末、僕は勝利を手にした。
勝つためには諦めないということを身をもって経験したのだ。
ところでこんな話を聞いたことはないだろうか。
実は現代の医学では風邪を一発で治す薬を作ることは可能だそうだ。
しかし、それをすれば医者が儲からないから敢えて作らないらしい。
そんな話を最初に聞いた時はこの世のカラクリを知った気がして驚愕したのだが、改めて思うと本当だろうか。
本当のことを言えばきっと本当だと思う。
でもそれが科学者の見栄であったほうが面白い。
「オレ、その気になれば実はなんでもできるんだぜ!!」という、まだ本気出してない感に世界が踊らされている。
そう考えたほうが面白い。
そして僕はそんな騙し討ちを最後尾で腕を組みながら鼻で笑いたい。
そんな風邪についてのお話。
とっちらかった文章とのど飴。飛散する悲惨な風邪のお話。
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