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「好きなことだけで食っていける」のか?

SNSの隆盛で、個人が自分の能力をアピールできる機会がずっと増えた。とはいえ、本当に「好きなことだけで食っていける」のか?

「好きなことだけで食っていく」というキャッチフレーズは、SNSでちょっと有名になった人たちが、結構な割合で口にするのだけど、ちょっと意地悪な見方をすると、自分のフォローワーを増やすとか、有料サロンとか有料記事とかに誘導する以上の意味があるのか、と最近よく考える。あるいは「有料サロンで生きていくこと」が、その「その人の好きなこと」なら、確かにそれは正しいのかもしれないけど...

私がそのキャッチフレーズにちょっと違和感を覚えるのは、食っていく、つまりお金をいただくことは、他者の利益になること。一方で、好きなことというのはその人自身のためのこと。それは、基本的に別々のことなのではないか?と考えているからだ。

あなたが何が好きでも、たいていの場合には「好き」というだけでは、誰かの利益になることはまずないし、むしろ「好き」というだけの場合は、楽しみを受け取る客の立場の方が近いかもしれない、という気すらする。

だだし、好きだからこそ、結果や利益を度外視した時間や情熱をかけられる。そして、その過程で得られたものが、仕事として何らかの形で他者の役に立つことは十分にありうる。しかし、それは厳密には「好きなことだけで食っていける」こととは異なる。どちらかと言えば、自分の好きなことを突き詰める過程で得られた知識や技術が、他者の役に立つ場合には、仕事として成り立つ場合がある、ということに過ぎない。

「好き」と「食っていく」の間をつなぐには、実はそのあたりの視点が重要だと思うが、その意味で、やっぱり「私は自分の仕事を愛している」と「自分の好きなことで食っていく」と公言することは、似て非なるものではないかと思う。

つまり、もしあなたを訪ねてきた営業マンが、「私にとって利益があるので、これを買ってくれませんか?」といったら、「そうか、頑張ってくださいね!」と、笑顔ですみやかにお帰りいただくと思う。でも、「これは、あなたにとって利益がありますよ!」と言うことが、その営業マンの利益にかなっていたとしても、そこは問題ないし、むしろそれは当然のことだと思う。

ただし、自分の顧客候補に向けて、「あなたにとっての利益」よりも先に、「私の好きなこと」を押し付けるのは、やっぱり仕事の姿勢としては、とても違和感があるのだ。仕事してお金を受けとる態度として、傲慢ではないか?という気がしてならない。少なくとも、私ならそんな仕事相手は選ばない。

「好きなことだけで食っていく」というキャッチフレーズへの違和感は、つまりそういうところだ。それを言い始めたら、その人の「好きなこと」は、本当に仕事になりうるのだろうか?と。(確かに好きなことを夢中にやっていて、それがたまたま人の注目を集めることはある。でも、その人は「好きなことだけで食っていく」セミナーなんてまずやらないだろう。)

「あなたの好きなことは、誰かの役に立ちますか?」

好きなことが仕事になるかどうかの線引きは、結局そこだと思う。なので、誰かのセミナーのキャッチフレーズに惑わされるより、自分の好きな何かで、誰かの役に立つ知識や技術はないか、そこを徹底的に考え抜くか、もしくは、好きなことは純粋に自分の楽しみとして、それは仕事としてお金をもらうことと切り離すか、そのどちらかだ。

[追記 2018.07.13] 本当は第三の道も多分あって、「自分の好きなことを周りにお金を払う価値があるほど好きになってもらうまで、ただただ磨き上げる」。そこまで行ければ、多分それは十分に仕事になり得る。でも、そういう方面の何人かの人にも会ったけど、「好きなことで儲ける」と気軽に言ってしまう人たちとは、根本的に異なる人たちだ。何かに身を捧げる覚悟が、根っこの部分から違うのだ。

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