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日本で語りにくい女性のセクシャルウェルネスとSexTechについて

私はここ最近、Femtech(Female × Technology)についてのnoteをいくつか書いています。Femtechは長い間、女性の健康課題は我慢が当たり前とされていたものをくつがえす希望を感じるからです。

Femtechが包括するのは、月経周期管理、妊活、避妊、ガンの早期発見、育児に活かせるベイビーテック、更年期障害ケア……その中に含まれるセクシャルウェルネス領域のSexTechは、日本の会社員としては語りにくい領域ではあります。
とはいえ、グローバルなメディアのニューヨークタイムズ、フォーブス、ガーディアンで取り上げているくらいのもので欧米では知られつつあります。

この件を書こうと思った理由は2つあります。

・Femtechの中で数多くのSexTechスタートアップが出ていることが面白い。
・以前、自分が所属しているコミュニティでFemtechイベントを実施した際、セクシャルウェルネスのテーマが盛り上がった。

女性が性について語ることは、フェミニズムと切り離すことは難しいです。

私はフェミニズムの掲げる問題定義に共感するところはありつつ、会社員として言論の自由を行使しきれないことと、哲学者ジジェクが言う「主義(イズム)とは自分たちの偏見を吐露しているだけ」に共感するところもあり、無条件に賞賛することに躊躇はありますが、セクシャルウェルネスはイベントでめちゃくちゃ話が盛り上がってたし、みんな実は関心ある分野です。
欲求不満のヤバイ女と思われないよう、コンプライアンスに触れない程度で書きます。


デジタルとエロス

人間の欲望であるエロスは技術の進化を加速させると言われています。
動画のストリーミング技術に一役買っています。

2019年6月の世界のWebサイトのアクセス数ランキングは、トップ10にふたつのポルノサイトがランクインし、生殖と結びつかない性は大きな経済活動となっていることが分かります。

1位 Google.com (月間アクセス数604.9億)
2位 Youtube.com (月間アクセス数243.1億)
3位 Facebook.com (月間アクセス数199.8億)
4位 Baidu.com (月間アクセス数97.7億)
5位 Wikipedia.org (月間アクセス数46.9億)
6位 Twitter.com (月間アクセス数39.2億)
7位 Yahoo.com (月間アクセス数37.4億)
8位 pornhub.com (月間アクセス数33.6億)
9位 Instagram.com (月間アクセス数32.1億)
10位 xvideos.com (月間アクセス数31.9億)


女性のセクシャルウェルネスとテクノロジーをつなげた先駆者は、シンディ・ギャロップです。大手広告代理店から、米国支社を立ち上げて会長にまでなったキャリアを持ち、性はもっとオープンに語られるべきとして、動画共有SNSの「Make Love Not Porn」を立ち上げました。
彼女はWomen of Sex Techにも所属しており、近い活動をする団体にFuture of SexSEXTECHSPACEがあり、カンファレンスもよく行われているようです。


ライフスタイルブランドのプラットフォームThe Helmでは、大人の女性に向けた洗練されたデザインで、ファッションからセクシャルウェルネスまで幅広く扱い、購入することで製品を販売している女性の起業家たちを支援できるようになっています。


日本でバイアグラは半年で認可。低用量ピルは34年かかりました。

ジジェクは古代神学者アウグスティヌスの性欲論について「人間の性欲の過剰で、非機能的な本質的に屈折した性格が、人間の傲慢さと権力欲に対する神の罰」であり男性の性欲は「超越的シニフィエ」と言っています。


女性たちが起業した多数のSexTechスタートアップ

19世紀、イギリスで女性の「ヒステリー」の精神治療のために発明されたバイブレーター。グロテスクではない、素敵なデザインで、女性たちによって全く違った進化を遂げていることを紹介したいと思います。
女性にとってのセクシャルウェルネスは、精神、健康面で充足することで社会的な自己決定も行う自律心につながる良さがあります。

紹介するものは5つの共通点があげられます。

・テクノロジーを駆使していること(流通ビジネスモデル、製品自体)。
・社会に向けてブランドの思想を発信する上でデザインを重視していること。
・体験設計を重視していて、一人や二人で愉しむことや、製品が生活空間に馴染みやすい。
・「ウェルネス」や「セルフケア」としていやらしさやグロテスクなものを感じさせない。
・ほとんどがWebやアプリからすぐに製品やサービスにアクセスできる流通設計になっている。

Unbound
UnboundのCEOは若くして癌を患い、その後、デロイト トーマツを経て起業したブランドです。LGBTQフレンドリーで、CEO自身が若年性更年期障害になったことから、幅広い年代に向けてセクシャルウェルネスを応援しています。ミレニアル〜Z世代に向けたMEMEでのコミュニケーションを行なっています。


Emojibator®
ミレニアル世代は絵文字を使って性の話をパートナーとする「Emoji Sexting」をするらしいですが、そんな若い世代の性と親和性の高いポップな絵文字をモチーフにしたブランドです。


Maude
Aesop?と思うようなシックなコスメのようなデザインのセクシャルウェルネスブランドです。トイやローションが生活空間に馴染むようになっています。


Emjoy
アプリ上で、気分に合わせて聞くタイプの女性向け音声ポルノ。マインドフルネスやセルフケアが流行している欧米でよくメディアに取り上げられています。


Dipsea
こちらもEmjoyと同じく聞くタイプの女性向けポルノコンテンツです。500万ドルの資金調達もしており、LGBTQ向けに選択できるプログラムがあります。


Crave
(スタートアップというには長く続いている企業ですが)プロダクトデザイナーとシリアルアントレプレナーが起業したブランドで、一見するとネックレスにしか見えないトイで、USBで充電できるようになっています。様々な製品でこれまでに300万ドル以上調達していると言われます。


Spectrum Boutique
2015年に設立したこのスタートアップは、アーティストでもあるZoë Ligonが性教育と女性のセクシャルウェルネスのためのグッズや書籍をプラットフォームで販売しています。


Allbodies
性教育啓蒙のメディア兼ECショップのプラットフォーム。セクシャルウェルネスだけではなく、婦人科や中絶に関する悩みを相談できるようになっています。


ZALO
可愛いデザインで、アプリから操作ができるIoT製品が多くあるブランドです。アプリ上では消費カロリーも見ることができるそうです。


MysteryVibe 
上記のZALO同様に、アプリと連動したIoT製品です。不思議な形状で自由な形に変えて使える製品を出しています。


vibio
ロンドンのスタートアップで、こちらもIoTとして、アプリと連動した製品があり、性について話し合うVIBE GANGというコミュニティも作っています。


Bellesa Enterprises
Bellesaは様々な事業展開をしています。トイのECサイト、官能小説動画配信。横断的なセクシャル面でのライフスタイルブランドと言えます。


Dame Products
Femtech領域でも有名なブランド。トイではありますが、男女で使えるものも販売しています。
製品自体がなめらかで落ち着いた色味のものが多く、洗練されています。


AVE
デンマークで2014年にできたブランド。性的な感じがなく、デザインが綺麗でオブジェのようです。


Smile Makers
2002年設立で、スタートアップ ではないのですが、可愛いので紹介します。
女性たちによって起業されて完全に女性視点で作られ、数々のデザイン賞を受賞し、フェミニズム的な啓蒙やエロティックアートの支援もしているブランドです。


LoraDiCarlo
世界的家電見本市CES2019でイノベーション賞を受賞したものの、セクシャルウェルネス領域であることから取り消しになり騒ぎが起きたブランド。


Womanizer
2015年に出てから、世界的に大ヒットしたドイツ製の製品です。特許をとった「吸引」技術が売りです。

Rory
医師が監修する女性の婦人科検診をオンラインで受けられるサービスで、ローションもサブスクリプションとして販売しています。デザインがコスメと同化するようなおしゃれなものが多いです。


男性向けはもっとすごいものができるかもしれない

AI搭載のセクサロイドは、倫理の懸念はありつつも実際に発売が進んでいます。

ジジェクがブレードランナー2049について語った内容によると、未来の性の在り方をこのように言っています。

Bryan Appleyardを参照しよう。 “Falling In Love With Sexbots,” The Sunday Times, October 22 2017, p. 24-25: 「セックスロボットはすぐに商品化され、全体の4割の男性がそれを買うことに興味を示すだろう。一方的な愛情というものだけが、未来のロマンスになるかもしれない。」この傾向にかなり説得力があるために、何も新しいものはもたらされない。それはただ単に、実際のパートナーを自分の幻想の材料に貶める典型的な男性の手続きを実現しているだけなのだ。


祝福される女性器

男性器はネタにして話せるのに、ネタにするのもためらわれる女性器を祝福する動きが出ています。希望、抑圧、論争の印象の強い複雑なフェミニズムとは異なる、あっけらかんとした明るさのある動きもあります。

スウェーデン発の生理用品メーカーLibresseは、「VIVA LA VULVA」という大胆な動画を2018年11月にPRとして発信しました。
ファットボーイスリムの曲「Praise You」を元に、コンプレックスも跳ね除けて誇りを持とうというメッセージが込められています。
このインパクトのあるPRは、デリケートゾーンソープのためのもので、発売から2ヶ月で市場を33%シェアしました。
2018年の世界的広告祭のジェンダー部門で受賞した生理の血をありのままに見せるプロジェクトから、力強い発信を続けています。

女性をエンパワーメントするメディアでは#Vulvalutionというプロジェクトがあります。セクシャルウェルネスを肯定し、女性が自分の身体に持つ性器に関心を持とうという主旨のInstagram上でのプロジェクトです。

Instagramの「look at this pussy」では、淡々と女性器にみえるものを集めつつ、フェミニストが性についてのアドバイスするコラムとして展開しています。


Netflixにある性を学べる真面目な動画

下記にあげたものは非常に真面目な内容の動画です。(エロくなくてなんかすみません)

「クリスチャン・アマンプール: 世界の恋愛&セックス」の第一話は日本の事情から。


「世界の"バズる"情報局」の「セックスボット」の回は、女性向けのトイ事業者と、男性向けに性格を変えられるAI搭載のセックスボットハーモニーの開発者や、愛用者が語る興味深い回です。

性教育をテーマにした現代の青春群像劇。


「世界の"今"をダイジェスト」のオススメは「女性のオーガズム」の回。身体の仕組みの勉強になります。


SM嬢とゲイの青年の友情物語。社会に割り当てられた性役割を、逆にフェティッシュに楽しむSMはジェンダーの戯画化のようで面白いです。


沈黙は暴力というプラカードを掲げてデモを行うフェミニストたちは「2017年になっても抗議運動をしないといけないなんてうんざり」「戦うことをやめたいのにできない」と語ります。


全裸監督の作品の賛否の色んな意見がありますが、黒木香さんが主体的に性を表現しようとしたことは、女性は敬意を持って考えを知るべきだと思います。


せめてセクシャルウェルネスくらいはジェンダーギャップを無くせないのか

これはオンライン性教育サービスの「O.school」が調査したオルガズムのジェンダーギャップの可視化です。
社会の経済活動だけではなく、セクシャルウェルネスもギャップがあることは、日本にもあると思います。私は女性が主体的に自分の身体に対して無知であることも関係していると考えています。

人間の三大欲求の性の領域くらい正しい知識を身につけ、自己決定したいものです。


「共同参画」2019年201901 _ 内閣府男女共同参画局

少し古い情報ですが、国内のアダルト向け市場は46兆9,763億円と推計されています。女性が主体的な性をビジネスにして社会進出も叶えられる期待値があります。

性/ジェンダーシステムの女性問題、性科学、医学、生物学、テクノロジーの交錯まで踏み込んだことを考えるのに興味がある人にはダナ・ハラウェイの本をおすすめします。

現代の日本で隠す存在である女性のセクシャルウェルネスについて、上記であげたような既成概念を変えるスタートアップが、日本でも出てくると良いなと思っています。

ジジェクは既存の価値観に超然と問題定義した哲学者フーコーを「自分自身を発明し、主体として生み出し、独自の生き方を見つけるためのオルタナティブなライフスタイルに魅了されていた」と評しましたが、自分の人生をデザインして、自分の快適な生き方を、自分で発明するのはセクシャルウェルネスにヒントがあるかもしれません。


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