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ジェンダーの多様性とノンバイナリー(第3の性)

性別というものが異性愛主義的な男性・女性だけではなくなってきているのはもう世の中で一般化しつつあり、ジェンダーについてのメディアや広告での炎上は、今もどこかで発生しています。

その多様な在り方は変化しており、正しさというものは存在せず、ただ今ここにある事象を理解するための知識を整理することと、私が注目している「ノンバイナリー(第3の性)」について書いてみます。
社会がどうなるか、出生率は影響するのかという視点ではなく、あくまでも「個人」の「社会」への向き合い方が新しく発明されたオルタナティブな存在の出現についての話です。

LGBTQ自体の多様性と複雑性

LGBTQという言葉はよく聞きますが、もはやこの5文字に収まらなくなってきています。身体の性、心の性、好きになる性のジェンダーの多様化と複雑性が男女の二元論で語れないことを象徴しています。
基本的なものとして知られているのは下記の5つです。

L(レズビアン):同性愛の女性
G(ゲイ):同性愛の男性
B(バイセクシュアル):両性(男性・女性)愛の人
T(トランスジェンダー):心と体の性が一致しない人
Q(クィア):セクシュアルマイノリティの総称でもあり、男女の二元論に縛られない人

LGBTQ+、LGBTIA、LGBTQIA+、LGBTIQAP…
Q(クィア)といえば最近Netflixでも人気の「クィア・アイ」で、実際交流がなくてもどんな人たちか想像がつくかもしれません。
上記のQの拡張が+(その他大勢)であったり、I(先天的に身体を男女で判断できないインターセックスと言われる人)、A(好きになる性がないか、性的欲求がないアセクシャル)、P(全性愛のパンセクシャル・複数性愛のポリセクシュアル)で表されています。他にもFABGLITTERQUILTBAG、LGBTPZNという表現もあるらしいです。

LGBTTIQQ2SA
リベラルな風土のカナダでは、ジェンダーのカテゴリを表したものが細分化されています。
T(トランスジェンダー・トランスセクシュアル)、I(インターセックスといわれる性分化疾患)、Q(クィア・クエスチョニング)、2S(2-Spirit:先住民かつ様々な性役割を持つ人)、A(アライ : セクシャルマイノリティを応援するすべての人)


タイの18種類のジェンダー
多様なジェンダーに寛容であると言われるタイでは、西洋のLGBTQと異なる18種類の性が存在しているそうです。

アフリカ系限定のSGL
Same Gender Lovingの略でアフリカ系の人が作ったセクシャルマイノリティコミュニティ。セクシュアリティだけでなく、人種マイノリティという二軸の課題を持つ者同士で支援し合う90年代初頭にできたものです。

インドのヒジュラ
男女の枠を超えた「第3の性」として男性の体に生まれながら女性としてのアイデンティティーを持ったり、インターセックス(性分化疾患)の身体の人たちがなるヒジュラ。
カースト制度では指定カースト(下層階級)に位置し、聖者として祭事に関わる一方で不浄の存在として扱われる複雑性があります。
ジェンダーの境界線上にある男女どちらでもない存在ですが、女神に帰依した者という宗教色や、女性として振る舞う規範のなかの、女性という軸があることが、ノンバイナリーと同じ第3の性と言われていても大きく異なる点です。

SOGI
「SOGIハラ」という表現で使われる言葉ですが、SOGIはセクシャルマイノリティ問わず多数派の異性愛の人も含めたジェンダーの表現で、Sexual Orientation and Gender Identityの略で2011年以降、国連が提唱し浸透していきました。
SOGIハラは、それに対して行われるジェンダーに紐づくハラスメントとして、アウティング、差別、不当な異動、不当な入学拒否、ステレオタイプを押し付けた生活などのことを言います。

トランスヴェスタイト、クロスドレッサー
Q(クィア)の細分化されたもので、異性装をすることを好むけど、自分自身の性表現の一つとして同性愛ではなかったり、性別をトランス(転換)することを望んでいない人を指します。

バ美肉
日本発のネットのMEMEで、バーチャル美少女受肉と言われています。
VRChatなどで過半数を占める男性ユーザーが、バーチャル空間で美少女のアバターを使用し、人によってはボイスチェンジャーを使う性の越境を試みています。
まだ2018年ごろからはじまったばかりで、新しい性の在り方になり得るのか、異性装のバーチャル版なのかはこれから進化し、議論が活発になるかもしれません。

セクシャル・フルイディティ
フルイド(液体・流動)のように性の対象が変化するもので、性自認(心の性)は定まっているけど、性的志向(好きになる性)が変わる人のことを言います。
(念のため書いておくと、この存在は決して同性愛を治療可能なものと考える差別的な人にとって都合の良いものではありません)


数多くの概念と課題を表す用語

複雑化と細分化で、分断が生まれるのは人間のかなしい部分ですが、様々な課題を表す用語が存在しています。

ホモフォビア、トランスフォビア、バイフォビア
セクシャルマイノリティへの差別も細分化されています。同性愛者差別するホモフォビアや、トランスジェンダーの人たちに対して差別(女子大学入学を揶揄するなど)のトランスフォビア、異性愛の人からだけでなくセクシャルマイノリティ内でも起こるバイセクシャルに対しての差別のバイフォビアなどがあります。

ホモソーシャル、トキシック・マスキュリニティ
有害な男らしさと言われるもので、女性らしい男性への差別や、女性へのからかいなど、男性優位社会ならではの男らしくあらねばならないというプレッシャーも作用して起こる問題を表しています。

ジェンダー・バックラッシュ、反動主義
リベラルな動きになりがちなジェンダー平等の運動、ジェンダーの多様性を説く言説に対して反対する保守派の動き。

クィア理論、クィア・スタディーズ
今までLGBTQとして「規範」から逸脱した人たちを紐解いた学問分野です。
日本では1990年以降から知られてきました。異性愛主義という「普通」をくつがえし、性科学の前提条件をも問い直しています。
扱う題材が複雑であることから、端的に言い切れない分野です。クィア理論以降、様々な議論が起こりましたが、抑圧的な異性愛主義の差別のスティグマ(負の烙印)は依然としてあります。

インターセクショナリティ
差別について人種、宗教、国籍、性的指向、性自認、階級、障がい、年齢などが全て相関関係にあるという考え方です。
多国籍国家アメリカにて、例えば、移民で女性でセクシャルマイノリティなどの場合、複合差別が生まれます。
包括的にマイノリティ同士での分断を生まないための概念です。

クィアベイティング
異性愛者がセクシャルマイノリティであることを匂わせたり、安易に誤った取り上げ方をするマーケティング手法が批判され、問題になっています。


ノンバイナリー(第3の性)

男女の二元論を越境した存在はQのカテゴリで様々な表現(+、A、I、P、X…)をされてきました。
異性愛の生殖中心ではないジェンダーの多様性の中で、男女のどれにも定まらなかったり、迷っている存在としてのQ、もはやその分類を超えた「ノンバイナリー(第3の性)」を自称する人々が現われました。
彼らは男でも女でもどちらでも無いのです。

著名人の表明は、60〜70年代にロックスター(デビッド・ボウイ、ミック・ジェガーなど)の自己表現としても使われたバイセクシャル像と似たものを感じますが、バイセクシャルに似て非なる男女二元論から逸脱している点が特徴的です。

もう30年近く前に出版された1990年のジュディス・バトラーの著書「ジェンダー ・トラブル」にて、以下のようにジェンダーのパフォーマティブな撹乱について語った理論があります。
理論が社会で実装されたのか、予言していた現実が表出したのかはわかりませんが、現在起こっている事象とつながっているように感じます。

実際わたしたちは身体性という意味を持つ偶発的な三つの次元──つまり解剖学的な性と、ジェンダー ・アイデンティティと、ジェンダー ・パフォーマンス──のなかに存在している。
ジェンダーは真実でもなければ、偽物でもない。また本物もなければ、見せかけでもない。起源もなければ、派生的でもない。だがそのような属性の確かな担い手とみなされているジェンダー は、完全に、根本的に不確かなものとみなしうるのである。

ノン・バイナリーは、ジェンダークィアも同じ概念を意味しますが、「クィア」という言葉は、昔は蔑まれていた表現(ヘンタイ、奇妙)を逆手に取り、既成概念に反撥する政治的な運動とも関係していることから、中庸な表現であるノンバイナリーを使うこともあるようです。
他にもXジェンダー、ジェンダーフルイド、ジェンダー・エクスパンシブ、ジェンダー・オーサムの名称もあります。

カリフォルニアのバークレーではやや極端ですが、性差にまつわる単語を使わないという条例を作ったニュースが話題になりました。(例えばマンホールやマンパワーの表現はNG)


また2017年に大手メディアによるLGBTQコミュニティプラットフォーム「them」ができて文化を牽引しています。


セレブリティと言われるポップスターや俳優などが、今までの同性愛者としてのカミングアウトと異なり、「ノンバイナリー(第3の性)」を自称することが増えてきました。


カナダではどちらでもない性を表すため、Mr.でもMs.でもない「Mx.」が公的な身分証明書で認められました。


まとめ

複雑でよくわからなくなってきましたが、「当たり前の性」の定義はなくなりつつあり、社会・文化と混ざり変化しています。
なぜこんなに用語が多いのか?ということは、ノンバイナリーであることを公表した歌手のサム・スミスが「既存の二元論にとらわれない、自分の認識する性の特別な生き物である」と語ったようにアイデンティティの発明を皆が各々に行ってきたからではないでしょうか。
とにかく、みんな人間ということは間違いないです。

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