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映画『PERFECT DAYS』と役所広司の掃除道

 ドイツの名匠、ヴィム・ヴェンダース監督が東京で撮影し、主演の役所広司カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞した映画『PERFECT DAYS』を、年末、慌ただしい中、結構、無理して、観に行ってきました。

 私は、いわゆるシネコンのTOHOシネマズのシネマイレージ会員(有料・廉価)になっており、映画の鑑賞時間に応じたマイレージがたまる(1Pt/分)のですが、12/29(金)時点で、200Ptほど貯まっていたのですね。

 シネマイレージ会員になると、6本観ると、1本無料というメインの特典があるのですが、それ以外にも、マイレージに応じて、抽選などの特典があります。

 その特典のひとつに、「【抽選】年末マイル交換キャンペーン! TOHOシネマズ鑑賞券(1名様分)」に応募が、300Ptで、年末まで締め切りでできるとあり、「あっ、12月末までに観に行けば、映画は約120分だから、1口応募できるな」と思い立ちました(応募完了)。

 それで、話題になって、非常に気になっていた映画『PERFECT DAYS』を、12/30(土)の夕方が夜に差し掛かる頃の講演開始時間に、観に行きました。

 映画公開が盛んな年末ですが、いくつもの会場があるシネコンの中で、最も収容人数の少ないところでの上演で、しかも、夕刻からの日に3回の上演のみでした。

 こんなに話題になっているのに不思議だなと思いましたが、観てみてわかりましたよ。

 「これは、“違いがわかる人”しか観てもわからない、いわゆる“世間知を持った大人の映画”だからなんだな。」

 役所広司演じる主人公、平山は、渋谷で進められてきた「THE TOKYO TOILET」プロジェクトによる有名建築家などが手がけた数々の個性的なトイレの清掃員ですが、その日常が、ドキュメンタリーチックなフィクションとして、非常に淡々と描かれているのですね。

 私も、大学時代、清掃員の仕事をアルバイトで担当したことがあるのですが、一般的には、それは“汚れ役”の仕事なんですね。

 それを、あの役所広司が、“平山”そのものに成り代わったかのように、全く自然に演じているのです。これは簡単にできることではありません。

 平山は、寡黙で、ほとんどセリフがありません。最優秀男優賞を取ったような映画の主人公で、これだけセリフの少ない役というのは、過去に例がなかったのではないでしょうか。まぁ、もっとも、主人公が、トイレの清掃員という設定も、例がないと思いますが。

 平山のトイレ清掃の仕事は、大変丁寧で、若い同僚にもあきれられるくらいですが、私には、何かの修行をしているかのように見えました。

 観に行く直前に、曹洞宗住職、枡野俊明ますのしゅんみょう氏が書いた『人生を好転させる掃除道』というのを読んでから、映画館に行きました(たまたまです。)。

-禅では、「一掃除、二信心」といわれます。「まずは掃除、信心はそれから」 それほどまでに掃除を重視しているのです。-

 その本によると、禅寺には、「口を開いてはいけない場所」が三つあり、①僧堂、②東司とうす(トイレ)、③浴司よくす(お風呂)であり、いずれも大切な修行の場とされているらしいのですね。

 トイレで悟りを開いた仏様は、「烏蒭沙魔明王うすさまみょうおう」であり、トイレは「ご不浄」と呼ばれますが、その不浄の場で悟ったことから、「不浄を清浄に転ずる」徳を持つとされています。

 平山の日常は、淡々としていながら、それでも同じ日はなく、小さな変化に、平山は動揺します。その生活の中に、-本編では明らかにされていませんが-平山の結構な生い立ちと知性を感じるのですね。

 平山は、それでも日々、トイレを掃除して、ある種の修行の道を進んでいきます。

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