独り言 虹戦Ss

ランチタイムが終わり、店内に空席がちらほら見えてきた頃。
店長からようやく休憩に入っていいよ、との声をかけてもらい疲れから逃げるようにバックルームへと駆け込んだ。

「今日は朝からなのに、休憩はこの時間か。
さすがにちょっと疲れるなぁ」

ふぅ、とため息と共に座っていたパイプ椅子の背もたれに体重をかければ、ギシリと軋む音がした。
少し遅い昼ごはんはいつもながらに、行く途中に女の子から貰ったパンやらおかずやらで。
それらを片手にもう片方の手でスマホをいじる。

メッセージアプリを開けば雅國からメッセージが来ていて、ちょうど数分前に『今日飲める?』と。
今日のシフトもあと数時間で終わるものだから『いいよ、店?』、そう返すとすぐに既読になったのでそのメッセージ画面のまま雅國の返事を待つ。
案の定すぐに返事がきて『家』と言う簡潔なワードに一人でつい笑ってしまう。

『17時には終わるから、直接行くね。』

それからの休憩後のバイトの時間は比較的暇で、店長とお店の内装やらこれからやっていくキャンペーンやらの相談を受けたりしていたらスグにあがりの時間になった。

「じゃあ、お疲れ様です」

そう言ってバイト先のカフェを後にすると、慣れた足取りで雅國の家へと足を進める。
インターホンを押せば雑誌で見るのとは違いラフな格好の雅國が出て。

「久しぶりかな?」
「そうだな」

お酒持ってきたよー、と来る途中にスーパーに寄って買ってきた酎ハイや缶ビールをテーブルに並べていく。

20歳前後からフラっと遊びついでに所属していたカラーギャングでとても仲が良かったのは雅國で、カラーギャングを抜けたあともここまで付き合いがあるのは雅國だけだ。
ただ、芸能人とただのアルバイトは生活の差があって、雅國の暇にいつも自分が合わせているんだ。

「それで、雅國は仕事は?」
「忙しいけど順調だよ、ほんと忙しいけどな」

お酒片手に怠そうに呟く雅國に思わず苦笑いが浮かぶ。

「そういう叶斗は?」
「んー、ぼちぼち?」
「なんだそれ」

ハッキリしないな、と言われると確かにそうだね。と、笑いながら返した。
その後も黄派閥にいた頃の話とか、派閥にいたやつがすっかり有名になっていただとか。
思い出混じりの今の話に花を咲かせた。

不意に目を覚まし、スマホをつけて時間を確認すると深夜の3時過ぎで。
自分が寝ていたソファにはブランケットがかけられ、家主の雅國は床の敷物の上で寝ていた。

毎度毎度、ソファやベッドで寝ようとしない家主に慣れた手つきでブランケットを持ってきてかける。

自分のことを気遣って床で寝る家主が自分に向けてくる好意に気づかないほど馬鹿ではないんだ。
だけどそれには気付かないフリをする、気づかないフリをすれば一歩踏み込んでは来ないだろうから。

生活していくためにと、カラーギャングをやる前にやっていたウリ。
ただ俺の場合は相手が女の人じゃなくて男の人専門だってこと。
カラーギャングの、黄派閥に入ってからは時間が無いことや周りが面倒を見てくれることも増えたからやめていたけれど。
最近また、客をとるようになったんだ。
だから、こんなことをしている俺と雅國とは到底釣り合わない。仲のいい友達程度がいい具合なんだ。

「俺なんか好きでいても雅國は幸せに慣れないよ」

愛情の裏返しとか、そんなんではなくてこんな俺を好きになってしまった親友への同情。
叶いっこないその恋心に、どこか可哀想と思ってしまう俺の独白。

「おやすみ、雅國」

静かに寝息を立てる家主の頭を撫でるとまたソファに横になった。

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