妖旅館_Ss 神出鬼没。
まったく、この旅館に泊まりたがる客はいつになったら減ってくれるのじゃ…
毎日毎日蛇の如き行列を作りおって…
朝から働いておるというのにまた新しく客が来るではないか……
朝から受付に篭もりっぱなしでとっくに糖分の切れた蓮華は若干というか、かなりイライラしていた。
普段から眉間に皺がより、煙管に口付ける回数が多く、尻尾の幾つかがべちべちと床に叩きつけるように動いている。
「よくぞ当旅館に参ったな、なんじゃ宿泊か?」
新たにやってきた客の手続きを済ませると、これまで途切れることのなかった客が初めて途絶え。ここぞとばかりに蓮華は受付を抜け出した。
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「ふぅー、働いた働いた。 あのまま受付に篭っていたら腐ってしまうわい…」
ぐぐーっと伸びをしながら従業員用の廊下を歩く。
息抜きをできる所ならどこでも良いが、丁度甘い物も食べたいし調理場にでも行くとするかのぅ…
「っと、これはこれは。焔殿ではないか。」
「よぉ、お前もサボりか?」
「受付は窮屈での、我を留めておくには事足りぬ。」
足を進めた先の曲がり角で偶然、警備の焔に出会った。
職場担当こそ違うものの、彼とは度々旅館内で顔を合わせる仲であり何かと話す機会も多い。
彼も蓮華同様、フラフラと旅館内を歩いてる事が多い為頻繁に会う訳では無いが。
「ははっ、受付は大変そうだな。」
「全くじゃよ…、自由に動く警備が時折羨ましく思える。」
喉をクツクツと鳴らして笑う焔に先程までの忙しさを思い出し蓮華はため息を零した。
「気晴らしに楽しいことでもしようぜ。」
「ほぅ、焔殿の御提案とあらば楽しめそうじゃ。どれどれ、ついて行くとするかのぅ。」
九つに分かれる尻尾をパタパタさせながらニッコリと笑うと焔に寄り歩く。
此奴の考える事はとても愉快じゃからのぅ。
少々無茶ぶりをしてくるところが玉に瑕じゃが、飽きさせぬ者よ。
ニヤリと牙を見せ笑いながら企みを話す焔の話を、煙管を片手にふむふむと聞きながら旅館内を歩いて行く。
今日はどの様な悪戯をするのか楽しみであるな。
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