恋木犀_Ss xxx


時々今でも夢に見る、わたしのいやな過去。


いじめられるきっかけなんて些細な事で、アイツが気に食わないから。とか、アイツが何かをしたから。とか、なんとなく。とか。
ほんとに、そんなくだらない事。

それがわたしの場合は陰気な性格をしていたから、それだけ。
誰かに特別迷惑をかけていたわけでもないのに、中学生3年生の半ばに急に始まった。

全てが過ぎた今、冷静に考えたら高校受験が迫るストレスを抱えながら。思春期の男女が狭い箱に押し込められて半日を過ごすのだから、何かしらのストレスの捌け口が欲しかったんだと思う。
それに丁度向いていたのがわたし、本当にそれだけだった。

最初は些細なこと、話しかけても度々無視されるとか。筆記用具がなくなることがあったとか。
それは段々とエスカレートしていって、痛い思いだっていっぱいした。
でも高校生になったら解放されるって思って耐えてたのに。進学した高校にはわたしをいじめていた子もいて、結局変わることはなかった。

高校生にもなると、中学の頃に比べると大人のような体型になっていて力も勿論強くなっていった。
やめてって言っても聞き入れてくれなくて。力の加減なんてしてくれなくて。
身体中に痣が少しずつ増えていった。

身体中を襲う鈍い痛みに耐えながら、ひたすらに"ごめんなさい。"そう言っていた気がする。
わたしの何がそんなにアイツらをいじめに駆り立てるのかが分からなくて、それでもやめて欲しくてずっと謝ってた。
今考えれば何も悪いことなんてしてなかったのに。

流石に学校から帰ってきて様子のおかしい娘になにも疑問を抱かないお母さんじゃなかったけれど。
"学校楽しいから、心配しないで。"なんて嘘を作り笑いと一緒に伝えていた。
いじめられてる、そんな事実を伝える勇気がなかった。

学校が変わってもいじめられていたのに、クラスが変わったところでいじめが終わるわけもなく。
高校生2年生になっても、また。ストレスの捌け口になっていた。
わかってるからと言って、身体を襲う痛みがなくなるわけでもなく。

いじめてくるアイツらのうちの一人がふざけて首を締めてきた時は頭がパニックになった。
身体の先の方の感覚がなくなって、顔に血が溜まってく感覚がくるしくて、息が出来なくて。
声も出ないからどうにも出来なくて、ほんとにしぬんだ。って思って解放された時には胃の中のものが全部出ていた。
吐いたわたしを見て笑ってる声が、いやに耳に入ったのを今でも覚えてる。

それからまたもう1回クラス替えの時期がきて、相変わらずいじめられていたわたしは必死に耐えていたのだけど。
やっぱり限界はあっていつも通り学校に行こうと朝起きた時に、どうしようもない吐き気がした。
なにも食べていないのに体が全部吐き出そうとする。
きもちわるくて、くるしくて、なみだもとまらなかった。
とてもじゃないけど登校なんて出来なくて、その日は学校を休んだ。

次の日も、その次の日も。吐き気は続いて、わたしの世話をしてくれていたお母さんに「お母さん、そんなに頼りないかしら?」って。そう聞かれて、堰を切ったように言葉があふれでて、涙も枯れるんじゃないかってくらいないた。
何一つ具体的には言えてなくて、ごめんなさいって。ずっと言っていた気がする。
お母さんはそんなわたしを抱きしめて、撫でてくれていた。

それからは早くて、わたしが暫く学校を休んでいる間にお母さんが話をしたのか。
わたしの登校は週に数回程度になり、それも校内の面談室に通うものへと変わった。
わたしをいじめていたアイツらと会うことはなくなって。進路の話もわたしは遠くの大学に引っ越して通う事に決めたから、そこでわたしとアイツらの縁は切れたんだと思う。

卒業式もわたしは出なくて、高校を卒業してから直ぐに今の木犀市に引っ越してきた。
大学生活が始まる前に喋り方だとか、見た目だとか、表情なんかを全部。必死に変えた。
髪の毛も染めて、アイラインをツリ目がちにひいた。大人しい子ってナメられないように。
バカげた発想かもしれないけど、わたしにとっては大事なこと。

それらが功を奏したのか、なんなのかは分からないけど。
大学生活はいいものだった。
色んな人と関わって、色んな人に慕ってもらえた、と思う。

でも、たまに思い出すことがあった。
寝る前とか。お酒を飲んだ時とか。メイクを落として素の自分を見た時。
自分に自信がなくて、いじめられていた。
わたしの嫌いな碓氷 千里。

いつまでも過去に囚われている自分が惨めで。滑稽で。ひどく子供に思えて。
はやく大人になりたくて、歳上の男の人を引っ掛けては夜遊びをしたりもした。
歳上の大人といればわたしも大人になれる気がして。
遊んでた男の人の影響で色々した、ピアスの穴を開けてもらったり、タバコを吸ってみたり。
けどそんな事をしたってわたしはわたしのままで、いつまでも過去に囚われた子供のままだった。

きっと、わたしはずっとこのままなんだと思う。
本当はどこかでわかってる。大人になって、過去を気にならない人間になりたいんじゃないって。
本当は、わたしの過去を人に話せるくらい大人になりたいんだって。それでそれを受け入れてくれる人を見つけたいんだって。

つらかったね、がんばったね。って。
憐れまれて、同情されて、慰められたいの。

けれど、そんな自己愛に塗れた事は誰にも言えないから。
強くて自信に溢れた碓氷 千里の皮を被って、わたしはずっと生きてくの。


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