Story 1-6

 山猫の家を飛び出せば、そこはトネロア一の大きな通り、クロリア通りで。朝のマーケットの準備をしている、顔見知りのおばさんやおにいさん達に、走りながら挨拶をした。
 足の裏で感じる、石畳のひんやりとした感覚に思わずブルッとしちゃうんだ。
クロリア通りを北に、真っ直ぐ走っていくと、国の象徴王宮ジルコニットの南門が見えてきた。
 大きな南門の前に1人、大きなカゴを抱えた、わたしとおなじぐらいの身長の女の子がいて。トネロアの朝日に照らされて、銀色の髪の毛が一瞬、金色に光って見えた。

「ルナール、おまたせ!」
「おはよう、ラルム。
 全然待ってないから大丈夫だよ」

 ふんわりと笑うルナールに、ぼーっと見とれていると。じゃあ、いこっか。と、一足先にジルコニットへと足を進めたルナールに、駆け寄ってあとを着いて歩いた。 トネロアに住む人なら、何度か出入りしたことのある王宮だけど。それでも、全くきたことのないわたしには新鮮で、キョロキョロと周りを見ながら歩いていたら、後ろを振り返っていたらしいルナールに笑われてしまった。

「そんなに笑わなくても!
 ここにくるのルナールと違って、慣れてないんだもん!」
「ふふ、そうだよね。
 あたしも慣れなかったから、ラルムの気持ちわかるよ」

 興奮するわたしを宥めるように、ルナールにそう言われてしまった。
 それからもキョロキョロしながらジルコニットの中を歩いていくと、他のよりは落ち着いた、大きな馬小屋が見えて。酒場でよく顔をみる、兵士さんたちがそこにはいた。その兵士さんたちはカゴを抱えながら歩くルナールと、その後ろを歩くわたしに気がついたのかこちらにやってきて。

「あれ、今日はラルムちゃんも一緒?」
「はい、ラルムが手伝いたいって」
「そうかそうか。 ラルムちゃんもルナも、頑張って」

 そういった兵士さんはニッと笑い、わたしとルナールの頭をくしゃりと撫でたあと、ルナールの抱えていたカゴを持って小屋の中へと入っていった。

「エルヴィスさんが野菜とかは持って行ってくれたし、あたしたちもいこ」
「エルヴィスさん?」
「そう。今の人の名前、エルヴィス・クラージさん」


 あたしとルナールの頭を撫でた兵士さんの名前は、エルヴィスさんというみたいで、ルナールが教えてくれた。
 未だに裸足のままだったことを思い出し、急いでサンダルを履き足首でリボンをちょうちょ結びする。山猫の家で働いてはじめて貯めたお金で買ったこのサンダルは、わたしのお気に入りだ。 馬小屋に一歩足を踏み入れれば藁や糞の独特の臭いが鼻を刺激して。普段料理の匂いばかりを嗅いでいるわたしの鼻には、不慣れなもので不快感がひどかった。
 うぇ、と小さく吐きそうになるのを堪えルナールのあとを進むと、茶色や黒色、白色の体毛の馬がいて気を取られながらもついていった。一番奥の仕切りの中には、まだ生まれたての子馬がそこにいて、どうやらわたしはこの子の世話を手伝うみたいだ。

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