恋木犀_Ss 虚栄に囚われる。

ヴーッ、ヴーッ、と規則的に起こるスマホの振動で碓氷 千里は目を覚ました。
枕に伏せていたまだ完全に醒めきってない頭を上げ、スマホを手に取り時間を確認する。

「7時半か...支度しなきゃ...」

もぞもぞと自分の体温に染まったベッドから這い出て洗面所で顔を洗う。
鏡に映る寝起きの顔は最高にブサイクで、思わず失笑が溢れてしまう程だった。

いつ見てもブサイクで笑っちゃう。
メイクしなくても可愛い姿でいたいのに。

睡眠不足のせいか潰れてしまっている二重をマッサージしながら元に戻す。
顎周りも化粧水を塗りながらマッサージをすると心做しかラインがスッキリした気がする。

部屋に戻って慣れた手つきで普段通りのメイクをしていく。
紫色のカラコンをいれて、アイラインはちょっとつり目に。ピンク混じりのマスカラをつけてアイシャドウもリップも忘れずに。
接客業たるもの、見た目もサービスに入るから気は抜けない。
服装はつい最近お店に並んだばかりのシャツワンピースを。
髪の毛もヘアアイロンで内巻きにして、サイドの髪を編み込んだら完成だ。

ふぅ、と一息ついたら部屋の壁にかけてある姿見の前に立つ。
鏡の前でくるっと一回りしてみたり、ワンピースの裾を持ってみたり、後ろから振り返って確認してみたり。

「今日もかわいい、大丈夫。自信をもって。」

部屋に溶け込むような小さい声で自分自身に言い聞かせる。

これで"お店で働く碓氷 千里"の完成。
自分自身に自信が持てていて、明るくて、可愛い。それがお店で働くわたし。
ニッコリと鏡の中で笑うわたしは、とっても可愛い。

スマホを確認して時間を見ると起きた頃から1時間は経過していて。
冷蔵庫からドリンクゼリーを取り出し、化粧ポーチが入ってるハンドバッグを手に取り玄関へと向かう。
少し高さのあるパンプスに足を入れ口を開く。

「自信をもって、頑張るわよセンリ。」

囚われているかの如く再度呟かれた言葉を部屋に残して、碓氷 千里は出勤するのだ。

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