恋木犀_Ss なんでもない話2

「そろそろお開きにするか。」
「そうね、桜庭とみあちゃんの素敵な話も色々と聞かせてもらったし。」

大学時代からの腐れ縁である桜庭の言葉に同意すると共にニッコリと嫌味を添えて返した。

少し耳を赤くし恥ずかしそうにする彼を見てると面白いと思うと同時に、彼から伝わる淡い初恋に羨ましさも覚える。
わたしも恋をしてるけど淡い素敵なモノじゃなくてドロッドロに淀んでいて人から理解され難いモノ。
けどそれが嫌なわけじゃない、寧ろわたしにとっては心地がいい。
ただ、隣の芝はなんとやらよろしく、無い物ねだりなだけなのかもしれない。

「それじゃあ、みあちゃんによろしくね。
襲われないように帰り道気をつけなさいよ?」
「わかってる、碓氷も帰り道気をつけて。」

なんて冗談を後に飲んでいたお店の前で桜庭とは別れを告げた。

桜が咲き始めるには少し早く冬と呼ぶには遅すぎる今の時期の夜風は冷たく、アルコールで火照った体には丁度いいものだった。
そこまで飲んではいないし酔っている訳でもないけれど、それでもアルコールは入っているからか頭の思考回路が悪いように動く。

今日は珍しく四片さんが家を開ける日で、1人になりたくない気持ちから桜庭に声をかけ夜まで飲んではみたものの心の穴が埋まる事はなく。
それどころか寧ろ先程まで心地良いと感じていた夜風が胸をツンと刺すような冷たい痛みに変わった気がした。

帰り道の途中にあるコンビニに立ち寄り、甘い果実の缶チューハイを2つほど手に取りお会計をする。
今夜はきっと寝付けないから、飲んできたばかりだけど眠る為に飲もうかな。


彼のいない自宅のドアはいつもより重く冷たい気がした。
ただいま、と吐いた言葉に答える音はなく。言わなきゃよかった、なんて思った。

買ってきたお酒を冷蔵庫に入れ、お風呂に入る。
メイクを落とし服を脱げば、仕事で家を空ける前の日に残して、とせがんだ紅く痛々しくも見えるたくさんの痕が目に入る。
否が応でも目に入ってくるそれが、今のわたしにはより一層孤独を感じさせた。


帰ってくる日付を思い浮かべたところでその帰る予定が早くなる訳でもない、無駄な考えと分かりつつも彼が帰ってくる日を湯船に漬かりながら指折り数える。


風呂から出て髪を乾かし、何時でも寝れる格好になったらリビングのソファに枕とブランケットを持ってきた。
わたし1人で寝るにはあのベッドは広すぎて、彼の匂いできっと眠れないと思うから。
冷蔵庫に入れて冷やしていたお酒も持ってきて、テレビを見ながらブランケットにくるまり喉に流す。
夜の1時頃だと言うのに深夜のバラエティー番組は騒々しく、程よく寂しさを忘れさせてくれる。
最近人気だという芸人のネタに笑ってみたり、ゲストのアイドルに可愛いなぁ、なんて思ってみたりしたけれど

「やっぱりさみしいな…、あいたいなぁ……。」

空に混ざるように、無自覚に言葉がこぼれた。
しばらくすると見ていた番組は終わりを告げ、音楽番組へと切り替わった。
お酒もいつの間にやら2缶飲み終えており、それを自覚すると眠気がやってくる。
テレビの音量を程よく下げ、もそもそとソファに横になる。

「おやすみなさい。」

相手のいない言葉は、薄暗い部屋に溶けていった。












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