見出し画像

新しいまちを楽しむ才能と、店番がしたい話

2月から新しく宿のバイトを始めた。新しいまちに、週に1回出勤している。ここでいう「新しい」は私にとって「新しい」だ。再開発できれいになったとかそういう意味ではなくて、私が今まで足を踏み入れたことのなかったまちのことを指している。

バイトは朝8時30分から始まる。10時までのコーヒータイムでは宿に泊まるゲストにコーヒーを出してちょっとした会話をする。チェックアウトする方がいれば、宿泊のお礼にキャンディを渡して「よい1日を」と言葉をかけて見送る。

それが終わるとシャワールームやトイレの清掃、ベッドメイクなど。コロコロをかけて髪の毛1本落ちていないか、何度も確認をする。

バイトが終わるのは13時。お腹が空くので、まちで何か買って食べる。駅の近くのおにぎり屋さんに行ったり、友達が営むカフェに行ったり。まだルーティンは定まっていない。

この前はお惣菜屋さんに行ってみた。散歩をしてみて分かったのだけど、このまちにはお惣菜屋さんがいくつかある。私は宿から一番近いお惣菜屋さんに行ってみることにした。
大きなコロッケを1つ買ったのだけど、お店のおばあちゃんはニンジンのかき揚げをおまけしてくれた。気づいたのは食べる直前だったので、お礼は言えなかった。

次の週、また同じお惣菜屋さんに言った。この日はお稲荷さんと舞茸の天ぷらを注文したのだけど、「これじゃ寂しいじゃない」と言って、他にもあれこれ詰めてくれている。先週もくれたニンジンのかき揚げと、中華風の味付けをしたおかずを入れてくれた。

「先週もおまけしてくれましたよね」
『いやいやいいのよ』
「ありがとうございます!」

心をホクホクさせながら、宿に戻り、全部食べた。

*****

私はまちを楽しむ才能があるのかもしれない、と思った。もう少し正確に言うと、私は「私が働くまち」を楽しむ才能があるのかもしれない、と思った。(ただし、「住んでいるまち」を楽しむ才能はあまりない。)

新しいまちで、新しいお店に行って、顔馴染みができていく。振り返ってみると、自分が働くどのまちでもそういう存在がいることに気付いた。

昼食の後、おまけのお礼に友達が作っているクッキーを渡したら、お礼に筍ご飯をもらってしまった。無限ループだ。これじゃいくらお返ししても、また何かが返ってきてしまう。

バイトを続けている間は、ずっとこのお店に通おうと決めた。
急に今年の目標が1つ増えた。それは、店番を頼まれること。おばあちゃんがこのまちを楽しむこと。「やっと自分で買いに行けたわよ」ってそんな言葉を聞くこと。

エゴなのは分かっているけど、その方が楽しい気がするから。店番、頼んでくれないかな。


この記事が参加している募集

新生活をたのしく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?