帰り道 (くるり)

私がしみじみくるりを好きだなと思う理由のひとつに、カップリング曲の良さがある。
この間(チミの名は。東京公演だったかな?)のライブ中のMCでも、特に広報なんかしなかったカップリング集がトップをとって…なんて話もあったけど、大いに納得である。

もちろん、定番曲の中に好きなものも多いのだけれども、シングルでもなく、アルバムにも入っていないし、ライブで演奏されることもほとんど無い、「あれ?どこに入っていたんだっけ?」なんて思ってしまうような曲の中に、じんわり沁みて何度も聴きたくなる名曲が潜んでいるところが最高なのだ。特に、NIKKIの頃のカップリング曲にはそんな感じで好きなものが多い。

中でも「帰り道」はその最たるものだ。

「帰り道」はシングル「Superstar」の2曲目である(ちなみに3曲目の「真昼の人魚」も好きなんだけど、脱線しすぎるとあれなので今回は割愛)。

Superstarの頃の、何というか、やや重みのあるギターの効いた曲調が私は好みなのだが、帰り道もサウンド的にはそうで、特に低音がバリバリ効いた重厚感のあるイントロで曲は始まる。
そして、初めに繰り出される言葉が「心が脈打ち始めた」である。

もう、この時点で既にノックアウトだ。
何て繊細かつ確かに心象を浮き上がらせる出だしだろう。

そして、「春の陽差しがそうさせた 違うよ」と、曲は続いていく。

あの重厚感ある低いギター音の連なりは、凍るような寒い日々を経て少しずつ季節が進み、硬い氷や雪なんかを解かし始めた春の太陽、そして語り手を見守るように柔らかく注ぐ陽射しの優しさや確かさを思わせる。きっと語り手も、そんな中、春を迎えて芽吹き始めた植物達のように「心が脈打ち始めた」のであろう。

でも、次には「違うよ」が来る。
ん?と(岸田氏のことだし)ここで天邪鬼な展開を予想するけれども、意外や意外、「あなたの笑顔がそうさせた 素直な僕がそうさせた」と続く。

あくまでも、素直なのである。

この先も、曲はそのままのトーンで、捻ることなく進んでいく。

「駄目な僕」「口づけは今日もぎこちなく」など、本来あまり器用ではなさそうな語り手を力づけ、支えている暖かな「春の陽射し」、そして「あなた」の存在。その確かさ。大きさ。それが彼をゆっくり、しっかり歩き出させるのだ。その安心感。

くるりの曲の中で、ここまで素直にこんな暖かさが描かれることは珍しいと思う。
私自身、天邪鬼な人間であるので、何だか気恥ずかしくなるような感じがしなくもない。でも、そんなこともどうでもよくなってしまうような暖かな安定感や信頼や優しさを感じるのだ。だからなのか、何故だか素直に聴ける。そして語り手だけでなく聞き手も支えられることになる。

この曲でもう一つ、好きなのは、最後の「ずっと」の連呼の後、語り手の気持ちが一番盛り上がっている(?)はずのところで、それが明示的に示されることなく、「こんこんからからここんこん」という小気味よい音に託されている点だ。
一体何が来るんだろうとは思うのだけれども、きっとこれでいいんだ、それはきっと言葉にできないしする必要もない気持ちで、でも絶対的に確かで暖かな「予感」なのだと思わされるのだ。

こういった、くるりの歌詞の裏の「語られない」部分が私は好きだし、それを絶妙に浮かび上がらせる作りこみ方(サウンドを含む)が好きだ。

そして、そういったものが光る目立たない名曲が多いのも、くるりの大きな魅力だと思っている。

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