superstar (くるり)

おそらく、どちらかといえば地味めソングに入るんだろうけど、解禁当初から今までずっと好きな曲です。
確か、音源だけの存在としてだけでなく、現実的にくるりを意識し始めてから初めてオンタイムで発売に立ち会った曲でもあるので、その思い出込みでますます、というのもあるかもしれない。でも、曲としても本当にツボで、一回聴いた時からずっとエンドレスリピート状態の気に入り具合だった。
当時、Mステにくるりが出演するってなった時には、友達に「絶対観て、superstarっていう曲、すごく良いから!」と宣伝しまくっていたんだけれども、実際歌われたのが「赤い電車」でしょんぼりした、というのも今では懐かしい(笑)。

とにかく好きなのです。

でも、正直、何を歌っているのかはよくわからない。

「芝生の向こうで呼んでいる」スーパースターって、何を指しているんだろう?

「今戻って抱きしめて…」のところなんかからは、失った恋のことを歌っているのかとも思ったんだけれども、「さよならスーパースター」の相手が別れてしまった恋人というのは少し不自然な気がする。
どんなに憧れていた相手だったとしても、たとえそれが高嶺の花だった人だとしても、「ありがとう僕も愛してる」と言えるような間柄であった人は「スーパースター」ではないように思う。
いや、本当に「スーパースター」的な人と付き合うとかなら、まあ分かるかな、とも思うんだけど、この曲の中の相手がそういう人という感じはあんまりしない。だからとても不思議。

でも、私はこういう「よくわからない」というか、行間の多い歌詞が好きだ。もしかしたら、書いた人の描いたものとは違うスケッチを自分がしているかもしれないけれども、そういう解釈の幅というか余裕の中で遊べるのがいい。はじめからぎちぎちで文字以上のものがない世界では自由に泳ぐことができない。

だから、というのもあるけど、そうでなくてもとにかくこの曲は好きなのだ。

失ってしまったものに対するほのかなセンチメンタリズム。

執着しているわけではないし、今はその「過去」とは違う「現在」の状況にいて、それを当たり前として過ごしているんだけれども、何だか時々ふっとよみがえる「あの時」の感覚に、懐かしくなるような温かくなるような寂しくなるような…

戻れるのかなって思いもするけど、もう戻れないのも知っている。
今はあの時じゃないし、あの時はあのまま今に繋がらない。
自分はその「今」にいる。そして、その「今」から、「あの時」を見つめている。ちょっとした感傷を抱えつつ。

だから、「忘れたこと思い出せるから(戻って触ってほしい)」なんて言いながらも、「全部忘れてしまうよ」、「何処へ行ってもいいよ」、「さよならスーパースター」なんて言ってしまう。

わざわざ「さよなら」を言わなければいけないのは、そうする必要があるからだ。完全に「さよなら」したものであれば、わざわざあえてそう言うことはない。それはちょっとした決意でもあり宣言でもある。自分に向けてのものかもしれない。

しかし、その後には「目に汗が入って」「心に隙が出来」てしまったという言い訳(?)が来る。
さらに、冒頭部の歌詞を繰り返して「誰もがリフレインに涙する」と来る。
最後には「そんな風になって忘れたこと思い出せるかな」というつぶやきと共にストーリーが閉じられる。

結局、「さよなら」して(できて)ないし、思い出したい。
分断がある「過去」と「今」の間を行ったり来たりしながら、「忘れた」「忘れる」「思い出す」の間も行ったり来たりしている。

そのリフレイン。涙。

涙はするけれど、決して暗くはない。
それは美しい思い出になったあの日があるから。
だから、戻れないという現実認識はありつつも、そのセンチメンタリズムの中には何だか居心地の良さというか柔らかな温もりのようなものすら感じる。

そして、そんな歌詞の世界観が、見事にサウンドともマッチしている。

♪レーラー レーラー
というイントロから延々と繰り返される音階。リフレイン。

「芝生の向こうで呼んでいる」ような遠くから聞こえてくる単音ギターから始まって、まずそれが弾けて複音になるところが最高に気持ちいいし、その後ベースやドラムが入って、テンポも動いたりメロディーが乗ったりしていく中で色々な色彩をまとって活きていく。

それは途中であまり聴こえなくなったりするけれども、それでもふっと戻ってくる。
その感じが、今は遠くにいるけれども、その存在がしっかり語り手に結びついていて、センチメンタルにさせたりしつつも支えてくれている「スーパースター(実態は謎)」を表しているような気もする。

他にも、「さよなら」宣言した後に冒頭まで戻ってしまって、結局「思い出せるかな」で終わってしまうぐるぐる感(笑)。
その「リフレインに涙する」に戻っちゃう感じも「リフレイン」だし、そんな柔らかな感傷から抜け出せなくなるような仕掛けだらけの非常によく構成された曲だと思う。

だから、この間の「チミの名は。」の中でこの曲が聴けたのはとても嬉しかった。

また聴きたいな。できればいつか、芝生の上で。

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