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見返らず美人

序~フェチとは~

「フェチ」

それは、特定の身体的部位あるいは服装や所持品などに異常な執着をみせることをいう。

知らんけど。そうしておこう。

私はこういったものを否定するつもりは一切ない。
ただ、それを平然と宣言する人間が跋扈する現状に憤慨しているのである。

よって、以下にそれら偽フェチの問題点を指摘し、フェチと呼べるであろう事例を紹介することとしたい。

まず、フェチに関しての先の定義のうち、「君の執着は本物だ」「あなたはまだ執着が足りない」などという判定は不可能である。よって、ある程度の判断基準として、その執着が「何だか異常」であり、ちょっと他人とは違い「個性的」であるという2点を一応ゆるめのものを設定しておこう。
追記として、それが迷惑行為、犯罪行為となった場合はノーカウントである。

よくきくフェチ

一般的なフェチ宣言に以下のようなものがある。



「オレって耳フェチなんだよね」
「私って鎖骨フェチなの」




ある特定の部分を挙げて、自分はどこどこに目がいくのだと報告する。続けて、その良さを説明するなり、特定の人物名を挙げ「誰々の何々がよい」と自らの思いを押しつけるなりして話は展開していく。

さて、ここですでに先に決めた定義と若干の乖離が見られる。
異常性の欠如である。
これらフェチ宣言においては、往々にして異常性を感じられない。上記のような宣言を行う人間は結構存在する。つまり「普通」である。
しかも、そのバックボーンとして、自分は周囲の人間とは違うのだ、だから特別視しろ、という気持ちが見てとれることが多い。「やっぱ洋楽だよね」「私流行のJPOPなんて聴かないわ」のウザさ、という音楽界が抱える問題がフェチ界にも浸出しているわけである。
加えて、かなりの確率で対象となる人物自体に肯定的な印象を持っており、その人物を賞讃する意図を含んでいる。これは何ら「異常」ではない。好きな人の良いところを挙げて、自分の好きさ加減を再確認しているのだ。これは恋愛中の女子高生なんかと変わらない。「普通」である。
そんな輩には声を大にして言ってやりたい

「普通じゃーん!!」

フェチ的事例:何だか異常

その職場には酒飲みが多く、おそらく毎日誰かがどこかで飲んでいるといった状況だった。彼は年齢的に下のほうで、つきあいもよく、また独身でもあったので頻繁に飲み会に誘われており、ほぼ皆勤賞だった。

しかし、彼の行動には不審な点があった。彼は職場から飲み会会場まで同僚とともに向かうことはなく、5時の終業と同時に一人の後輩を連れ、駅前のパブ的な店のテラス席に座り、1パイントのビールを飲みほしてから飲み会へと向かうのである。

彼はシラフでは話せないほどシャイではない。いじりもいじられもこなすことができる。
彼は職場の飲み会が嫌いではない。むしろ万障繰り合わせて参加していた。
彼は酒豪ではない。事実飲み会では大抵寝ていた。
彼はテラスで酒を飲む自分に酔ってはいない。冷房が効いている席が良いと不満を漏らしていた。


そんな彼が、5時過ぎにテラス席でビールを飲む理由。


「オレ、パンツスーツが好きなんだ」

夕方5時過ぎの駅前。絶好のパンツスーツスポットである。
ここまでやってこそ、「異常」な執着である。


フェチ的事例:個性的

そして、もう1点「個性的」という点だが、これも「パンツスーツ」ということでそれなりの評価を得られると思う。おそらく多くの男性が、生足やタイトスカートについて語るなかでの「パンツスーツ」。

しかも、彼の個性を感じさせるのが、パンツスーツに対する評価のみしか行わない点にある。彼は徹底してパンツスーツしか見ていないのである。
例えば、素晴らしい後ろ姿のパンツスーツ女性がいたとしよう。
少し赤みがかったロングヘアー、スレンダーな体格、すっと伸びた背筋、高めのヒール。そしてネイビーのパンツスーツ。
ここで多くの人が思うであろう。

「たのむ!ふりむいてくれ!」

しかし、彼は違う。



「そのまま!そのまま歩き続けてくれ!」

彼は完璧にできあがっているパンツスーツのフォルムを、余計な情報を付加せずに見ていたいのである。彼はその女性の顔を見ようとしない。見たくないのだ。


「だって、ブスだったらどうするん」

仮にふりかえって、パンツスーツにそぐわない顔であったときに、もう純粋にパンツスーツを評価できなくなってしまうからであろう。


小結~「何だか異常」と「個性的」の関係~


ここまで真剣にパンツスーツに向き合う人間がどれほどいるであろう。
これを「個性的」というのではなかろうか。
異常の特化が個性を創出する、ということを示す事例といってよい。

今回は、ゆるめの定義のもとに考察を試みたが、より多くの事例を収集した上で、より明確にフェチを把握することができると考える。よって、今後は一定数の事例をもとに帰納的にフェチを定義することを課題としたい。

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