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~福井を舞台に。福井の若者たちが波及させる「創造的希望」~第4章

4.福井に「創造的希望」を育む

(1)福井県に「創造的希望」を波及させるキーパーソンは誰?

 第3章のインタビュー調査から、「創造的希望」を波及させることのできる可能性を秘めた主体をポジティブなUターン者と仮定する。彼らは、一度地元を離れたことで地元や地元で暮らした過去について多角的視点で捉えられるようになっただけでなく、大学在学中の経験によって自信と主体性を獲得する。さらに、彼らには地元や県外での大学生活で出会った友人たちが全国各地にいることだろう。その中には、現在はUターンしないと決めていても、県外で経験と能力を身に付けてからいつか地元にUターンして貢献したいという想いを持っている者もいる。つまり、ポジティブなUターン者は、県外での刺激的で緩やかな人間関係を新たに育みながらも、それと同時に、地元での密な人間関係を継続させていると言える。「物的資本は物理的対象を、人的資本は個人の特性を指すものだが、社会関係資本が指し示しているのは個人間のつながり、すなわち、社会的ネットワーク、およびそこから生じる互酬性と信頼性の規範である」(パットナム,2006[2000]:p.14)と言われているが、ポジティブなUターン者は、地域にとって人口増加という意味で物理的資本、県外での経験を地域に還元するという意味で人的資本となり、さらには、地元だけでなく、県外での生活を通じて蓄積した社会関係資本の宝庫として地域に貢献する可能性を有する。さらに、「社会関係資本は流出しにくい資本であり、例えば生徒が地元を離れても、それは物理的な他出でネットワークや信頼関係は維持されることから」(田中,2021:p.120)、Uターンの有無に関わらずポジティブなUターン者との繋がりを持った者たちもまた、何らかの形で地元に貢献する第二のキーパーソンとなる。

(2)「創造的希望」を連鎖させるには何が必要か

 第2章で、福井県民はコロナ以前から旅行など地域外での娯楽に依存していたことで、コロナ禍において、家庭や地域内での主体的な活動から生きがいや楽しみを見出すことができず、主観的幸福度が相対的に低下したと分析した。
 福井県内に旅行に代わる楽しみや、娯楽の場が生まれることに意義があるのは確かであるが、家庭や地域内での活動に対する行動者率が低いという福井県民の特徴を見逃すべきではない。Uターンしない者たちの「商業施設がもっとあったらいいかな」「刺激を受けられる環境や、やりたいことをできる環境があれば、戻りたい」という語りからも読み取れるように、福井に娯楽や仕事のための環境が魔法のように突如として現れることを望み、結局、県外の発展した環境に依存する状況は、県外へ出て「地域の外から自らを見る視点」(寺島,2020:p.17)を確保できたとしても、「自ら社会に主体的に関与していくプラットフォームを創造し参画すること」(寺島,2020:p.17)は不得意なままであろう。寺島(2020)が指摘するこうした状況を脱却するためには、福井県内には何もないと嘆く若者たち自らが福井に娯楽や仕事を作ることに参画し、それらを創造するプロセスそのものから楽しみを見出す経験が必要であろう。こうした経験を経て初めて「自我と社会が客観的な関心や愛情によって結合」(ラッセル,1991[1930]:p.273)されるのである。「自我」と「社会」、「自我」と地域住民、地域住民同士、地域住民と「社会」を結合させる役割を担う「何か」。この「何か」とは、地域に求められるもの、福井県であれば娯楽の場であろう。ポジティブなUターン者は、一度地元を離れたことによって、「「所属する国」と「実際に生活する国」の二つの視点を自分の身体に取り入れたとき、一人の人間の中には二重のパースペクティブが生まれ」(飯田,2020:p.325)、そして「真に自由な発想自体も、そこを離れ、眺めるからこそ生まれてくるものなのである」(飯田,2020:p.325)。娯楽の場を創るという「創造行為において複数の視点を自分の中に持つということは非常に重要な要素である」(飯田,2020:p.327)からこそ、ポジティブなUターン者という「自我」が主体となり、地域住民、「社会」を巻き込みながら娯楽の場を企画・運営することに意義があるのではないだろうか。「何か」を創造するプロセス、そして、完成した創造物が地域住民の関心によって認知され、応援されるようになった時、「自我」、地域住民、「社会」は結合する。そしてまた、この結合を認知、自分事化した別の「自我」に新たな「何か」を創造する原動力と勇気を与えるのである。こうして「自我と社会」の結合は各所で広がりを見せながら、別の結合体との出会いを通じて地域に大きな影響をもたらす「何か」の創造は達成、更新され続けるのだろう。
 そこで、現在、福井県出身で現在は県外の大学に通う4年生で福井駅前のクマゴローカフェを間借りし、イベントカフェ「秘密基地Mahalo」(以降、本企画または本イベントカフェと呼ぶ。)を開催した。筆者が地元福井で本企画を始めたきっかけは、ハワイ留学である。自らの経験と同じ大学生でありながら、異なる場所で様々な分野で活躍する地元の友人たちの多種多様な経験を元に、地元の中高生に向けて大学生活や海外留学について共有できるような機会を作りたい。そして、この経験を通じて地元で「何か」を起こすことの意義とやりがいを友人たちと共有したい。これら二つが本イベントカフェ第一弾誕生の動機であった。
詳細は以下の通りである。
・イベント名:「秘密基地Mahalo」
・場所:クマゴローカフェ
・形態:間借り営業
・企画・運営:福井県出身の大学4年生5人(Uターンする者、しない者を含む)
・開催日:2022/9/4,9/5(第1回)、2022/9/22(第2回)、2022/11/6,7(第3回)
・内容:カフェ&バー、フリーマーケット(フリマ)、ジャグアタトゥー

資料「秘密基地Mahalo」第一弾のポスター
資料「秘密基地Mahalo」第二弾のポスター
資料「秘密基地Mahalo」第三弾のポスター

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