アートを愛のあるお金にかえた、とある個展の記録①(発想編)

アートはお金にかえられない。

その価値を決めるのは「人間の感情」。それは比較できないもの。そこに優劣はなく、数字では測れない。それをお金に換算することはできない。

だからこそ、すごく高価なものにも変わる。数字で測れないものに、あえて人より高いお金を支払う。それが経済力や美意識を示すステータスになることもあるのだ。

それを見て「アートにお金を払うのは成功者の特権だ」と思っている人も多いかもしれない。

でも、わたしはいま日本でアートを求めているのは、会社に向かう電車でふと虚しくなるおじさんだと思う。失恋してアパートの一室で泣いている女の子だと思う。おじいさんとの日々を胸に抱いて淡々と生きるおばあちゃんだと思う。

マズローの欲求5段階説によれば「人は基本的な社会生活が充たされると、内的な欲求を求めるようになる」のだという。ほとんどの人が「ふつうの暮らし」を手に入れたいま、日本は「ふつうの人」がアートを求める社会になってもおかしくないのではないだろうか。

わたしはそんな「ふつうの人」にアートを届けたい。

だけど彼らがアートに求めるのは、ステータスではないだろう。もっとささやかで個人的な「愛情」のようなものだと思う。

愛情はお金にできる?

じゃあ「ふつうの人」にアートを届けて、それに相応しい対価を受けとるにはどうすればいいんだろう?わたしは同居人の素也さんに訊ねてみた。

「絵の値段をお客さんが決めるんはどうやろ?」

わたしの発想に、素也さんはちょっと不安そうな顔をした。はじめてのお客さんにとって、作品を評価して値段を付けるのはハードルが高すぎるんじゃないかと考えたようだ。

そこで、その根底にある想いを伝えた。

「最初から値段が付いてると『この絵は高い?安い?』から考えてしまって、対等な関係性が生まれない。買い手に値付けを委ねることで『わたしとあなたにとって、この作品の価値はなんだろう?』という、愛情ベースで作品に向き合ってもらえると思う。」

「わたしはお金を通して、愛情のやりとりがしたい。」

それならばと、素也さんが提案したアイデア。それが、仮装通貨「U$A(うさ)」だった。

仮装通貨「U$A」とは

これが実際に発行した仮装通貨「U$A」の外見だ。

既視感のある姿に驚かれた人もいるかもしれない。まるで、お年玉でお馴染みのアレのようだ。どういうことだろう。

以下は、実際の展示にあたって来場者に渡した説明書きだ。

仮装通貨「U$A(うさ)」とは
裸の現金を包む「ポチ袋」のようなもの。これをつかってお金を “仮装” させることで、ともすれば無粋になってしまいそうな金銭のやりとりを、心のこもった「愛情のやりとり」として楽しめるようになる。

そう、つまり仮装通貨「U$A」とは、裸の現金を包んで「愛情」に“仮装”させるための「ポチ袋」なのだ。

わたしたちは、みんなが見慣れた「ポチ袋」をつかうことで、アートへの愛情をお金に替えるハードルを下げられるのではないかと考えた。

水引の下には、送ってくれた人の名前。上には、お金の使いみちを書いてもらう。例えば下に「ハナコ」上に「珈琲代」と書けば、「これでコーヒーでも飲んでね。ハナコより。」というメッセージを込めてお金を贈れる仕組みだ。

さっそく試してみる

わたしたちは、2018年に開催した「いいこわるいこプロジェクト」で、さっそくこの仕組みを試すことに決めた。

フタを開けるまでドキドキした。こんな、おままごとのような発想が受け入れてもらえるだろうか。理解してもらえるだろうか。怒られないだろうか……

(つづく)


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atelier ザワザワ荘

渡辺望未(わたなべのぞみ)/びわ湖の近くで生まれ育ちました。パン屋で働きながら、絵を描いています。

アートを「愛のあるお金」にかえた、とある個展の記録

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