情報付け足し文字から作者の心情を想像すると愛しい
ローソンに掲示されていたこの貼り紙を見てほしい。
一見ただのタバコの入荷案内の貼り紙だ。しかし、明らかに「情報が付け足されている」のだ。
「エコー,わかば」のあとに小さく書いてある「たばこ」(位置がおかしい)
「在庫あります」の間の「たくさん」(挿入マークがある)
「ライター付き!」の右上の「今なら」(文字がふきだしの枠に沿っている=ふきだしの後に書かれている)
これら3つは位置やマークなどから情報を付け足した文字であることが予想できる。最初の文面はこうだったはずだ。
しかし、書いたあとに貼り紙の作者は思ったはずだ。
「エコーとわかばがタバコの銘柄だとわからなかったらどうしよう…」→たばこ
「在庫がちょっとしかないと思われたら、お客様が焦っちゃうかも…」→たくさん
「とはいえエコーかわかばを買えば永遠にライターがついてくる店だと思われたらどうしよう…」→今なら
こうした思考を経て完成したのが以下の張り紙の文章である。
このように、手書きならではの「情報付け足し文字」には、作者のさまざまな思惑が見え隠れする。今回は情報付け足し文字を見ながら作者の心の動きを勝手に想像していきたい。
情報の多いらぁめん屋
次は庄内駅の近くにあったラーメン屋の貼り紙だ。
パッと見ただけでもかなり情報が多い。ヴィレッジヴァンガードの店内か?
もともと書いてあった最低限の情報はおそらくこうだ。
まず、作者は「らぁめん専門店」を目立たせるために赤ペンで囲ったはずだ。ペンが3色使われているが、青字で書いている部分は明らかに「付け足し」だ。
青字は赤ペンの枠に沿って書かれているから、赤ペンで枠を描く→青ペンで追記 の順番で書かれたのだろう。
青ペンの内容はこうだ。
おそらく書いているうちに、らぁめん専門店として打ち出したいPRポイントをたくさん思いついたに違いない。それを枠のなかに書けるだけ書いたのだろう。「名もなき詩」のCメロの詰め込み具合である。
そして、2行にわかれた「営業時間」もおそらく付け足しだ。この店の営業時間は22:00〜25:00とかなり特殊だ。22:00〜25:00が「休業時間」と勘違いされないために営業時間の記載は必須である。
「阪急電車」はペンのかすれ方が違うのでこれも付け足しだろう。地元の人でなければ庄内駅が阪急電車かどうか知らないかもしれないので全方位に親切だ。
最後に、上部の「ただいま営業中」も見逃せない。大事な情報なのにかなり窮屈そうだ。
たしかに、「ただいま営業中」と書かないと、客がわざわざ営業時間内かどうかを確認したり、臨時休業のおそれに怯えなければならない。私は人の数倍臨時休業に当たるタイプの人間なので、こういう気遣いに触れるだけで嬉しくなってしまう。
PRしたい気持ちも顧客への優しさを感じる貼り紙だった。
元気のある受付
ダンボールを再利用しているしなんとなく文字の雰囲気も良い。
元の情報はおそらくこうだ。
そして付け足された情報はこれだ。
たしかにこう書いておかないと「電話したってどうせ時間がかかるんでしょ?」と言われそうだ。とはいえ南極などの遠方地域から連絡がきても困るから右上にダメ押しで「近郊」と付け足したのだろう。
そして特筆すべきは「いらっしゃいませ!」。文字だけの受付だからこそ、あいさつがあるだけであたたかい気持ちになる。
さらには、無中無休
年中無休の間違いか…?と思うが、とにかく休みがないのでいつでもウェルカムということがわかればいいだろう。
それよりも
ア…??
もしかしたらこの文字を単体で読むのではなく、「無中無休」とつなげて読むのかもしれない。
なるほど! 全体的に元気な手書き文字で好感が持てる。
気合いの入った手書き貼り紙
自転車保管所への案内の貼り紙だが、難しい自転車のイラストを手描きしているうえに、右の紙に至っては全6ヶ国語を手書きしていて気合いたっぷりである。
よく見れば左の貼り紙は「千本松大橋」の「松」が明らかに小さい。おそらく、自転車を含むすべてを書き終えてから、「松」が抜けていることに気付いたのだろう。
作者はこう思ったはずだ。
「松が抜けてる!でもイチから自転車を描き直すのはちょっと…」
そりゃそうよなオブザイヤーである。私だってこんな気合いの入った自転車を描いたら絶対にやり直したくない。そもそも貼り紙は履歴書じゃないんだからイチから書き直す必要なんてない(そもそも履歴書もイチから書き直す必要なんてない)。
そして、さらに気合いの入った左の貼り紙だ。当時は気づかなかったが「千本松」「保管所」のあと、「大橋」が2文字だけ横書きで挿入されている。
「大橋が抜けてる!でもイチから自転車と6ヶ国語を書き直すのはちょっと…」
そりゃそうよなオブザイヤー同時受賞である。作者の母語が何かはわからないが、普段から6ヶ国語を自在にあやつっている人でない限りは、翻訳サイトなどを駆使しながら慣れない言語を頑張って書いたはずだ。
こんなに時間と手間をかけて作った貼り紙を「大橋」が抜けているからと言って描き直すことはない。余白の限界を攻めるために横書きにしたのもナイスプレイだ。機転が効いている。
危険を伝える貼り紙
これまでと少しテイストが違うが、プリントアウトした文字に「!!」を手書きで足している。
作者はプリントアウトした紙を見て思っただろう。
「これでは危険性が伝わらないのでは…?」
たしかに「手すり」が「脱落」するという非常に危険な状況が黒の明朝体だけでは伝わらない……
そんなとき「!!」を赤字で足すと一気にキケン感が増す。危険回避のためのナイス判断である。
色彩的にもそうだが、明朝体+手書きの「!!」の違和感が見る人の心を掴み、「手すり脱落」の危険性を伝えてくれている。
ヤバい!!!ハッピーアワー
プリントアウトのメニュー+手書きPOPというパターンもある。
指さしのフリー素材はいくらでもありそうなところをあえて手描きするところに好感が持てる。手を上手に書くのは難しいと子どもの頃読んだ漫画家になるための本に書いてあった。
さらに「ヤバイ!!!」の「!」三連続。さっきの「キケン!!」と同じく、「!」はフォントより手書きのほうが気持ちが伝わってくる気がする。いろんな手書きの「!」が入ったフリーフォントを発売すれば爆売れするのでは? 皆さん、ビジネスチャンスですよ!
メニューをよく見たらこのハッピーアワーは「復活」している。
つまり、なんらかの事情で休止し、そして復活したお得なハッピーアワーだ。それを周知したいのに、まだまだ伝わっていない状況があったのだろう。
実際、メニューを見てみるとハッピーアワーの値段は
「ローラハイボール ¥50(55)」と、かなり「やばい」ことになっている。(ローラハイボールって何…?)
たしかにこれが伝わっていないと手書きで情報を足したくもなる。
ポスト周辺
自転車駐輪禁止マークのしたに「ポスト周辺」の手書き文字を付け足しで貼ってある。
「自転車駐輪禁止……なぜならここはポストの周辺だからです」という説明だ。ポストの後ろ側だからいいでしょ?!と思って自転車を置く不届者への静かな叱責である。
手書きの文字がかわいいたばこ屋
この手書き文字めっちゃかわいくないですか?! というかマールポロってマールボロかマルボロじゃないのか? と思ってTwitter(X)で「マールポロ」検索をかけるといろんな人がたばこ屋のイカした手書き文字をUPしていた。人生に疲れたときはTwitter(X)でマールポロと検索してみてほしい。
ペンの退色加減からして、明らかに「アイコス IQOS」「IQOS TEREA(テリア)」は後から新しく付け足されている。こうすればイチから紙に書き直さなくて良いので資源と手間の節約!
よく見ると「アイコス8種」の「8」の下にうっすら「全」が見える。もともとは全種取り扱っていたのに、アイコスの種類が増え、すべては取り扱いできず、「全部のうちの8種」になってしまったのではないだろうか。薄くなっていた文字の上から「8」を書くおおらかさは見習いたいものだ。
ちなみに同じ店の写真だが、製品の周りに紙を貼って手書きで「アイコス テリア テリア テリア アイコス」と書いてあったり、売り切れ商品の入荷日を書いていたり、自販機という対面で接客のできないツールでお客様に情報を伝えようという気持ちが伝わってくる。
店主は褪色した文字の上から文字を書き足すおおらかさと細かい注意を教えてくれる繊細さと両方の性質を併せ持つ…♣︎
いつか再開してほしい店
最後に、悲しさを感じる手書き文字を紹介したい。
これは「臨時休業」の際に「●日」休業と書き込めるホワイトボード形式の看板だ。再開の日程と書き込めるようになっている。
おそらく最初は休業の日数を何度も書き変えていたのが、最後に「しばらくの間」という言葉でピリオドを打ったのだと思う。
もしいつか「 月 日より営業再開します」のところにそっとペンで日付が書き込まれたら激アツだ。常連さんたちはそれを見つけて涙を流すのかもしれない。
まとめ
情報付け足し文字にもいろんな種類があった。書き直さないのは時間と手間、紙の節約になる。どの付け足し文字も、対面ではなく文字という一方的なツールで「何かを伝えたい」という気持ちがあふれでていて愛しい。
消してリライトするだけが人生ではない。時代は大付け足し時代。資源と工数の削減しながら、伝えたいことがあればどんどん付け足していこう。
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