幸せになる秘訣は自分に聞いてみる 〜「徳浄寺」探訪で見つけたこと〜

「自分をもっと知りたい」

大田区にある徳浄寺から帰る途中、京急の赤い電車に揺られながら、日が落ちていく町並みを背にそんなことを考えていた。

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京急電鉄平和島駅から徒歩5分、史跡が点在し旧東海道の面影を残す風情あふれる美原通りの道中に、浄土真宗「徳浄寺」への入口がある。

通りから入り口を覗くと、奥にはインド建築の様式を取り入れた薄茶色の本堂がその姿を現した。

中に入り先へ進むと、右手にはお線香台や水桶場が併設されたモダンなデザインの手水舎があり、広々とした敷地の先、本殿の横にはこれまたモダンな客殿が来る人を迎えてくれる。お寺の敷地は人通りが多い場所に面しているものの、どことなく静謐な空気が漂っている。檀家さんらしきご年配の女性がそばを歩いていたため、「こんにちは」とあいさつをしてみると、「こんにちは」と柔らかい笑顔であいさつを返していただいた。この場所では、人と人の距離が外の通りとは少し違う。

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今回お邪魔したのは、ここで開催される「できたことノート実践会」に参加するためだ。このワークショップは、日々の仕事や子育て、人間関係などでうまくいかずついつい自分を責めてしまいがちなとき、悪い部分ではなく自分が「できたこと」に着目して気持ちを整理し、自分の「ありたい姿」を明確にするというものだ。

ワークショップを企画したのは、徳浄寺で広報を担当されている池谷正明さん。講師も務められる池谷さんは、もともと福岡のテレビ局に勤務しており、その後ベトナムの広告代理店で三年間海外の企業のファン作りに奔走されていた。現在は僧侶資格を持ち、広報活動を行いながら檀家さんのニーズに合ったお寺の企画を行う「株式会社 唯」を設立されるという異色な経歴の持ち主だ。

「あなたは自分のことが好きですか?」

ワークショップが始まりこの言葉がスライドに現れたとき、心の中で目をそらそうとしている自分がいた。

私は「自分のことを好きだ」と思うことが、無意識にどこか「悪いこと」だと考えていた。たとえ自分の好きな部分があったとしても、人には恥ずかしくて言えないし、言った途端白い目で見られるのではないかという恐れさえあった。

池谷さんはこう話す。

日本人は自己肯定感が低い。しかも年齢が上がるにつれその気持ちも強くなっていきます。例えば、何かを褒められても「そんなことない」と否定的になってしまいませんか?ではなぜ、そんなふうに思い自己肯定感が低くなってしまうのか。それは、全部他者と比較してしまっているからなんです。

そうだ。私はすぐに人と比べてしまって、例えばSNSで見かける誰かのキラキラした一面を見て嫉妬してしまうことは少なからずある。人と比べてしまうのはきりがないし、そんなことをしても仕方のないことは分かっている。ではどうすればいいのか。答えは単純で、ありのままの自分自身を大切にしてあげればいいのだ。でも、それが難しい。

感情は消せない。

だから、向き合い認めてあげる。

ワークショップでは、ここ最近で自分が「できたこと」を発表し周りの人にその話を聞いてもらう。一方、聞いている人は「なぜ」それができたのかを尋ねていく。

人と話すことで自分の気持ちが整理され、「なぜ」その行動とることができたのかが分かってくる。そうしてその根源が分かったとき、人は前を向くことができる。このワークのポイントはそこにあるのだ。

例えば普段、落ち込んだり怒りがこみあげてきたりする瞬間、一息おいてをその感情を俯瞰して見てみると少し冷静になることができる。

そこから「なぜそう思ったか」を自分自身に問いただしてみると、「よく考えたら大したことないな」とか、「じゃあその原因をこういうふうに解決すれば感情が収まるな」というように気持ちを整理できる。

ただし繰り返すようだが、それは簡単じゃない。だから人は落ち込むし、辛くなる。そのため紙に書いて改めて感情を見つめ直したり、人と話しをしたりすることはとても重要になる。

お寺の住職さんはお話を聞くときに、普段からそのことを意識されているそうだ。檀家さんのお話を聞き、共感しながらどうありたいかを優しく問いかけてくれるという。それは行動を促すことではなく、気持ちに寄り添い「ありたい姿」に気づかせてあげるということなのだと。

生きるうえで何を大切にしているのか、自分で気づくことが大切です。できたこと、できなかったことを書き出し、内省して「ありたい姿」に気が付いたら、それは揺るぎない自信につながっていきます。      

池谷さんのお話に参加者の皆さんは大きくうなずいていた。

幸せは、“自分を知る”ことから

池谷さんは最後にこう話す。

私は今まで、取り繕って生きていたかもしれないと思うことがありました。海外で大きなプロジェクトを成功させ、とある商品の市場シェアを46%も獲得することができました。その瞬間は嬉しくて、大きな達成感がありました。でもふと考えたとき、『あれ、そのことを墓に入る前にみんなに言いたいだろうか』と。それって極端にいうと『どうでもいい』と思ってしまいました。そこで気が付いたんです。あ、そうか。私は人から直接喜ばれる仕事をやりたかったんだなと。ただ目の前の人に、直接『ありがとう』と言われたかったんだなと。

自分のありたい姿に気がつくことが幸せになるための秘訣だ。その教えを、池谷さんがご自身の経験をもって私たちに優しく聞かせてくれた。

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ワークショップが終わり、お寺の本堂を見せていただいた。毎日の生活の中で静かな場所はあるけれど、こんなに気持ちが静かになる場所は久しぶりだと思った。

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「ちゃんと自分に向き合おう」

徳浄寺からの帰り道で改めてそう思った。自分はなにが好きなのか。なにが嫌いなのか。なにが嬉しいのか。なにが悲しいのか。それを整理してあげることで、人はまた一歩ずつ、確かに歩き出せるんじゃないだろうか。

日が落ちて、オレンジに滲んだ遠くの空が次第に大きな紫に包まれていく。下町風情あふれる街からは、食欲をくすぐるおいしそうな匂いがそこら中からあふれていた。

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〈HP〉徳浄寺 http://www.tokujoji.net

〈アクセス〉〒143-0012 東京都大田区大森東1丁目16−22 
      京急本線 平和島駅から徒歩5分


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森下夏樹

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