ヘッダー190810

表現の富士通テン

摩耶山や水道筋でよく出会うおっちゃんがいる。僕は彼のことをこっそり「テンさん」と呼んでいる。それというのも摩耶山のリュックサックマーケットでのこんな会話が発端だった。

「わしな、昔神戸工業に勤めてテン

「マジすか!今の富士通テン(現デンソーテン)やないですか」

「お、よお知っテンな」

「当たり前ですやん!神戸工業言うたら技術屋の集団で、昔は西のソニーって言われてましたやん。神戸の誇りですやん」

「そや、西のソニーやっテンで」

この後、テンさんの自慢話はテンテンと、いや延々と続いた。僕の頭の中では1970年代の神戸まつりのサンテレビ実況中継(実況:西澤アナ)で見た富士通テンフロートの「富士通テン、富士通テン、富士通テン、、、、」というフレーズが、ミニマルミュージックの大御所、スティーヴ・ライヒの「Come Out」さながらにリフレインされるように、彼の話はゲシュタルト崩壊していった。

GO for PARADISE=合法パラダイス

実はこれまでの話は本題とは全く関係ない。今回のテーマは「表現の富士通テン」ではなく表現の不自由についてだ。

毎年8月11日の山の日に、摩耶山の穂高湖で「海、山へ行く」というイベントを開催している。このタイトルにピンときた人がいるかもしれない。神戸市は高度成長期に「山、海へ行く」というキャッチフレーズのもと、山を削り海を埋め立て市域を拡大させていった。削った山には街を、その土で埋めたてた島にも街を、山と海に挟まれ市域の狭い神戸にとっては起死回生の妙案で、当時は都市経営の優等生として賞賛された。で、今はどうかというと山を削ってつくったニュータウンの人口が減少している。埋め立てた人工島もビミョーだ。削られた山にとってはたまったもんじゃない(と少なくとも僕は思う)。ということで失われた山への敬意をこめて「海、山へ行く」と銘打ち、山であえて海っぽいイベントをやっている。もう今年で4年目になる。

で、今年のポスターがこれ。


今年は穂高湖をカリブ海にしようというコンセプトで、摩耶ケーブルの車内に海賊(ジョニーデップ)とチェ・ゲバラを配した(もちろんニセモノ)。これを摩耶ケーブル車内に貼ってケーブルジャックしようという目論見だった。もちろん摩耶ケーブル、ロープウェーの利用促進イベントであり運営会社(神戸市の某外郭団体です)からは快諾をもらえると思っていた。しかしある理由で掲示を拒まれた。

「このポスターを駅に貼るのはまずいです」

「え?なんでですか?」

「葉巻は困ります。」

「そこ?」

「今イロイロとうるさいんですよ。喫煙を助長する表現は、、、」

「いやいや、この写真吸ってませんし、ケーブルカーでは葉巻は吸えませんてわざわざでっかくコピーいれてるじゃないですか」

「そう言われましてもイロイロ言われますので」

「誰がそんなこと言ってくるんですか?」

「イロイロと、、、」

18歳のころだったら「自由って一体なんだい!」と叫びながら夜の公社窓ガラス壊してまわるところだがもう53歳だ。そんなことはしない。結局らちがあかず、ポスターの駅貼りはボツになった。電凸が怖いらしい。多分、市役所や区役所などの行政機関には毎日、くだらない電凸がかかってくるのだろう。現場の職員の負荷は相当なものだと思う。

で、もしこのポスター見て電凸かかってきて僕が受けたらこう答えます。

「え?これ葉巻じゃなくてちくわですよ。畑原市場の」

それくらいのウィットがあっていいのではないか。

後日、JRに勤務する友人からメッセージが届いた。JR三ノ宮駅の構内(!)にこのポスターが掲示されているという。早速見に行った。

ほら。

JRがOKでなぜ摩耶ケーブルがダメなのか。これは規定とかそういう話ではなくおそらくその時の担当者の判断、裁量による。公共空間というのは実態の見えないイロイロとギリギリのせめぎ合いの場なのだ。白か黒ではなくグレー。

「グレーゾーンは思いやりゾーン」という名言がある。

「ま、いっか」

この一言で、世界は変わる。



さて8/11(日)に表現の不自由展、、、いや「海、山へ行く」が摩耶山・穂高湖で開催されます。グレーゾーンの愉楽を体感してください。

「海、山へ行く」
●日時:2019年8月11日(日祝)11:00〜16:30
※荒天時中止
●会場:穂高湖
●アクセス:摩耶山掬星台から無料シャトルバス「CUBANバス」運行
(1時間に1〜2本)
※車でお越しの場合は天上寺駐車場(有料)をご利用の上「CUBANバス」で
●主催:「海、山へ行く」実行委員会、摩耶山観光文化協会
●協力:摩耶山再生の会






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