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小説的な日記

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その日の日記を、一人称小説の形態で書いたものです。 ノンフィクションです。 推敲した最終稿をここに載せます。 <これまで【note】に綴った日記をカテゴリー分けしました。 そ… もっと読む
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記事一覧

突然の時間旅行

突然の時間旅行

先日のポルトガル旅行で、なんとも稀有な再会があった。

まだ旅が始まったばかりの、行きの羽田空港への道のり。
大きなスーツケースをひきずり、品川で京急に乗ったわたしたち夫婦は、とりあえず座ろうと、空いていた席に腰を下ろした。車内はわりと混んでいて隣り合う場所が空いておらず、互いに向かい合う形で、夫は斜め右前の座席へ。

ふう、と息をつくと、夫の隣に座るビジネスマンの黒いキャリーが目に飛び込んだ。機

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初めての “sea”顛末【後編】

初めての “sea”顛末【後編】

「さっきね」
ね、と優しく語尾を上げるその若いお母さんの胸には、新しいオムツを穿いた赤ちゃんが、すやすやと眠っていた。
「女の子が『忘れ物だ』って言って、外にいたキャストの女性に渡してましたよ」
お母さんの指は、トイレの外を指している。
「ホントですか!?黒いリュックです、扉にかけたままだったんです!」
「どんな忘れ物かは・・・女の子が言ってたのを聞いただけで、確認しなかったし・・・」
彼女(と彼

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初めての “sea”顛末【前編】

初めての “sea”顛末【前編】

冬晴れの日曜日。
仕事で初めて『東京ディズニーシー』へ。
慣れないリュックを背負いながらも、意気揚々とディレクターやカメラマンとのロケハンに同行した。

わたしはなるべく現場へ行って、自分の目で確かめてから原稿を書きたい。ふつうはロケハンには作家は同行しないのだけれど、可能な限り行くことにしている。

やはり行って良かった。
取材だったので、アトラクションにはほとんど乗らなかったものの、ランドとの

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7号車3番A席 【後編】

7号車3番A席 【後編】

このまま見つからなかったら、鹿児島から熊本までの料金をもう一度支払わなければならない。

ひどく情けない気持ちで、携帯の画面に残る切符をぼんやりと見つめ、気になっていたLINEを開いた。夫から3件入っていた。「新水前寺の到着時間教えてね」「熊本駅に着いた?」「新水前寺に向かってるよ」

紛失した乗車券は、熊本駅から在来線で数駅先の「新水前寺」まで購入していた。
夫の実家の最寄り駅である。迎えに来て

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7号車3番A席 【前編】

7号車3番A席 【前編】

初めて乗った九州新幹線が嬉しくて、座席で一枚の写真を撮った。
鹿児島中央駅から、熊本駅までは45分ほど。意外と早く着くなと思いながら、疲れたからだをシートに埋め、一眠りした。

1時間後。
熊本駅の新幹線改札口で、慌てふためきながら係員に訴えているわたしがいた。
「切符がないんです、探したんですけどどこにもなくて、、、この写真じゃダメですか?」

目が覚めたのは、熊本に到着する5分ほど前だった。

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