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想定外の出会い

きのう出掛けた帰り。
新宿の紀伊國屋書店に立ち寄った。

父に頼まれた数冊の歴史書(蘇我氏とか藤原氏とかの本)を買うためだったが、ここへ行くと必ず「想定外」の本を物色したくなる。

基本的に書籍はネットで購入することが多いので、ピンポイントで欲しい本をポチっとすることに慣れてしまった。それはそれでとても便利ではある。けれど本屋に立ち寄る機会がめっきり減ったので、「想定外」の本に出会えない。

ぷらぷら書棚を見て回ることも、大切な「本探し」だと思う。
あまり興味のないジャンルでも、カバーの装幀に惹かれたり、好きな作家でなくとも、冒頭を立ち読みしたら読んでみたくなったり。

今回も何冊かそんな「想定外」の本を手に入れた。
そのなかで、帰りの電車から夫と回し読みをし、一気に読んだ一冊がある。

『大家さんと僕』/矢部太郎 著

平積みされていて、目に留まった。
著者の芸人と大家さんとの日常を描いた、エッセイマンガだ。
昨年末、仕事が立て込んで慌ただしかった時期に、テレビで紹介していたのを思い出して手に取った。パラパラと最初の数ページをめくっただけで、ふたりが醸し出す独特な世界に引き込まれていく。

「ごきげんよう」と上品に話し、洗濯物を取り込んでくれたりお茶や食事に誘う「ちょっと押しの強い」80代の大家さんと、そんな大家さんの存在に初めはたじろぎながらも、次第に家族のような温かさを感じる「お笑い番組に馴染めない」芸人。ほのぼのとした画のタッチも内容もとても素敵だ。

昨年から売れ続け、ベストセラーになっているという。

寓話のような二人の関係を、微笑ましく感じ、羨ましく思う「人の寂しさ」があるのだろう。孤独というと簡単すぎるけれど、人は誰しも寂しさを抱えながら生きている。家族がいても友人がいても、どんなに幸せでも。人との付き合いにどこか欠けているものを感じている。だからこそ、「遠い親戚より近くの他人」を実証する二人の実話が、心に入り込んでくるのではないだろうか。欠けたものを埋めるように。そんなふうに出会える他人など、滅多にいない現実も知っているから。

一方で、本屋へ足を運んだからこそ、わたしはこの本に出会えた。
偶然まだ平積みになっていて、たまたまその前を通りかかり、なんとなく手に取った。
これも、現実である。

「想定外」は、現実に起きるのだ。




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