小説的読物

サーっという雨の音で目が覚めた。
頭の芯がぼんやりと痛い。昨夜の酒がまだ残っているみたいだ。

床には空のボトルが二本。ズブとストリチナヤ。
安いウォッカ。ナオが好んで飲む酒。

半覚醒のうつろな意識のまま、携帯をさぐる。
テーブルの下。二人分の下着と、口を縛ったゴムに紛れて見えるGUCCIのストラップ。

電源をつけると賑やかに現れる「Wake up!」の文字。
寝起きの俺にとってはイラつく効果しかない。

機械に言われるままロックNo.を入力する。

**** 解除。

ナオは俺の全てを知っている。
何も隠す事はない。

だから別に携帯を見られてもかまわないのだが、一度ついた悲しい癖は治りそうもなかった。

液晶はAM5:47を表示している。
外は相変わらず降り続く雨の音。

ナオはぐっすり寝ている。
スースーという寝息と同期して上下する胸のラインが美しい。

谷間に光る群青色の石。
ラピスラズリのペンダントトップ。

アクセサリー嫌いのナオが唯一身につけている物。
18才になった時、記念に自分で買ったらしい。

ナオの誕生日は10月。ラピスラズリは12月の誕生石なのに。

変な女。

ちなみにラピスラズリの石言葉は『成功』。
俺には今のところ、それほど効果があるように思えない。

すっかり目が覚めてしまった。
もう一度眠れそうにはない。

ナオを起こさないようにそっとベッドを離れ、少し窓を開ける。
途端に流れ込んでくる冷たい空気。

雨は激しく降っていた。

下の通りを覗き込む。

流石にこんな雨の日に朝早くから出歩く人間はいない。

もしいるとすれば、それは

『こんな雨の日の朝早く、誰もいないからこそ』という奴らだけだ。

世の中には、

自分のする事を人に見てもらうのが好きでたまらない人間がいるように

自分のする事を人に見られたくないという人間も同様にいる。

俺はどちらだろうか。

前者である気もするし、後者である気もする。

そもそも、他人から見られているという意識そのものが希薄なのかも知れない。

分からない。

酒に浸かった脳で考えたところで、明確な答えが出るはずもなかった。

考えるのを諦めて、部屋を見渡してみる。

服で散らかった部屋。
どこにでもあるワンルーム。

ナオのマンションは甲州街道沿い、ビルの谷間にある。

日当たりの悪さと分厚い遮光カーテンのせいで部屋は常に暗い。
目に付く家具はベッドとコンポ、小さなテーブル、そして14インチのTVだけ。

必要最小限。時計もない。

時間の感覚がない部屋。

灰皿に増えるタバコの本数だけが、時の流れを感じさせた。

暗い部屋で自堕落に過ごす俺とナオには

そんなアナログで退廃的な時計がお似合いなのかもしれない。

床に落ちているクシャクシャのボクサーパンツに足を通して、ベッドの縁に腰掛けタバコを吸う。

この前、韓国に行って来たという友達の土産。
「Time」緑色のパッケージ。

肺の奥までメンソールを充たす。
Marlboroを更に薄くしたような味。

正直な話、味なんて何でも良い。

口から吐き出される煙を眺めながら今日の予定を考える。
代わりばえのしない毎日。もう学校にはしばらく行っていない。

居場所がなくて、ナオのうちに転がり込んでから5日が経とうとしていた。

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PCを整理していたら大昔に書いたと思われる「小説的読物」というタイトルのファイルを発見。なんとも恥ずかしい内容ですが、捨てるのもあれなのでnoteに載せてみる。

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KEI

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