人生行路完全版vol.7『コーヒーを識った日』前編

僕の内心はとても苛立っていた。

エチオピアにて取材中に軍事基地を撮っていたとのでっち上げのタレコミにより、軍事スパイの疑いをかけられると、エチオピア軍兵士に取り押さえられ投獄された。

そこから三日に渡る取調べに至っていたからである。

ここエチオピア北部は、エリトリアとの国境紛争を繰り返し、毎日のように国境線が塗り替えられている場所である。

集中力を切らさずに、生活をし続けることは並大抵のことではない。

その中で僕は、熾烈を極め事態の収拾がつかない最前線を離れ、

暫し、国境近い北部のアクスムという街で、

戦火から逃れてきた人々の取材をすることにした。

その矢先の出来事だったのだ。

当然のことながら、取調べをしても何も証拠が出るはずもなく、

4日目の朝、何とか嫌疑は晴れ、無事に釈放を迎えた。

僕の目の前には3日ぶりのまともな食事が並ぶ。

本来はそこで雄叫びをあげたいほど喜びたい訳であるが、素直に喜べずにいた。

なぜなら、エチオピアの食事が驚くほど自分に合っていなかったからだ。

その理由としてエチオピアという国ならでは、の事情がある。

この国の標高は高く、首都のアジズアベバでさえも約2400mあるほど。

そのため、バス移動しているだけで、うっかりしていると高山病になってしまう。

それは、このアクスムという地も例外ではない。

そのため、気圧の関係で沸点が約90℃と低く、主食の一つでもあるパスタもじっくり茹でた腰の無い水分を含んだうどんのようなブヨブヨ麺になってしまう。

美味しい訳がない。

それだけではない。

穀粉を水で溶いて発酵させ、クレープ状に焼いた酸味たっぷりのもう一つの主食インジェラは、他の食べ物の味を打ち消すほど酸っぱい。

また、国民に水の代わりに飲まれているアンボという名の炭酸水しかり、そのどれもこれもが自分の予測の範疇を悲しいほどに超えていて、自分の味の好みからはひどくかけ離れていたのだ。

日本の食事が恋しくなるばかりである。

しかしながら、そんなことばかり言っても仕方が無いので、事務作業のようにとりあえず食事を淡々と済ませるとひたすら煙草を吸いながら、頭の中ではこの3日間の取材ロスをどこで取り返すかという事を考えることにした。

ぼーっと空を眺めると、いつしか時を忘れてしまうほどに、ゆったり流れていくこの国の時間。

時間に日常を支配されがちな日本人の僕は、尚更にその違和感に魅せられるのである。


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Motoyasu Nagafuchi

元報道カメラマン、現在、地域を繋ぐ広告代理制作会社を運営する傍らカメラマンをやっている永渕元康です。
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