紅葉した君


前から言おうと思っていたことなんだけど、やっぱり君の発想は他の人とはちょっと違う気がするんだ。

初めて会った時、君は何て言ったか覚えてる?君の髪があまりにド派手なピンク色だったから、僕はどうしてもその点に触れずにはいられなかった。

そしたら君は「春はサクラでしょ?」って。

桜はそんなに派手なピンクじゃなくて、淡くて薄い、『桜色』だってのに。

もっとも、その桜色にしたって、髪を染めるには派手に思えるけどさ。いずれにしろ僕は、君のそんな振り切れたところに惹かれたんだ。


僕はというと、いわゆる真面目で当たり障りのない、世間的に見てもそこそこの好青年だと思っているけど、そんな自分に物足りなさを感じることがある。

だからかな、今まで付き合ってきた女の子はみんな、見た目も中身も少々パンチの利いた子が多かった気がする。

仲の良い友達からも「お前の女の趣味だけは理解できねーわ」なんて笑われたり。

君と一緒に歩けばきっと「あのカップル、似合ってないね。」なんて囁かれていることだろう。


でもさ、実のところ僕はそれが心地よくて仕方ないんだ。

こんなことを言うとまた笑われるかもしれないけど、つまりそれは他の人には理解できない君の良さを、僕だけが理解しているってことだよね。

嬉しくて、誇らしくて、もっともっと君をみんなに見せびらかしたい気持ちを抑えるのに必死だよ。


今さらだけど、どうして君が僕と付き合ってくれたんだろうって、ふと思うことがある。何度か尋ねたけど君は笑って「あなたは十分おもしろいよ」と言うだけで、いつも明確な答えはくれなかった。

私にない真面目さがあるから、とか、自由な私を受け入れてくれるから、とか、何とでも言えただろうに。

まあでも、僕が期待するような答えをしないのが君だったね、ごめんごめん。


そうそう、海に行った時だっていきなり銀髪になってきて「夏だから!」って、全然理由になってないと思ったけど。

よくよく聞いたら、去年は墨汁みたいな真っ黒に染めて、脳天が熱くて仕方なかったからって。そんな合理性を重視して髪を銀色にするのは君くらいだよ、まったく。


そういや、この前は驚いたよ。今までの君といえばビビットカラーや金・銀なんていう目立つ色しか選ばなかったのに、シックな深い赤茶色に染めてたんだもの。

「秋だから...」っていう君の理由は珍しく納得できるものだったし、どうせ次の美容室までの間だけだろうって思ってた。

でも先週会った時も、君の髪は赤茶色のままだった。

「紅葉はそんなに長く続かないんじゃない?」なんて、ついからかってしまったけど、似合わないって意味じゃなかったんだよ。

透き通るような白い肌と深い赤茶色のコントラストは、まるで高級な陶磁器を包み込むビロードのように上品な繊細さを湛えていた。正直、今までの君とは違った色気を感じずにはいられなかったよ。


それでね、さっき君を見かけた時にわかったんだ。僕の知らない男の隣に、頬を赤く染めた君がいた。


ねぇ、冬はもうそこまで来てるのかな。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!