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米国コミュニティカレッジで野球をするという選択肢

最近、花巻東・佐々木選手などのおかげで何かと話題になっている米国大学野球。

筆者は、米国コミュニティカレッジ(2年制大学)で野球部でコーチを3年半務めていたため、コミュニティカレッジで野球をするというのはどういうことなのかを書いていく。

野球、勉強、金銭の3つの視点で考えていく。

まず、簡単に2年制大学(短大)について紹介していく。

日本では「大学」というと4年制大学をイメージするのが一般的だろう。

アメリカでは「大学」というと大きく分けて

・2年制のコミュニティカレッジ(短大)
・4年制大学

に分かれる。留学生でも現地学生でも2年制大学に最初に入学して、その後4年制大学へ編入する学生もいれば、最初から4年制大学に入学する学生もいる。

筆者としては、上記で挙げた3つの観点において、留学生が野球をやるうえでまずはコミュニティカレッジ進学を勧める。(参考

1.野球(あくまで筆者が在籍していたチームの情報)

概要
筆者がいたカリフォルニアの場合、コミュニティカレッジの野球部には基本的にセレクションはなく誰でも入れるチームも多い。(例外はあると思う。)

新年度が9月から始まるアメリカでは9月~12月にかけては全員で練習及び試合をしながらメンバーを絞っている。練習時間は平日は2時間ほど、土日は練習試合が組まれる。その中でロースターと呼ばれるベンチ入りメンバー25名を選抜する。実力があれば2月~5月のリーグ戦(約50試合)で試合に出れるし、実力がなければレッドシャツといって練習中心の日々を送ることになる。練習時間は短いが、2月からのリーグ戦期間中は主に火・木・土曜日に試合がある。(他の曜日に試合があることもある。)

授業に出て、宿題などもこなしながら週3~4試合を消化していく。ホームでできることもあれば、7~8時間バス移動をして試合をすることもある。学業との兼ね合いもあり、かなりタフだと言える。

カット
名門4年制大学の場合は、カットといって実力がなければ野球部をクビになってしまう可能性もある。高卒で4年制大学に進学し、カットされて野球をする機会を求めてコミュニティカレッジに戻ってきたり、入りなおすアメリカ人学生も何人も見てきた。

特に留学生の場合、いきなり環境の変化や勉学など野球以外の面で適応できず、実力を発揮できないままカットされるよりも、その心配がないコミュニティカレッジで経験を積むのが得策と言える。

4年制大学への編入
2年制大学大学から4年制大学へ編入する学生は全体の約25%と言われている。コミュニティカレッジ在籍中、リーグ戦、練習試合などで4年制大学のスカウトが試合を見に来ることも多い。日本に居て米国大学のスカウトに見てもらえる機会はよほどの実力でない限りはないと思うがコミュニティカレッジであればその機会は多くある。

4年制大学の指導者の目に留まれば自チームの監督を通して連絡が来る。そこで奨学金の有無、チームや大学の特徴などについて理解を深めながら編入先を決めることができる。日本にいて情報量が少ない中から大学を選ぶにはリスクが大きいし、奨学金を得ることも難しい。一方で上記のように編入先を決める場合、自分のことをよくわかってくれている指導者が、編入先の指導者と話をしながら決められるのでボタンの掛け違えが少なくなるというのも特徴だ。

また、当然コミュニティカレッジと4年制大学の指導者同士のパイプもある。たとえ奨学金を得られるような実力がなかったとしても、一芸に秀でていたり、チームに必要不可欠な存在の場合は監督が4年制大学へ掛け合ってくれることがある。

実際に筆者が所属していたチームでは、監督が一学年20名近い選手を全員4年制大学へ送り込んだ実績もある。奨学金の有無は当然その選手の実力によって変わってくるが、編入先選びにおいてもコミュニティカレッジから始めることのメリットは大きい。

また、「ショーケース」と言って4年制大学のスカウトに見てもらう機会もある。UCIの大山(MLBドラフト候補)はこのショーケースで4年制大学のスカウトに発掘された。筆者は大山と同じチームに所属していたので、コーチとしてショーケースを見に行った。各チームから数名選抜され、2チームに分かれて紅白戦を行う。投手は1~2イニング、打者は2~3打席チャンスがある。バックネット裏にはメジャー球団、4年制大学のスカウトがスピードガン、ストップウォッチを持ち試合を見ている。配布資料には選手のシーズン成績だけでなく、学業成績も記載されている。4年制大学がどれほど学業面を大切にしているかがわかるだろう。ちなみに野球の実力が同等でも学業成績(GPA)が違うだけで奨学金の額が変わってくる。野球だけうまくても4年制大学は高い奨学金をオファーできない。

ショーケースに関しては以下の記事を参照。


2.勉強


4年制大学と比較すると難易度が低い。

規模が小さな大学も多いため、教授やクラスメートに聞きやすい雰囲気がある。英語や勉強が苦手な場合でも努力をしていれば、単位は取れると言い切れる。評定は普段の授業中の取り組み、レポートなどの課題、小テストなどで決まるが教授によっては学期末にボーナスポイントをくれる人もいる。「映画を視聴して、〇〇字以上の感想を提出すれば加点」など。

一方、現地学生でもやる気がなければ単位は取れない。

そして、コミュニティカレッジでは専門科目よりも一般教養科目単位の取得がメインになる。わかりやすく言うと4年間で大学を卒業するためには約120単位を取得する必要がある。

そのうち、
60単位をコミュニティカレッジで
60単位を4年制大学
で取得するイメージだ。

しかし、その60単位の内訳は
コミカレは一般教養科目40単位、専門科目20単位
4年制大学は一般教養科目20単位、専門科目40単位
といった具合になる。

基本的に専門科目よりも一般教養科目の方が様々なバックグラウンドの学生に開講されているため難易度は低い。そして、コミカレ入学時に専攻がはっきりと決まっていなくても一般教養科目を中心に取りながら専攻を考えたり、変更したりすることができる。

そして、4年制大学編入時に新たに専攻を決めて学ぶことも可能。自分の道を早々に決める必要がない。

そういった意味でコミカレで学ぶことは、高校から段階的に大学に入っていけるため負担が低いと言える。

3.費用

気になるのが授業料などのコスト面だ。
まずは費用を見ていこう。

4年制大学、2年制大学費用比較(年間)

当然、地域や大学によってコストは異なるが倍近く違うことを知らない日本の人は多いのではないだろうか。アメリカ留学と聞くと昨今の円安も相まって高額なイメージを持つ人も多い。また、英語で各学校の情報を調べるのもハードルが高く、中々自分で情報を得るのが難しくエージェントの進めるがままに進学先を選んでしまう人も多い。(しかし、エージェントもコミッションがほしいので勧めやすい学校を紹介したり、紹介料として高額な費用を載せる場合が多い。)表でわかる通り米国大学と言っても費用は大きく異なるので、慎重に学校選びを進めたい。

なので、理想的な展開としてはまずコミュニティカレッジで費用を抑えながら野球で結果を出し、奨学金を得て4年制大学へ編入することだ。先ほども少し書いたがUCIの大山はそのようにして奨学金を獲得し4年制大学へ編入した。

終わりに

以上3つの観点から米国のコミュニティカレッジで野球をやることについて考察した。現在、注目を集めている米国大学での野球だが、渡米を検討している選手たちにはまずコミュニティカレッジからのスタートを勧めたい。そして、多くの日本の若者が野球人としてだけでなく、人としても大きく成長する機会を得られることを心から願っている。

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