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作者に訊く『菊池朝日』

芸術工事中をより楽しんでもらうためのインタビュー企画第2弾です。今回は菊池朝日さんにお話を伺いました。

菊池朝日:視覚デザイン学科3年表現デザインコース。
圡田紗友里:今回のインタビュアー。芸術工事中webスタッフ。


圡田:芸術工事中に出品しようとしたきっかけとは何ですか?

菊池:きっかけとして、まず今回出品する作品が授業の課題の延長線上にあるというか…、

圡田:表現の課題ですか?

菊池:そうです。その作品を作っている時に自分の中ではこれは長く向き合っていくテーマだと思っていたし、芸術工事中のことは前から知っていたので、思い切ってでできるのは今年が最後かなと思っていて。
ちょうどその時に先生から声をかけていただいたことがきっかけです。

圡田:今回出品する作品の概要を教えてもらえますか?

菊池:私が公開制作するのはインスタレーションと公開制作を合わせたようなものです。
例えば服やコップなどの普段自分が使っているものを展示したインスタレーションの中で、普段考えていることだったりとか、頭の中で起こっているようなことを、その場で絵や言葉に書き出してだんだん増えていくという作品です。

圡田:では何かを作ろうというよりは、普通に生活している中で出てくるものに焦点をあてるということですか。

菊池:それが近いと思います。

圡田:なるほど。
今回の企画書には「その人の日常にあるものや思考の断片から浮かび上がってくるその人」というコンセプトがありました。表現の課題ではあるアーティストの次回作を想定して作るというものでしたが、その延長としてこのコンセプトに至った経緯を教えてください。

菊池:トーマス・ルフという現代美術家というか写真を撮っている作家さんがいるんですけど、トーマス・ルフがよく言っていた「自分は今何を見ているのか。」といった考え方、当たり前の行為を見つめ直すということに凄く影響を受けました。

圡田:なるほど。それで日常というテーマになったんですね。

菊池:人を知るっていう意識せずに通り過ぎる行為だと思うんですよね。こうやって喋ってても多分全部は知らないし、お互い知らないんですよ。人を知る行為ってもしかして自分達が思ってるよりもっと複雑なんじゃないかと。

圡田:それを今回の作品で可視化するということですか?

菊池:…試みます(笑)

圡田:なるほど(笑)
今回は自分を対象とするというのは何か理由があるんですか?

菊池:一番は自分が作りやすいから自分でやるってことなんですけど、何だろう…人に見てもらう作品だけれども、一方で自分が自分を知り直すという面もかなりあるので。

圡田:確かに。自分のことすらわからないかもしれません。

菊池:結構突っ込んだところになるんですけど、自分のなかで性別っていう概念がないというかずっと揺らいでいるような状態で、自分で自分がわからないっていうのがずっとあって。そういう意味でも、自分を知り直そうとしているなかでトーマス・ルフに出会ってすごくタイムリーだと思ったこともあったんです。

圡田:自分の考えていることと繋がったということですね。

菊池:そうですね。

圡田:性別という単語も出てきたのでちょっと突っ込みたいのですが、以前大学で行われた「私が一年間向き合ったKについて」という展示もテーマが性別でしたが、それはずっと持ってるテーマだったりするんですか?

菊池:そうですね。自分で持ち続けようとしたテーマではないんですけど、自分がものを作り続けていく上でそのテーマがいつの間にか入り込んでいました。言われてみると前回の「私が一年間向き合ったKについて」の中にも今回の展示に繋がるものはあると思います。

圡田:ちなみにどういう内容だったか説明してもらえますか。

菊池:一つの物語をインスタレーションの中で作れないかと思って、その物語には「私」と「K」というふたりの人物がいるんだけれども、種明かしをしてしまうと「K」は性別が揺らいでいる自分で、「私」はそれを受け入れる前の客観視している自分なんですよ。一年かけて「私」が「K」を少しずつ受け入れていくっていう。展示ではふたりの一年間の対話を記録したものという設定でインスタレーションをしていました。

圡田:今回のテーマとだいぶ近いというか…

菊池:近いかもしれないですね

圡田:結局自分とは何かを考えるっていのは共通してそうですね。

菊池:(笑)そうですね。言われて気づいた。(笑)

圡田:菊池さんは普段から何か作っている人という印象なのですが、普段はどういうことを考えて作っているんですか? 

菊池:私の場合はものを作る時に考えるというよりは、作るより先に考えるっていうのが自分の中にはあってずっと何かを考えてます。
その考えに対してものが出来上がっていく感じなのでこれは多分、私の思考の断片というかメモみたいなもので、それを作りながら今回は展示するという形です。

圡田:では場所が変わるとできるものも変わりますか?

菊池:そうですね。公開制作で人と接しているので、考え方に影響は出てくるかなと思います。

圡田:最後に、どんな人に作品を見てもらいたいですか?

菊池:日常と近いものを作っているので、普段道を歩いていて気になるものがあると気になって足を止める人とかは、自分で繋がる部分がある気がしています。そういう人たちにどんな風に感じてもらえるのかというのは気になるところです。

圡田:菊池さんは芸術工事中や山形ビエンナーレのスタッフとして活動していますし、地域のアートイベントに興味があると思うんですけど、今回の芸術工事中に期待していること、楽しみなことはありますか?

菊池:芸術工事中を見てくれた人、たぶん主に地域に人になると思うんですけど、普段とちょっと違うものが駅前に現れて、それが終わってしまっても見てくれた人の中で何かがいつもの風景と違って見えるような現象が起きたらすごいかなと思います。


次回は『絵しりとり』さんにお話を伺います!