見出し画像

旅の話.48 スエズ

ポート・サイドを出発し、スエズを目指す。

YHを出て歩いていると、カフェでチャイを飲んでいたおじいさんが話しかけてきた。軽い会話のあと「何か手伝う事はないか?」と聞いてくれるので、バスターミナルへ行きたいと伝えると、タクシーをつかまえてくれた。
値段も交渉してくれて1.5£Eで行ってくれた。
この街では、明るく親切な人が多く、カイロで心に負った傷が癒された。

バスターミナルに着くと、別のタクシーやビジョー(乗り合いタクシー)の運転手が集まってきて、やいのやいのうるさい。
バスの切符売場はどこか聞いても、誰も教えてくれない。
スエズへ行くなら、まずイスマァレーヤって街まで出ないといけないが、イスマァレーヤ行きのバスは無いと言う。
僕はタクシードライバーの言うことは信じたくない。

しかし、調べてみると本当に無かった。
鉄道の駅まで行かないといけなくなったので、しかたなくタクシーに乗った。そして、まわりに何もない駅で2~3時間待った。

やっと来た列車に乗込む。
その車両には、ポート・ファードで海外製品などを大量に買込んだ帰りの大家族が乗っていた。
僕を見つけて大興奮し、輪の中にぐいぐい引張り込まれた。
みんな一斉に話しかけてくるが、アラビア語だから全くわからない。
一人だけ英語のわかる人がいたので、その人を通訳にしばらく話をした。
みんなの興奮が冷め、話題も特になくなってからが気まずい。
イスマァレーヤに着いて、僕が降りる時に、みかんをくれた。

スエズ行きの列車はすぐに出発すると言うので結構あせったが、全然「すぐ」じゃなかった。いつ出発するのかなぁと、待っていると。窓の外から3人組みの若者から「スエズへ行くのか?」と声をかけられた。
「Yes」と答えると、「イヤッホーーーーー!!」ってテンションで飛び乗って来た。4人用ボックス席に一緒に座り、ずーっと喋っていた。あまりに興奮してうるさいので、車掌に注意されてしまった。

スエズ行きの列車の最後尾の車両は、連結部分の扉が開きっぱなしで、まっすぐな線路がずーっと見えていて面白かった。

くたくたに疲れた頃、列車はスエズに着いた。
スエズ湾の北端、スエズ運河の始まりの街だ。
おそらく全世界の社会科の教科書に、その名前は載っている。
有名な街の名前に比例せず、地味な街だった。

3人組みの若者の内、一人はサッカー選手だそうだ。
たしかにいい体格をしているし、太ももがすごく太い。
「一緒に食事をしようよ」と誘ってくれたので、快諾した。
ビジョーに乗って向かった先は、小さなスタジアムだった。
ここで食事するの?と思ったら、練習試合がはじまった。
3人は試合を見ながら大声を出したり、何かぶつぶつ言ったりしている。
あれ?食事は?と、思ったけど、もしかして試合の後って言ったのを聞き逃していたのかも知れない。

しばらくして「じゃ、行こうか」と立ち上がり、ビジョーに乗って街へ。
もう結構な夜。お腹ぺこぺこだった。しかし、彼らは
「この辺に安いホテルがあるから、じゃあねバイバイ!」と言って、僕を降ろしてどこかへ行ってしまった。
この訳の分からなさには、なかなか慣れる事ができない。
説明くらいしてくれよ、と思った。

近くにあったホワイトハウスというホテルにチェックインした。
一泊48£E(1400円程)だった。ベッドの寝心地は抜群だった。
1階のレストランで、本当はもう営業時間は終了しているけど特別にOKって事で食事ができた。高かったけど。

つづく


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?