いただきます。が言える人に嫉妬した話

その日は丸亀製麺で昼食を取っていました。

テーブル席の奥で
天ぷらに塩を振って
1人黙々とかけうどんを食べていたところ、

目線の先にあるカウンター席に
1人の大学生くらいの
若い女性が腰掛けました。

ほぼ後ろ姿なので見た目はあんまり覚えていませんが、
どこにでもいる普通の女性です。

ふと、様子を見ていると
彼女は割り箸を取ったら一度手元に置き、
そっと手を合わせて軽くお辞儀をするのです。

(いただきます。)

僕は驚愕しました。

誰も見てないし、慌ただしい昼食で、
しかも1人で食べているその人は
己の信念と良心、幼少期の指導に基づき

(いただきます。)
をしています。

僕はその所作を目撃して
一口目でヤケドするような劣等感を
ひとり味わっていたのでした。



道ばたの花を見て「あら素敵。」と
思い焦がれる人など絶滅危惧種でしょうが、
僕はそういう人に嫉妬します。

小さなことができる人は
小さなことから幸せを見つけられる人です。

食べるものや生産者などへの感謝の気持ちを表す
(いただきます。)ができる人は
童心の喜びを忘れない純粋な人です。

何気ないところに幸せを感じられる
その人の感受性の豊かさに
僕はハンカチを引き裂くような憧れを抱くのです。

「あっ!茶柱だ!」

と全力で喜んでみたいです。

誰も見てないのに
(まあ茶柱ってだけだよね。)
と斜に構えてしまう自分を
熱々のお茶で戒めたくなります。

誰もやっていないからと
(いただきます。)
をしないで平然としている自分を
カラカラに揚げてやりたくなります。



たくさんのお金と、たくさんの人に囲まれて
ベンツや旅行や美女を囲うような生活は
わかりやすいラベルが貼られた幸せです。

「これが!し・あ・わ・せです!」

と前にのしのし迫ってくる”肉食系幸せ”です。

わかりやすいので、見つけやすいです。
誰にでもわかる幸せです。
皮肉るわけではなく、
それくらいポピュラーってこと。

それをすべて手に入れたとしても
道ばたの花に「素敵!」と思える
青々とした感受性つまり
”草食系幸せ”は忘れないでいたいものです。



肉食系幸せは追いかけてツメやキバで
捕まえないと取れません。
「勝ち取れ!」「つかみとれ!」「恋人をゲット!」
自分で動いて得られるものです。

草食系幸せは視野を広げて見渡せば
辺り一面に生えていたりします。
すでにそこにある、ありふれたもので
幸せと感じるかどうかは人それぞれです。

恋人を作るまでは肉食っぽく、
その後の結婚生活などは草食っぽい。

野菜が食べられない人は
いつも腹ペコなんだと思います。
幸せに飢えている。



丸亀製麺で出会った女性は
草食系幸せを感じられやすい人だと思います。
僕が勝手にそう思っているだけです。
声をかけていないのでLINEも当然知りません。

足元の幸せを感じられる人と一緒にいたら
毎日朗らかに生きられそうですよね。

やっぱり声をかければ良かった。

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