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この国のカンナビノイドのゆくえ

この原稿は、CBD部主催の「CBDアドベントカレンダー2023」に参加しています

大麻取締法の改正がはじまる。来年中には施行されるだろう。今回の改正の大きなポイントは、医療利用の合法化、THC濃度による取扱規制、そして使用罪の導入だ。使用罪については、僕は反対ではあるが、法改正へと動き出した点については評価したい。
海外の法改正のプロセスをみると、医療利用の規制を緩和し、社会が大麻について一定の理解をしめした時点から、嗜好用の緩和が始まる。カリフォルニアもカナダも、試行錯誤の上にいまがある。EUやオーストラリアも同様だ。
規制が緩和されると、多くの国民は医療大麻がどこでどのように享受できるのかを探し始める。しかし、当初は十分に治療を享受できる状況ではない。国によっては、正規の大麻治療よりもストリートで購入した方が安価であるために混乱が生じることもあった。日本でも、同様の事態は起こりうるだろう。その中で大いに注目されるのがCBDである。
CBDが世界的に使われるようになった背景には、米国の大麻合法化のアクティビストたちによる活動がある。その代表格がProject CBDだ。彼らは、医療大麻の合法化に向けて、意識変容作用のあるTHCの効果を抑えるとともに優れた薬効を持つCBDに注目し、これを広め認識させることで大麻合法化を促進する作戦をとった。結果的に欧米ではグリーンラッシュが起こり、現在に至る。大麻草そのものを知っている社会だからこそ起こりえた現象だろう。あれから10年近くの歳月が過ぎ、世界の大麻情勢は大きく変化した。そして、アジアではタイが合法化され、日本もいよいよ法改正を迎える。しかし、欧米で巻き起こった規模のグリーンラッシュは日本でも起こるだろうか。残念ながら、それはNOだろう。なぜならば、日本社会が大麻草についての十分な知識を持ち得ていないからだ。そしてそれは、自国での大麻草の科学的な検証を何もしてこなかったからだと僕は思う。規制緩和による経済的なことばかりに注目が集まっている側面もある。

最近はCBD以外にも「レアカンナビノイド」が注目されている。大麻の薬効成分をカンナビノイドとよぶ。その主たるものがTHCとCBDだ。カンナビノイド自体は200種類以上あるといわれているが、すべては未だ解明されていない。その中の希少なカンナビノイドをレアカンナビノイドと呼ぶ。代表的なものには、CBNやCBGなどがある。一方、HHCなど、カンナビノイドの化学式をもとに作られたものも存在する。当初はこれらもレアカンナビノイドと呼ばれていたが、大量に流通していることから、そのほとんどが合成カンナビノイドであると厚生省麻薬取締部は認識している。そのため現在では、合成あるいは半合成カンナビノイドと呼ばれており、CBNやCBGなどのレアカンナビノイドとは区別されている。そしてすでに、HHCと合成カンナビノイドのTHC-Oは別の法律で規制されており、この動きは、今後も加速すると思われる。
僕は、これらの精神作用を誘発する合成カンナビノイドを悪だとは思わない。根本的な問題は、大麻取締法による厳しすぎる刑量にあると思っている。致死量がなく安全な薬草である大麻草を、公正なルールのもとで扱えば、多くの問題が解決するはずだ。

僕はHHCなどの合成カンナビノイドを吸ったことがある。HHCについていえば、夢中になって数日間でベープを空にしてしまったほどだ。しかしその体感は、残念ながら大麻草に含まれるTHCやその他の薬効成分によるアントラージュ効果の比ではなかった。THCの精神作用よりは低く、身体的な作用の方が強かったように僕には感じた。それと共にある疑問が生じた。
「本来は微量に含まれているレアカンナビノイドや合成カンナビノイドを大量摂取すると、どういう作用が起きるのか」
「この製品を、誰がどのように作っているのか」
この不安に対する僕の結論は、合成カンナビノイド供給者は、ユーザーに対して、今以上のしっかりとしたガイダンスを行うことが重要だということだ。成分表示や製造元を明らかにすることは勿論、接種方法についてのガイダンスも必要である。大麻草を少しでも知ってほしいという思いで、合成カンナビノイドを製造販売しているひとたちがいることも知っている。しかし、合成といえどもカンナビノイドである。セットとセッティングについては、場合によっては大麻草以上にユーザーに伝える必要があるだろう。少なくとも、大麻草についての正しい理解と、奇妙な言い方に聞こえるかもしれないが、この植物への尊敬の念ももって接してほしいと感じている。これからますますスポットライトが当たるであろうCBDについても同様だ。なぜ世界中でグリーンラッシュが起きたのか。その要因は経済問題だけではなく、大麻草そのものが内包する歴史や文化背景にあるのだ。
CBDや合成カンナビノイドによるビジネスで成功することを、僕は否定しない。多くの利益を上げているひともいるだろう。だとするならば販売者は、ユーザーが安全に使用するための知識と技術の伝達方法を、さらに確立する必要がある。これは供給する側の大きな責任だ。そしてこれは、合成カンナビノイドだけではなく、CBDや医療大麻そのものについてもいえるだろう。
産業、伝統、医療、CBD、THC。これらはすべて大麻草だ。合成カンナビノイドにしても、大麻成分をもとにしているものである。これらが分断されることなく、それぞれが健全に存在していくことを僕は望む。自分で考え、正しきは取り入れ、おかしなルールは改めることができるのが、健全な社会だ。
主権は僕たちにあるということを、忘れてはならない。

*「レアカンナビノイド」と「合成カンナビノイド」の区別が曖昧だとのご指摘を受けましたので、一部加筆修正しました。

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