自撮り論

 この世の中から全ての、人間の手による絵画が消失する時は、きっと全ての人が自撮りをする時にAI補正だけを使う時だろう。自分がどう見えて、どうなったら満足かというのは病的かつ個人的な問題である。そしてそれは人間の心とさして変わりはない。
 人間が滅びるとするなら、他人より自分の方が美しく見えるという病が流行りきることによって起きるだろう。鏡によってもたらされた革命はスマートフォンのインカメが、フォトショップが、写りのいい角度がそれを終わらす。絶滅という形で。その病は恋に次ぐ、世界で二番目に美しい病として流行り始める。それは粗悪品だが、ファッションにしたってドラッグにしたって病にしたって、粗悪品ほど出回るものだ。一番目を知ることもなく人々は滅び、恋人に向けるべき笑顔でインカメに向かって笑い続けるだろう。不幸にも世界で二番目に美しい病を知らず、幸いにして世界で一番目に美しい病を知る我々。の中で僕だけがインカメに向かってけたたましく笑い、絶滅しかけている。

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