見出し画像

鳥コンがすべてじゃない! 「人間が空を飛ぶ」ロマンに魅せられて 

名古屋大学 人力飛行機製作サークル「AirCraft」

 今回紹介するのは、人力飛行機製作サークル「AirCraft」。今年は、目標としてきた「鳥人間コンテスト(鳥コン)」の書類選考で落選。メンバーは茫然自失の中も、「来年へつなげる機体づくり」を新たな目標に据え、テスト飛行を重ねてきました。岐阜県高山市の飛騨エアパークで8月5日に実施した今期の最終飛行は見事成功!OBや他大学の“鳥人間”たちが見守る中、有終の美を飾りました。

優雅に、しなやかに、力強く――「過去イチきれいなフライト」

 朝日が昇り始めた静寂の滑走路で、人力飛行機のプロペラが回転数を上げていく。サポート役メンバーの力を借りてスピードを上げた機体が、音もなく「ふわり」と宙に浮かんだ。大きく広げた翼がしなやかなカーブを描き、滑るように空中を進んでいく。滑走路の終わりまで飛び切った今期の最終飛行は「過去で一番きれいなフライト」だった。

名大AirCraft-飛騨エアパーク
夜明けとともに離陸する名大機「Arcturus」

 人間が動力を使わず空を飛ぶ――。このロマンを追い求めて人力飛行機を製作する全国の大学や社会人チームが飛行距離を競い合う「鳥人間コンテスト(鳥コン)」。名大は毎年のように名を連ねる常連校だが、今年の出場はかなわなかった。
 代表の高見晃平さん(工学部3年)は「メンバーは皆、目標を失って茫然自失となりましたが、来年につなげる機体づくりという新たな目標に切り替えて前を向き、機体の製作を進めてきました」と振り返る。

東山キャンパスの部室にてフライト前日の決起
壁一面に貼られた先代の機体図や写真が歴史を語る

お家芸の「スピード」生かし、どんな風でも飛ぶ機体目指す

 名大は代々、スピードの速い機体を“お家芸”とし、鳥コンのタイムトライアル部門で複数回優勝した実績を誇る。しかし同部門がなくなった近年、飛行距離での勝負を念頭に置いた機体を試行錯誤して製作している状況だ。
 今期のテーマは「小型の高速機」。設計を担当する森本智仁さん(工学部3年)は「一番大切なのはコンセプト。軽い機体で距離を延ばすチームが多い中、名大は軽さだけでなく、どんな天候でも安定して進む機体にこだわっています」と胸を張る。

滞空時間は約1分間。滑走路長800mを悠々と飛び切った

150人旅客機に匹敵する大きな翼に集約された技術

 カーボンやバルサなどの軽量材を駆使した機体といえど、パイロットを含めた重量は114kgに及ぶ。これを空に浮かべるための鍵を握るのが、大きく丈夫でしなやかな翼だ。左右に広げた翼の幅は30m。両翼の長さは150人乗り旅客機、ボーイング737にも匹敵する迫力のスケールだ。
 安定飛行を目指した制御装置にもこだわりがある。名大は、多くのチームが採用する水平と垂直の2方向のかじ取りに加え、傾きを制御する「エルロン」を主翼に装備し、3方向での姿勢維持を可能にしている。森本さんは「どんな風が来ても5kmは飛びたい」と力を込める。

機首の正面にプロペラを取り付けているのが名大機の特徴
フライト前日から夜を徹して作業するメンバー

全国から駆け付けたライバルチーム=同志が熱い視線

 この日の最終フライトには現部18人とOB8人のほか、東京理科大、帝京大、日本大、名工大、豊田工業大、大阪大や社会人の9チーム20人が駆け付けた。その中には、鳥コン最長飛行記録を持つ“レジェンド”の姿もあった。
 高見さんは「ツイッターで告知したらこんなに来てくれて驚きました。鳥コンに出ないのに10回もテスト飛行を重ねてきたのはうちぐらい。地道な活動が注目してもらえたのかも」と喜んだ。
 千葉県から駆け付けた東京理科大1年生の2人は「コロナ禍でメンバーがそろわず技術を継承できず困っていて参考に」と話し、テスト飛行から作業の進め方まで食い入るように見詰めていた。
 愛知県の豊田工業大学は現役生とOBの4人で参加。現在は活動が途切れてしまっているとのことで「何とか復活させたい。とても刺激になりました!」と、決意を新たにしていた。

OBや他大学、社会人チームのメンバーが見守る
ライバルの垣根を越え、人力飛行機を愛するメンバーが集結

 理学部3年生の飯田優実さんは「大学で分子を作りたいと思っていて、課外活動では逆に大きなものを作ってみたかった」と入部。男子メンバーの中の紅一点で奮闘してきた。「活動がすごく楽しくて、ぜひ女の子にも入ってほしい!重労働もあって大変だけど」と笑った。
 パイロットを務めた高野隼也人さん(工学部3年)は、機体製作に関わりながら自転車のトレーニングに励んできた。「鳥コンには出られませんでしたが、テストフライトを何度も重ね、みんなで飛ばしているんだ!という実感が得られました」と手ごたえを感じている。入学時のサークル勧誘で「先輩が輝いて見えた」と入部し、あっという間の3年間。「もう乗ることはないのか~」と、寂しそうに笑顔でつぶやいた。

23代メンバー8人。来年につなげる飛行機づくりに没頭した日々だった

【リンク】

名古屋大学 公式ホームページ

名古屋大学 公式 X

名古屋大学 公式Facebook