見出し画像

豊潤なり厳島神社 宮島その3 イイ・ヤシロ・チ㊵

たまたま小耳にはさんだ、大鳥居の修復工事の完了と、海の干満を気にせずに工事通路を通り大鳥居を潜って見学できるチャンスが2022年の11月にあるというニュース。気の置けない友人に「宮島泊りで大鳥居を潜りませんか?」とお誘いしてみた。

ノリの良い我が旅友は、「仕事も休まなきゃいけないタイミングだから、オッケー!」と即答くれたので、早速宿の手配に取り掛かる。ナントカ割で繁忙期のはずだが、素泊まり二名の宿がリーズナブルなお値段ですんなりとネット予約完了となった。

休日前とはいえ、当日まで2週間を切る時点でも、こうしてサクサクと整う参拝旅。「あー、喚ばれている(誰に?)」と、確信。雨模様と予報されていても、きっと(いつもどおり)よい塩梅になるだろうと、晴れ女二人は極めて楽観して、いそいそと準備に取り掛かった。

これまで厳島神社にはそれぞれが別々に1度、ごく一般的な観光旅行として参拝している。二度目の今回、生きながらえて、アレコレと経験値を積んできたわたくしたちは、五十路おみなの「やじきたパワー」全開で、イヤシロチ宮島召喚に応じたいと願う。

前日の弥山登拝と予定外の千畳閣昇殿はどうにか雨は降られずにすんだけれど、翌日の宮島二日目は、天気予報どおりの雨だった。

親切なお宿に荷物を預けて、朝早くチェックアウト。波音も穏やかな海辺の参道を身軽に歩いて、秋雨煙る厳島神社に段々と近づいていく。「今日は紅葉シーズン真っ只中の休日だから、雨の方がかえって人が少なくて良いかもね」と二人は相変わらずお気楽モードである。

この日は、満潮が9時頃らしく、水位が徐々に上がって厳島神社は水に浮かぶ神殿と化していく。わたくしたちが開門直ぐの受付に到着すると同時に、生の篳篥の音色が流れてきた。篳篥については、東儀秀樹さんの解説が素晴らしい。↓こちらの動画の最初と最後にある演奏には、篳篥のとても妖美な響きに魅入られてしまう。いかがであろうか。

ただ、この時、わたくしの耳に届いた篳篥の音は、洋楽器のラッパのような「パンパカパーン」というファンファーレに聞こえてしまい、クスッと笑ってしまった。神様からの歓迎の徴とありがたく受け止め、拝観料を支払い、屋内へと進む。

厳島神社の構造は、廻廊を七折しながらそれぞれの拝殿に向かうようになっている。廻廊からの景色は、どこを眺めても美しく見える設計に舌を巻く。さすが世界遺産である。満潮時では水に浮かぶ夢殿の様相を示し、干潮時には回廊から三か所の鏡の池が見られるなどの施された呪術を見つけるマジカルなお楽しみもあるようだ。

この青線のとおりに拝観した

次回の宮島旅の機会には是非とも干潮時の参拝を目指してみたいと考えた。

入口から廻廊に入って右手に平舞台を望む

さて、早朝の社殿の中には、他に人がほとんどいなかった。神職や巫女さん、清掃等それぞれの御役目を果たされる方々と「おはようございます」とご挨拶しながら行き交う。神の社に人の仔の活気が少しずつ、海と同様に段々と満ちていく。空と海の両方からの水分が豊潤に漂う空間に、まるで水の底にいるような錯覚を覚えてしまう。気を抜くと溺れてしまいそうだと、少し緊張しながら、歩みを進めていく。

清々しい祓殿

本日の第一の目的は大改修された大鳥居が水に浮かんだままに潜る(くぐる?もぐる?)こと。見学受付開始までに厳島神社をゆっくりと参拝しようという心づもりである。奇しくも本日は大潮の日で潮位もマックス。工事通路が取り外されれば、徒歩では干潮時しか鳥居に近づけない。珍しい好機に恵まれ、有難い。まずは、祓殿で祓え串を手に海に向かって自祓いで浄め、聖域に進む

映る社殿の影が揺蕩う水面

雨空なのに、空気は冷たくはない。むしろ温かな慈雨が社全体を湿潤に包み込んでいる。濡れることも傘をさすこともなく、廻廊を歩く。軒先から海に落ちる雨垂れがリズミカルな小さな音を立てていて、波音と重なって心地よい。水面に紅葉が集まった花筏ならぬ紅葉筏と、可愛いらしい水鳥が浮かんでいるのも風情豊か。雨の朝のしっとりとした空気がすこぶる趣深く、あわただしくなりがちな時間帯であっても、かえって落ち着いた朝の雰囲気を醸し出していた。

前日訪れた千畳閣と水鳥たち
黄色葉の筏が次々と過ぎゆく長橋

この美麗な神殿の心臓部とも言える、本殿はこれまで参拝してきた中でも抜きん出た美しさだった。しかも、入口から此処にたどり着くまでも十二分に美観に出逢っていたのにも関わらず、見惚れてしまうほどに。女神の威容誇る聖処である。その空気をじっくりと体感するには、人の少ない時間帯に訪うことをお勧めしたい。

麗しい本殿に誰もが魅了される

本殿において心を込めて祈った後は、授与所で御籤を引いてみる。「今のわたくしに最も必要なお言葉を」と強く願うと、百点満点を頂いたような大吉。確かに現在、実家の総領娘の任務中。女神様からの叱咤激励として、謹んで拝受。

抽斗最後の40番大吉

白をカシと読むのも意味深な気がするけれど、今日は別途の目標を控えているので、妄想はお預けである。

次に、平舞台の左右の岩窓神、大国神社、天神社と参拝しながら、建築美と空から、海からの水の絶妙なアンサンブルを満喫して、社殿を退出。いよいよ、メインの大鳥居である。

9時見学開始とのリサーチだったので、8時半ごろに現地に到着すると、既に数十人の列が出来ていた。屋根もないここで傘をさして二人で並ぶ。が、神職の方がやってこられ、「本日は休日のために混雑が予想されますので、時間よりも早く見学を開始します。立ち止まらずゆっくりと歩いてください。」とアナウンスがあり、ほとんど待たずにゲートが開く。しかも、何故か、ほぼ同時に雨がぴたりと止んでしまった。皆、傘をたたみ、小柄なわたくしたちにとって、前を進む方々の傘がないことがどれほど助かるか、と心の中で「神恩感謝!」と小躍りした。
  

大迫力の両部鳥居に空海の気配
島木のこちら側は月のマーク。対には太陽と聞く

大規模な修繕工事の行程も、受付待ちの場所横にパネル展示されていた。少し学習できたところで見学できたのもグッドタイミング。現代のような機材もない昔の、匠の技術力の高さに驚かされる。

こうして、念願の大鳥居くぐりも無事達成となった。有難き神計らい、イヤシロチ旅はコレだからやめられない。

吊るされた灯ろうが春日大社、藤原氏を想起させる

振り返るに、厳島神社のあちらこちらに遺る、古代の女王、空海、平家、秀吉、藤原氏らの片鱗がまた気にかかる、わたくしである。栄枯盛衰、寿命のある人の仔らは遷り変われど、イヤシロチを包む海と空と水はそれぞれのリズムをたゆまず刻んでいることに、心が動く。
そして、今こうして厳島神社参拝を無事終えて、一庶民のわたくしが、友人と連れ立って間近に参拝できる世情と平和の有難さを、つくづくと思ったことである。


最後までお読みくださり、ありがとうございます。和風慶雲。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?