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Li et al. (2021) のレヴュー: コロケーションの強さに関する視線計測研究

タイトルにある通り,コロケーションの強さと読解中の処理の関係に興味があり,以下の論文を読んだ。

Li, H., Warrington, K. L., Pagán, A., Paterson, K. B., & Wang, X. (2021). Independent effects of collocation strength and contextual predictability on eye movements in reading. Language, Cognition and Neuroscience, 1-9. https://doi.org/10.1080/23273798.2021.1922726

背景

コロケーションの処理は読解研究でも古くから行われてきたが,特にこの研究ではコロケーションの頻度が重要な要因となっている。単純な出現頻度 (phrasal frequency) やmutual information (MI) が先行研究では頻度の指標として扱われており,Sonbul (2015) ではこれらに基づく頻度が高いコロケーション (strong collocation) のほうが頻度の低いコロケーション (weak collocation) よりも読解時間が早くなることを視線計測によって実証している。

しかしながら,Frisson et al. (2005) では,コロケーションの処理はtransitional probabilitesに基づく頻度よりも,文脈に基づく単語の予測しやすさのほうが読解時間に影響することを示している。このことから,多くの先行研究で得られているコロケーションの頻度効果は実は文脈からの単語の予測しやすさに影響されているのではと疑問を呈し,この点を本研究で検討するとされている。

方法

実験には32名の英語母語話者が参加し,black coffee / bitter coffeeのような「形容詞+名詞」の強いコロケーションと弱いコロケーションのペアが48組用意された。これらのコロケーションの強さの違いはPhrasal frequencyとMIに基づいて確証され,単語の長さなども統制されている。

さらに,これらのコロケーションについて,例えばcoffeeを予測しやすい文脈と予測しにくい (neutral) 文脈の2種類を用意している。文脈の予測しやすさはクローズテストによって典型的に確認されている。

文脈の中で提示されたコロケーションの処理を視線計測により測定し,first-pass reading timeなど5つの視線計測指標を算出している(コロケーションに含まれる名詞単独の処理についても検討しているがここでは割愛)。これらの指標について,コロケーションの強さと予測しやすさを固定効果に含む混合効果モデルによる分析が行われた。

結果

分析の結果,コロケーションの強さ,文脈からの予測しやすさの双方が全ての視線計測指標に影響を与えていた。しかしながら,強さと予測しやすさの交互作用はなく,ベイズファクターによるモデル比較でも交互作用を含むモデルは支持されなかった。

これらのことから,コロケーションの強さ,文脈からの予測しやすさともにコロケーションの処理に影響を与えるものの,これらは相互に独立した影響であると結論づけられている。そのうえで,単語単独の頻度のみを考慮している既存の眼球運動モデルは,句単位での頻度も要因に加えたほうがいいのではないかという提案がなされている。

感想

コロケーションの強さという点で,もう少し深い議論がされるかなと思っていたが,単純なPhrasal frequencyと伝統的に使われてきたMIを指標としていたので,ちょっと期待していた内容とは違ったかなと思う(期待と違っていたというだけで,論文自体は面白かった)。コロケーションの強さについては,リーディングよりもライティング(もしくはスピーキング)研究のほうがいろいろ検討されているのかもしれない。


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