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アニメデジタル化黎明期のアニメ仕事-1996-1/3 綾波10000人編

『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 
Air/まごころを、君に』編
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祝『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』終劇の大団円


CONTENT
TITLE Jobs1996. 【新世紀エヴァンゲリオン劇場版 
Air/まごころを、君に】

2021年3月8日、コ口ナ禍で延びた公開がやっとなされた。
スタッフ及び関係者の皆様、お疲れ様でした。

エヴァンゲリオンの劇場版には、私も前世紀のいわゆるエヴァンゲリオン旧劇場版「Air / まごころを、君に」でCGパートのディレクターをさせていただいた。

1996年、まだアナログ全盛の世紀、IGのI川さんに国分寺に来てね、と言われて行くと。なんとエヴァ話。どこぞのバーカウンターで監督の話を聞いた。ざっと描いてくれたラフを見て内心凍った。どうしよう^ ^;

その時の主なミッションは、
•超大量同時表示キャラクターシーン。
•超大量同時表示の十字爆発墓標、光の粒。(フレア/透過光付き)
•超大量同時キャラクター(ただしこちらは文字)長尺のエンドロール。
さて、コンプリート出来るか?

Mission-01 綾波20000人

「メモリーが、メモリーがたりません!」

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今時(2021年)のコンピュータならメモリーはどれぐら積んでいるだろう。
グラフィックに特化したものなら高速のメモリーを大量に積み、ディスクも馬鹿でかい高速のSSDさえ予算が選べれば選択は可能な時代である。

時に1996年、社内にあったsilicon graphics社のグラフィックワークステーション IRIS CRIMSONですら256MBだったと記憶する。

作成内容は綾波がLCLの海の中を群れ?で泳いでいくシーン。ただし数が半端ない。イワシの群れか!というような数である。推定1万人。
作業は、綾波レイの上半身胸像を造形してもらい(返却済み^ ^;)、3DSCANしたデータに(もちろん人の手で修正)、他の体の部分をモデリングして3D綾波が完成、原画マンに描いてもらった、綾波泳ぎの動画をもとに、モーションを付けた。美しく3D化した綾波が泳いでいる。
3D動きのOKは出たが、問題はそこからである。

まともにやっていたら勝負にならないのは最初から分かっていた。ポリゴンをいくら減らしても、最低限の見栄えが許される数は割と大きい。それが約10000体!
やる前から分かってはいたがテストをした結果。
「メモリーが足りません!オブジェクトの形が維持できません!!」と声優さんの絶叫付きの悲鳴が聞こえるような結果となった。そりゃそうだ。

「スプライト」、その呪文の言葉がいつ湧いて出たのかよく覚えていないが、担当チーフアニメーターの〇藤氏と打開策を話し合っているうちに具体化してきた、後で思えば先駈けなるようなことは、PATLABOR2の冒頭のPKOシーンでモニター内兵士の描画に使っていた。その時はもっと単純な使い方ではあったが…

当時、使用していたソフトウエアの一つがHoudiniの前身のPRISMSである。SOP – Surface Operators – というものがあり、これはプロシージャルモデリング,オブジェクトをポリゴン単位で関数コントロールすることが出来た。

モデリングした3Dオブジェを多数配置してレンダリングするのではなく、事前に用意して置いたテクスチャーを1ポリゴンの板に張り込んでスプライトとしてこれをコントロールする。

まず、望遠レンズの綾波のアニメーションをワンサイクル分(足カキ一回分)を一つの単位として作成する。確か2K(コマ)か3K撮りで1秒分、12枚
それをY回転1度ずつ360(実際は必要分だけ作った気も)度分作成する360x12=4320枚の素材平面画を用意した。(数字は修正の可能性あり)

これをtextureとして1ポリゴンに張り込む。texture自体のサイズはそれほど大きくない。
turbulenceでパーティクルの流れを発生させ、ポイントをsopで拾ってポリゴンを置く、カメラとポイントの彼我の斜角等の諸元を計算させ、それに適合する的確なtextureをsopで判別させ貼り込む。

(どうゆうことかというと、タービュランスという大量の粒(座標)を発生して粒のアニメーションの流れをコントロールできるもので、それで綾波の大群が泳ぐ流れの座標だけのアニメーションを作る。その大群の中の個別の綾波の座標とカメラの位置からそれぞれが、カメラに対してどの角度で泳いでいるかを検出し、その座標に最小単位の□1枚の四角ポリゴンをカメラに対し正対して置き、先ほど検出した角度に事前に角度ごとに作っておいた泳ぐ綾波の絵から見合ったテクスチャーを選択させ張り込むという作業ができるのがSOPで、これを全フレーム繰り返す。)

これで見た目は大量の綾波が流れに群れて泳いでいるように見える。(簡単そうに言っているが諸処でチーフアニメーターに並々ならぬ苦労をかけた)

これだけ努力しても、当時のマシンにはかなりの負担で、冷や汗が出るほど時間がかかった。声優さんに「綾波が7割で、LCLが3割!」と叫んで欲しい。
 最大出現時の綾波の数、およそ2万!。よくぞ終わったものである。

文字通りマシンスペック的には、隔世の感の25年前である。

EOF_2021.3.19 Mission02へ続く


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